第十話①
「はいお兄さん、これ上げる! とっても似合ってるよ!」
「そうか……君は優しいな」
曇り空の下、太陽のような笑顔を向ける小さな少女に手作りの花冠を頭に被せてもらった。
綺麗に編み込まれているのもそうだが、どれも枯れていない綺麗なものばかりを選んで作ってくれたみたいで、軽く花の香りが辺りを包み込む。
俺の姿を見ても、嫌悪感を抱かずにこうして接してくれるのだから、素直に感謝しなければならない。
「何かお礼をしなくてはならないな。何か欲しいものはあるか?」
「ううん。私は何もいらないよ!」
愛も変わらずに、少女は眩しい程の笑顔を向けた。
雨が降り始めても尚、その笑顔を絶やしてはならないと少女に思わせるこの環境に、俺は嫌悪感に近い怒りを感じていたのだ。
――
冒険を始めて早くも1ヶ月が経過しようとしていた。
塔の形になっているダンジョンでの依頼を完了した事が、少し昔のことのように感じる。
あれから俺は、ただひたすらに魔獣の出るとされている洞窟や森林、そして小ぶりのダンジョンに挑戦していた。
自分の戦闘技術を上げる為もそうだが、何よりも前戦での戦いになれる為だ。
それらの事ばかりしていた為、依頼をこなした際に得た金を殆ど使用する事なく、暮らしていた。
食事や宿はどうしているのかといった話になるかもしれないが、それも今の俺には関係のない話だ。
この体になってからというもの、睡眠や食事は不要となってしまい、そう言ったもので金銭を消費する事は無くなったのだ。
とはいえ、ある程度横にはならないと人間とは掛け離れた生活リズムとなってしまい、とても1日が長く感じてしまう。
それを何とか紛らわす為、森の静かな場所で体を休めるなどは頻繁にしていた。
そして今日、俺は久しぶりに人里に足を踏み入れていた。
誰かとすれ違う事すら久しぶりで、目線を少し感じただけでも緊張してしまう。
小ぶりな村ではあるのだが、人数は少なくないのだ。
数多くの村人は、せっとせと荷物を運んだり調理を行うなど、何かの仕事を忙しなく続けていた。
だが見たところ、どうも仕事に対して後ろ向きというべきか、悲しそうに、もっと言うなれば苦しそうに作業を進めている。
勿論仕事を好き好んでやる人ばかりが社会ではない、やるしかないのだから仕方がなくやっている人間は多いだろう。
だが、村人の皆は笑顔を打ち消すような、暗い表情で作業を進めているのだ。
何か事情があるのかどうかは現段階ではわからないが、見たところ裕福な村のようには見えない為、単に生活が苦しいのかもしれない。
「おいそこの兄ちゃん、宿に困ってないかい?」
村を歩いていると突然、年老いた男性にそのように声をかけられてしまう。
栄えた街ではよくこのように宿への客引きなどが行われていたが、こんな小さな村でもあるのだなと思いながら返事を返す。
「すまないが宿に泊まるつもりはないんだ。それよりも鍛冶屋を探しているのだが、何処にあるのか教えてもらうことは出来ないか?」
眠ることのない俺は宿を必要とはしない為、申し訳ないが宿泊は断る事にした。
そして俺は今、武器のメンテナンスをしてもらいたいと思い鍛冶屋を探していた為、それが何処にあるのか、村にも詳しそうなこのご老人に問いかけてみる事にした。
「いやぁどうだったかのー……宿泊してくれれば、思い出すかもしれんのー」
何とも意地悪なご老人だ。街でも失礼な客引きはあるが、ここまで露骨なのも珍しい。教えるのが手間なら、単に断ればいいだけではないのか。
……いや、違うか。街の客引きとは訳が違うのだ。
街での客引きは、「より一層」利益を生むための行動であり、ここでは「ほんの少し」でも利益を生み出す為に客引きをしているのだろう。
この相手も、年老いているのもあるが、歯はほぼ見当たらずに黒ずんでおり、体も服を着ているのにも関わらず、肋が浮き出ている事がわかるほどに全体が痩せ細っている。
泊まる理由はないが仕方がない。
荷物を置いたりだとか、気ままに村を歩けるようになる事を考えれば、何泊かは泊まってもいいかもしれない。
そして少しでも金を落として、この村に対して貢献してやろうと思った。
意地悪な事を言ったこの相手にする行動としては、少し癪に感じるがな。




