第十話②
早速宿へと案内されて歩き始めたが、宿なんてものは辺りにただの1つも見当たらない。
寧ろ先に進むにつれて廃れた建物が増えていき、それと同時に不安も積もっていった。
「長い事歩かせて悪かったの、ようやく着いたわい。ここがうちの宿じゃ」
そう言われた先に立っていたのは、明らかと言っていいほど宿ではない、ただの一件の平屋だった。
築何年かもわからない、木造で出来た古びた建物だが…俺はここに泊まるのか。
誰かの家に転がり込むようであまり気が進まない。
けれど一度泊まると言ってしまった以上、一泊程度は泊まって置かなければと思い、渋々部屋へと入ることにした。
「そういえば聞き忘れていたが、料金はいくらだ?」
「あー料金か……えーとそうじゃな……5万銀貨でどうかの?」
宿としては破格だ。通常は安くても1万ゴールド程は宿ならばかかってしまう、その半額となればかなりお手頃な価格だろう。
半ば強引に宿泊を促して来ていた為、もしかしたら宿泊設備に似つかない金額を提示されるのではとも思っていたが、そこは謙虚らしい。
よくわからないご老人だ。
宿の中は外装とのギャップを少しも感じさせない状態で、所かしこに破損やカビがなどが見られる、あまり泊まる事に前向きになれない空間となっている。
部屋は居間を抜いて3つほどある事がわかるが、その内の2部屋はドアが閉められていて中が見えない。
「ささ、にいちゃんには1番綺麗な部屋を貸してやるからな。ここに入んな」
そう言って案内された部屋に素直に向かうと、その隣の部屋から視線を感じ始めた。
見てみると襖の隙間から、じっと俺を見つめる誰かの姿があったのだ。
正直最初はお化けか何かかもしれないと慌ててしまったが、よく見れば単なる子供である事がわかった。
観察するかのように見ていた彼女だが、目が合うとすぐさま襖を閉じてしまった。
子供なのだから人見知りなのかとも思ったが、よく考えて見れば家に知らない人間が泊まりにくるというのは、あまり嬉しいものでもないのだろう。
「その子はわしの孫ですよ。両親が出払ってるもんで、わしが代わりに面倒を見てるんです」
俺がじっと隣の部屋を見ていたからか、ご老人はそのように彼女について話してくれた。
親子にしては年が離れ過ぎていると思ったが、そう言うことかと納得した。
この村の方達は忙しそうにしているが、子供の面倒を見れないほどとは、余程苦労しているのだな。
案内された部屋はご老人の言う通り、確かに綺麗な部屋ではあった。それは居間と比較しての話で、一般的な部屋としてみれば普通かそれ以外の状態であるのだが、この程度なら別に気にはならない。
ここに泊まると言っても、単に荷物を置いたりだとか、辺りの森などの様子を見に行く際の支度程度に使うだけだからな。
「それでは、ゆっくりしていってくだせぇ」
そう言ってご老人は襖をゆっくりと閉じた。
それでは早速荷物を置いて、村の外に魔獣か何かがいないか探しに行こうとするかと、俺は修行をする為に荷物を置いて部屋を出ようとした。
するとその瞬間に、ドアとは向かい側の窓が勢いよく開いた事に気がついた。
何がどうしたのかと後ろを振り向くと、先程隣の部屋から俺を覗き見ていた女の子が、窓から部屋に入って来ていたのだ。




