第二話①
ここは一体何処なのか、渦に飲み込まれた後直ぐに、俺は先程いた場所とは別の場所へと移動させられていた。
辺りは暗く何も見えず、この空間がどれ程の広さなのかすら分からない。
唯一わかるのは、妙にこの空間が暑いということ。
今の気候でこれ程まで暑い場所を俺は知らない為、この場所が何処なのか、推測する事も出来ない。
「い、いますかヒロさん……」
「あーいるよ…どうやら直ぐそばにな」
スズナの声を聞いて、ようやく俺は、渦に飲み込まれた俺たち2人ともがここへ飛ばされた事実を知る。
あの渦に2人同時に飲み込まれ、今同じ場所にいる事を考えると、俺たちが飲み込まれたあの渦の正体は、転移魔法か何かかもしれない。
体験した事はなく、噂程度で聞いたことがない力だが、特徴を考えるとそれしか浮かんでこないのだ。
対象をある特定の位置まで飛ばす事が出来る魔法、まさかそんな珍しいものが、ダンジョンに用意されているとは思いもしなかった。
「……ヒロさん。一体ここは何処なんでしょうか?」
「何処だかはわからない。ただ、あの扉を開けてここへ飛ばされたと言う事は、、」
俺は確信を持てずに、自分の考えを言葉にする事を躊躇う。
「飛ばされたと言う事は、何ですか?教えてください」
「……恐らくここは、ボスモンスターの住処だ。ダンジョン外で戦闘を行うようなボスの話を聞いた事はないが、あの扉の位置に、わざわざこのような場所に移動される魔法を設置してあると言うことは、そう言う事なのだと思う」
俺は自分なりの推理を話した。
「という事は……私たちが2人でボスと戦う事になるんですね…」
「いや、流石にそこまで無謀な事をするつもりはない。何とか逃げ道を……いや、そういうことか」
俺はここで転移された理由が分かった気がした。
本来、ボスがいる場所では撤退が可能とされている。
ボスはボスの部屋から出る事はなく、その場に止まり続ける為、危険を感じれば直ぐに扉を開いて、そこから出れば助かる事ができるのだ。
だが今回はそうはいかない。
肝心の扉がないところまで飛ばされたのだ。
つまり、ボスに移動もうとした俺たちをわざわざこんな場所に連れてきた理由は、逃げ場を無くす為だろう。
一度足を踏み入れたからには、どのような結果になろうと最後まで戦えと言った、メッセージなのかも知れない。
憶測でそのような結論がでたわけだが、俺はその事をスズナには伝えずにいた。
臆病な彼女にそんなことまで伝えて仕舞えば、きっとパニックになってしまうと思ったからだ。
ただ俺たちは2人で逸れないように、お互いの布が触れ合う位置に身を寄せていた。
距離が近いからか、スズナの呼吸が乱れているのがわかる。きっと俺の呼吸が乱れているのもバレてしまっているだろう。
それ程までに、この状況に対して恐怖し、緊張しているのだ。
すると少ししてから、ボンッと何かが弾けて燃えるような音が、突然聞こえ始めた。
恐る恐る音を辿ると、その音と同時に至るところに火が灯されていっているのがわかった。
1つ、また1つと紅色の灯火がついていく中で、部屋の全貌が見え始めた。
ここは未だ洞窟みたいだ。
だが先程いた場所とは色味が違う。
全体的に赤く、そしてところどころに蒸気が噴出している箇所がある。
「どうりで暑いと思ったんだ」
この地形を見るに、ここは地下深く、地上から遠く離れた場所のようだ。
これでは逃げることは難しそうだ。
俺はひとまず上を見上げた。
地下という事は、空に向かえばここから抜け出せるかもしれないと考えたからだ。
けれど、天井は小さな穴一つ無く塞がっており、抜け出す事は出来そうにない。
天井を崩せる事が出来るなら抜け出せるかもしれないが、俺たちでそれが可能なのかどうか。
「ヒロさんどうしますか?」
「そうだな…あそこまで、飛ぶ事はできるか?」
「そうですね……ヒロさんを抱えてとなると」
「流石に難しいか、すまないな無理を言ったみたいで」
そんな会話をしている最中、スズナは何かを見つけてしまったのか、怯えた顔を浮かべ始める。
まだはっきりとは見えない、部屋の中心部を指差しているのだ。
一体何を見たのかと俺はまだ後ろを振り向く事ができずに、スズナの方を見つめる。
「ヒロさん……あれ、、、」
そう言われると見るしかなくなってしまい、俺は指先を辿るように後ろを振り向いた。
そこには大きく寂れた鳥居と、その前には禍々しい鎧を纏った、ドス黒くそして巨大な化物が仁王立ちで立っていた。
鎧といっても西洋のものではない、鬼のような面を被り、武器も剣ではなく刀を腰につけている。
先程までは暗がりだった為見えていなかったが、まさかここまで大きな怪物がいるとは思っても見なかった。
「……そうか、やはり俺たちは地獄に落ちたみたいだな」
「受け入れたくはありませんが、ここはきっとリーダーが言っていた『地獄への門』ですね……まさか本当に遭遇するなんて」
辺りに広がる光景が、正しく地獄そのものだと実感する。
世界を救うための冒険をしていたというのに地獄に突き落とされるとは、皮肉なものだ。
怯えて体を動かす事すらままならないが、俺は諦める事なく、何とか勝ち筋を見つけようと相手の体を確認する。
どのような特徴があるのか、何か弱点はないのかなど、隅々まで見渡していると、不思議な点を見つける。
「……魔族の刻印がない。人形だが、魔獣なのか?」
魔のものは、魔獣と魔人、そして魔族に分類に分けされる。
魔獣はその名の通り獣であり、ダンジョンや森などで遭遇するものは殆どがそれだ。
そして魔人は人と同じ形であり、高い知能を持っている。
その中でも魔王軍に所属しているもの達を、魔族と呼んだ。
この世の9割以上は魔族に属しており、それぞれ魔族の刻印を見えやすい位置に押してある。
だがこいつは人の形をしているのに対して、その刻印が見当たらない。
ならば魔族に属さない魔人なのだろうか、いや、ダンジョンを支配する魔人を、魔族が見逃すとは考えにくい、そうなるとやはり、こいつは人の見た目をしていながらも、獣であるという事になる。
そんな異質な存在に俺は身を震わせていると、そのドス黒い化け物は、ゆっくりと腰にあった刀を取り出し始めた。
何をするのかと身構えていると、それをゆっくりと、まるで騎士のように構え始めたのだ。
「嘘……」
「避けるぞ!!」
途端に相手は刀を振り上げて、俺たちがいた位置に大ぶりの攻撃を仕掛けてきた。
即座にその場から離れたから良かったものの、あの場に止まっていれば、既に形も残らず殺されていただろう。
地面は避けて壁は抉れ、この場所を崩壊されるかのような程の大規模の攻撃、これは果たして相手にとって、渾身の一撃として放ったものであっているのだろうか。
もしも、手始めに軽い素振りをしたら程度の感覚で振るったのが今の技なのであれば、俺たちに勝ち目はない。
やはり俺たちは戦うのではなく、何としてでも逃げる術を探さなくてはいけないみたいだ。