第九話②
俺を視界に入れた途端、オーク亜種は俺の元へ手を伸ばしてきた。
殴るや蹴るなどの攻撃ではなく、ものを掴もうとするかのように、ただ手を広げて俺の元へ腕を伸ばしてくるのだ。
コイツは未だ俺を敵と認識すらしていない。
それは好都合であり、そのままの状態でいてくれた方が生還率は上がるだろう。
だが、何とも腹立たしくもあった。
自分1人が必死になっているのに対して、相手は危機感の1つも持っていないとなれば、舐められる事よりも屈辱的だ。
けれどそんな事を言ってられる資格は、今の俺は持ち合わせていない。
舐められてしまう程の実力であり、舐めるまでもない敵とすら認識されない、それが今の俺の実力だ。
認めるしかないのだ。今はここから生き延びて、その先で力を手に入れる。見返すのはその後だ。
出入り口はコイツが起き上がったことにより、再び遠ざかってしまった。
このまま離れ続けてしまうわけにもいかない。
俺はそう言った焦りからか、一歩前に出た。
その選択が間違いであったことを、その後すぐに理解することになる。
奴は急に攻撃を仕掛けてきたのだ。予想通り動きはそこまで早くはなかったが、パワーが予想以上に凄まじいものであった。
棍棒による攻撃を上手く避けたにも関わらず、その攻撃により生じた爆風により、俺は壁まで突き飛ばされてしまったのだ。
即座に神の刻印を利用して、折れてしまった手足を修復させる。
攻撃を受けてもいないのに骨が折れるとは、もし仮に直接攻撃を受けていれば、骨は原型を留められないほどに粉砕されていたのかもしれない。
俺は相手と距離をとりながら、再び出口に近づくように歩いたのだが、再び攻撃を仕掛けられしまい壁に激突する。
その後暫くはそれの繰り返しとなる。
攻撃を避けては壁に激突し、損傷した箇所を女神の力で修復する。
繰り返す度に俺は闘志がなくなっていくのを感じていた。
何と言っても、勝利のビジョンが全くと言っていいほど見えてこないのだ。
それは当然のことだ。勝てやしないことは知っていた。だが今は、逃げる事すら叶わない気がしてならないのだ。
相手は依然として俺を敵とすら認識していない。
それでこれとは、俺は一体どうすればいいんだ。
このまま同じ作業を繰り返していくうちに、何か状況が変わるのか? 寧ろ状況が悪化する可能性の方が高いだろう。
痺れを切らした相手はついに本気を出して、俺を捉えにかかるだろう。
そうなった時が俺の最後だ。
ならば、それがくるまでに足掻いてみよう。足掻いて見せよう。
どうせ他に手段はないんだ。俺は一度試して見たかった無謀な挑戦を行おうとしていた。




