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REBORN  作者: ソラニヤマイ
序章 最後の時
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第一話③

 窓から入ってくる陽気な光で目を覚ます。

 カーテンを閉め忘れて寝てしまった為、窓からは絶え間なく光がこちらに降り注いでいた。


 起き上がると同時に、耐え難い痛みが体全体を走った。

 昨日負ったダメージがまだ抜けていないみたいだ。


 自分は回復をしていただけで戦っていないのにこの様とは、朝だと言うのに自分の情け無さに気が滅入ってしまう。


 ――


 朝食を済ませて直ぐに荷物を纏めて宿を出ると、出入り口のすぐ近くにスズナがキョロキョロと辺りを見渡しながら立っていた。

 誰かを待っているのかと少し気にはなったが、俺は足を止めず、集合場所である町の入り口へ向かおうとする。


「あっ!ちょっと待ってくださいヒロさん!!」


 すると慌てた様子で、スズナは俺の元まで走ってきた。

 誰かを待っていたわけではなかったのか?そんな疑問を抱えながら挨拶を交わす。


「おはようスズナ。なるべく早く集合場所に来るんだぞ」


 俺はそう言って、その場から逃げるように立ち去ろうとする。

 スズナを見て直ぐに、昨日の夜での出来事を思い出したのだ。


 あんな態度をとってしまった以上、合わす顔がない。

 いや、それは言い訳だろう。自分はあんな態度で接してしまったが故に、スズナと会話することを気まずく感じているのだ。


 スズナとは反対側に足を踏み出した途端のこと、この場から離れることを許さないというように、スズナは俺の袖の裾をギュッと両手で掴んで、何処にいく気なのかと言わんばかりに引っ張ってくる。

 

「ちょっと待ってください、ヒロさんと一緒に集合場所に行こうとしてたんです! 部屋にいるのか確認もできなかったので、一度宿から出て辺りにいないか探してたのですよ…」

「そうだったのか……なら、待たせて悪かったな」

「いえ! 早速向かいましょ!」


 違う。俺が謝るべき事は、他にもあるはずだ。

 俺は少し声の大きさを小さくしながら、目も合わせずに口を開く。


「……昨日は冷たい態度をとってしまって悪かった。疲労から気が立ってたみたいなんだ」


 俺という人間は、未だ悪いことをしたら謝るなど言った行為に抵抗がある。直ぐにでも直さなければならない、自分のダメなところだ。

 そんな俺だから、いつも謝るにしてもこのように、情けない姿になってしまうのだ。

 

 だが、そんな俺にスズナは嫌な顔を少しも見せずに「ヒロさんに嫌われてなくてよかったです」と、明るい笑顔を向けてきてくれたのだ。


 ――


「お前ら、今日は一段と気合を入れて、警戒を解かずに行動しろ。久しぶりのリーダーである私からの命令だ」


 勇者は真剣な顔で、俺たちにそう伝える。

 いつにもなく真面目なその顔に、俺を含めた3人は不思議そうな顔を浮かべていた。


「なぁリーダー、気をつけるつったって何をどう気をつけたらいいんだ?」


 俺から質問をしようと思った事をキズナは問いかけてくれ、早速勇者はそれについての解答を始める。

 

「この先には『地獄の門』へと繋がる場所があるとされている。私たちは今から、そのダンジョンを通って先へ進む。もし仮にそのゲートに触れたら最後、地上へ戻ってくる事は、非常に困難なものとなるそうだ」

「ならばそのようなダンジョン、わざわざ通らなければいいんじゃないか? リスクは避けるべきだ」

「なら君はそうするといい。そのダンジョンを通るか否かで、次の目的地への到着に1ヶ月は変わってくるのだから」


 先日話した通り、俺たちはまだ冒険を始めてからあまり先へと進めていない。これ以上時間を延ばすべきではないのもわかる。

 だがやはり、リスクはおうべきではないと言った考えもある。俺はどちらかを直ぐ様選ぶ事が出来ず、揺らいでしまった気をどうにかしようと、スズナにも質問を投げかけた。


「スズナ、君はどう思う?」


 スズナは会話に参加できていなかった為、急に話題を振られてしまったと少し慌てた態度を見せながら、間を置いた後、「1ヶ月も変わるのなら……」とダンジョンに挑む意志を見せた。


「そうだな。やはり1ヶ月も変わるとなると、多少リスクを負ってでも挑むべきか…」

「スムーズに決まってよかったよ。私はもう少し話が長引くと思っていたからね」

「そんなグダグダした態度を取るやつがいたら、アタシがミンチにでもして食ってやるよ」


 そう言ってキズナは無邪気に笑っているが、膨らんだ力こぶを見て、先ほどの発言が冗談には聞こえなくなってしまった。


 ――


 街から数分が経過して何もない茂みを進んだ後、早速洞窟型のダンジョンの入り口が見えてきた。

 本来ダンジョンとはもっと町から離れたところにあるもので、これはとても異様な事となっている。

 既に俺は、このダンジョンに嫌な予感を覚え始めていた。

 

「あ? 誰かが入った後が、全くと言っていいほどねぇな」


 キズナは出入り口の土や匂いで、そのような事がわかったそうだ。

 

 確かにダンジョンというものは、大抵多くの冒険者が行き交う為、足跡や装備などから発生しているゴミが辺りに散乱し、魔獣や人の血の生々しい臭いがするはずなのだが、ここには全くと言っていいほどそれが存在しない。


「誰も足を踏み込もうとはしない。それほどのダンジョンという事みたいだな。私も今回ばかりは、気を引きめないといけなさそうだ」


 そう言って勇者は、長い髪を後ろへ束ねて気合を入れて見せた。

 いつも本気を見せない勇者だが、今回ばかりは警戒しているみたいだ。

 かくいう俺も、いつもよりか鼓動は高鳴ってきており、それを落ち着かせる為に何度も息を深く吸っていた。


「それじゃあ行くか。…お前ら、くれぐれも気をつけろよ」

「へいへい、わかってますよ」


 勇者を筆頭に、俺たちはダンジョンへと足を踏み入れた。

 洞窟のような構造の為、中に光は入ってこないが、光虫達が蔓延っており、中の様子は目を凝らさずとも見えてくる。


「ん? おい何してんだスズナ! 早く入ってこいよ!」

 

 後ろを振り返ると、スズナは未だダンジョンの中には入れておらず、出入り口付近で立ち尽くしていた。

 見たところ、この暗く何が起こるかもわからないダンジョンに怯えているみたいだ。


 スズナは出会った時から、少し臆病なところがある。

 あるモンスターの前では腰を抜かし、俺はスズナを背負いながら戦ったこともあるくらいだ。


「大丈夫だスズナ。何かあっても俺がまた治してやるから」

「それじゃあ……ダメなんです」


 苦しそうな顔を浮かべながら、彼女は決心したかのように手に持っていた杖を握りしめて、ゆっくりとダンジョン内へと入っていく。

 

 今の発言は確かにダメだな。また治してやるって、つまりは怪我を負うかもしれないと言ってるようなものじゃないか。

 こう言った気遣いは未だにあまり上手くいかない事を反省しつつ、俺もダンジョン内へと足を進めた。


 ――

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