第八話②
俺は固唾を飲んで、遠目から部屋の中を覗き込んだ。
ただ部屋を覗き見るだけだというのに、その行為が大罪かのような、物凄い事をしてしまっているといった気分になり、俺は堪らず目をじっと細めながら中を覗いた。
覗いて直ぐに、中で鳴っていた奇音の正体を理解する事になる。
部屋の中では、1体の魔獣が眠りについていたのだ。
本来ダンジョンというものは、日々冒険者が挑んでくるものであり、魔獣からしても気が休まる場所とは言えないだろう。
それなのに、この魔獣は自分の家のベッドで寝ているかのように、呑気に大の字になってあくびをかきながら寝ているのだ。
およそ俺の3倍はあるであろう図体に、太い手足、蓄えられた腹回りの脂肪、軽く上に乗られただけでも潰されてしまいそうなほど、見ただけでその重量感が伝わってくる。
そして何より目を引いたのは、大きな単眼だ。
今はまだ目を瞑っており、どれほど瞳が大きいかはわからないが、推測では顔の半分は占めているように見える。
無闇矢鱈に近づくのはやめておいた方がいいだろう。
アイツの視野に入ってしまう。
「……とは言ってもだ」
そんな巨大な魔獣の直ぐ後ろには、目的である薬草が生い茂っていた。
これがもしも人間相手なら、少し分けてくれと言えば気前よく分けてくれるだろうと思ってしまうほど、アイツの後ろには大量の薬草が、近くにいれば邪魔に思えてくるほど生えているのだ。
それなのに、こちら側には1つとしてそれが生えていない、何なら魔獣からこちら側にかけては岩のみで、草が生えてくるスペースすら存在しない。
生えている位置があちら側ではなくこちら側なら、どれ程このクエストが簡単だったか。
それならそれでこのクエストの需要は無くなり、俺に依頼は回って来ていなかったかもしれないが、そんなことを考えてしまう。
するとここで、魔獣は大きく寝返りをうった。そう、ただ体を右向きから左向きへ、寝返りをうっただけだ。
それなのに、少しではあるがこの塔が揺れたのを感じた。
先程魔獣達と随分と長いこと戦ってたが、塔に影響を与えたものはただの1体としてもいなかった。
もしかしたらこいつの重量は、俺の予想を遥かに上回っているのかもしれない。
そんな体でありながら、奴は容易く寝返りをうっていた、自分の体の重さに苦労している様子はない。
俺はこの魔獣に勝てるビジョンが全くと言っていいほど見えて来ず、恐怖を通り越して何故だか冷静になり始めていた。
負けることが確定していれば、勝てるかどうかのひりつく感情はなくなり、どのように戦いを回避するのかを考え始めたのだ。




