第十二話③
「悪いことは言わん、やめておけ」
「……何の話だ?」
「にいちゃん、魔族と戦うだとか言い出すつもりじゃろ? 無理な話じゃ、やめておけ」
俺の考えを見透かしたかのように、ご老人は俺の考えを当てたのち、それを一蹴するかのように否定する。
「……何故だ。助けて欲しいとは思わないのか? この村の者たちが苦労しているのは、魔族の仕業なのだろ?」
「そうじゃな……皆、魔族への貢物の為に命を削って働いておる。今日ニナが持って帰ってきてくれた野菜も、貢物が足りないわしらの為に、上のものが用意してくれたものなんじゃ」
だからあれらは食卓には並ばずに、他の場所へと移したというわけか。
なるほどと理解するのと同時に、やはりご老人が助けを求めない理由がわからなくなった。
「ならば尚のこと力を貸したい。貴方もそうだが、ニナのような子供が苦労しているのは俺にとっても苦痛だ」
「そう言ってくれるのは有り難いが、やめてくれ。ワシらとしても、もう助けは必要とはしておらん」
「……それは何故だ?」
「……今まで何人もの勇敢な者たちが、ワシらの為にと立ち上がり、魔族へと挑んでくれた。だがその誰1人として、帰ってくる者はおらんかった。人助けの為に命を投げ打つような善人が、死んでいく様はもう見たくはないんじゃ」
自分たちを助ける為に傷つくものを見たくないと言った、絵に描いたような善人としての行いであり、それと同時に全てを諦めた者の特徴に似ていた。
自分たちの不幸せを他人にまで移す理由はないと言った、これ以上不幸になる者が増える事のない事実を踏まえた、一見賢い判断に見えて、誰1人として幸せになる事のない悲しい思考だ。
だがそのような考えをしてしまうのも無理はない。 彼らは希望の光を魔族に奪われてしまっている。
それを少しでも取り返し、彼らに希望を思い出して貰わなければきっとこの先もずっと、この村の者達は不幸なままなのだろう。
「……俺の力では魔族を滅ぼすことは出来ない。だが、せめて数を減らすことは出来る」
「……だがその果てに待っているのは、お前という尊き命が奪われた、悲しい惨状だけじゃ」
「俺は死なない。死なずに魔族に打撃を与えてやる……そして、お前らに希望を思い出させてやる」
俺とご老人はじっと何も言わずに、睨み合うようにして目を合わせた後、ため息を吐いてご老人は話を始めた。
「……明日じゃ、明日の昼頃にこの村を支配している『ルビニスター』がやってくる。一度そやつを直で見てみるといい、ワシの言っていることが分かるはずじゃ」
――
その会話を最後に、話は打ち止めとなった。
ご老人としては、俺に戦って欲しいとは思っていないみたいだ。その中であのような提案をしてきたという事は、余程の者なのだろうか。
「『ルビニスター』か……」
俺は明日に備えて宿を出て、村を事細かに見て回った。
何かあった時に、有意に動く為には戦いのフィールドになる可能性のある場所を把握しておかなければならない。
今回に関しては、別にここで戦うつもりがない為そこまで重要ではないのだが、素早く身を隠したりだとか、離れた場所からでも観察できるようにと、俺は万が一に備えて朝まで村の調べを続けた。




