第九話①
一歩遅かった……いや、後一歩早かったところで間に合いはしなかっただろう。
まさかこんなにも早く戻ってくるとは思っても見なかった。計算を誤ったとしか言いようがない。
俺は反省を打ちやめて剣を握り構えをとった。
反省など、生き延びてからすることだ。
先ずはこの場をどのように解決するのか、それだけに意識を向けなければなりない。
本来戦うつもりのなかった相手だ、戦って仕舞えば終わりだと思っていた相手だ。どうする。一体どうすればいい。
こんなところで終わるわけにはいかないと、俺は冷静さを欠いてしまっている。
何とか落ち着かなければ……それは一体どうやって。
目の前には苦戦を強いられたゴブリンリーダーを、落ちていた果実を頬張るように、いとも簡単に苦戦した様子すら見せずに貪り食らっている。
こんなやつ、今の俺が叶う筈がないのだ。
一度落ち着け、落ち着くんだ。
こいつには叶わない事、戦うべきではない事、そんな事は既にわかっていたことだろ。
だからそれを俺は実行に移すだけ、その手段を考えるんだ。
オーク亜種はゆっくりとこちらへと近づいてくる。
今はまだ、何か変わった行動を起こす様子は見せていない、恐らく警戒すらしていないんだ。ただ俺の様子を伺っている。
俺はゆっくりと後ろに身を引こうとしたが、瞬時にその動作を停止させた。
後ろに下がっていては、このまま逃げる事は叶わなくなる。
出口はオークの後ろにある箇所のみだ。
そこに近づいて行かなければ、遠ざかるなんて持ったの他だ。
この巨体のオークが、ギリギリ通ることが出来る程の幅しかない出入り口、先ずはこいつがその場をどかない限りは通る事すら叶わない。
俺はゆっくりと横へとずれていく、なるべく出入り口から距離を離さないように、部屋の中を出口に近づくように、円を描いてゆっくりと動く。
するとゴブリンリーダーを平らげたオーク亜種は、ゆっくりとその場で横になり始めた。
俺が唖然となりそいつを見つめる中、オーク亜種はゆっくりと目を瞑り、途端にいびきを欠いて眠り始めたのだ。
何だその展開はと、拍子抜けだと言った態度を見せてしまった俺だが、チャンスは今しかないと出口へ急いだ。
だがこいつのデカい図体が邪魔をして、うまいことこの部屋を出ることが出来ない。
何とかこいつの体をよじ登れば出れるかもしれないが、そんな事をして起きて仕舞えばおしまいだ。
俺は何とか隙間を探すようにして、辺りをぐるりと観察する。すると一箇所だけ俺の体でギリギリ入れそうな隙間を見つけた。
出るならここしかない。俺はそう思ってそこを潜り抜けるように体を動かした。
その瞬間の事、何か地響きのような、重みのある音がこの部屋を包み込んだ。
この部屋の外ではない。今まさにこの音が、この部屋の中で鳴り響いている。
そんな音俺が鳴らせるはずもなく、誰が鳴らしたのかなど犯人探しせずとも直ぐにわかる。
音を鳴らしたその主はゆっくりと体を起こした。
先程寝たばかりじゃないかと思いながらも、相手にそんな事をいってどうにかなるはずもなく口には出さない。
先程の音の正体は、オーク亜種の腹からなったものだろう。
つまり奴はきっと、ゴブリンリーダー一体では腹が満たされなかったのだ。




