第六話④
5階へ到達した途端の事、先程とは大きく雰囲気が変わったのをはっきりと感じた。
常に何かに睨まれてるような重圧感、そして緊張感、まだこの場に辿り着いたばかりだが、生物としての感がここは危険だと警告を出していた。
無闇やたらに進むべきではないだろう。
俺はじっと周りを観察しながら、足音が立たないよう慎重に先を目指す。
少し先へと進んで気がついたことだが、どうやらここは4階までと比べて光が少ないみたいだ。
松明はいくつか破壊されており、仄暗い空間がずっと続いている。
恐らくこれは、この階に住まう魔獣が意図的に仕掛けたものだろう。
魔獣の多くは夜目が効き、暗い場所でもはっきりと辺りを見る事が可能だそうだ。
当然人間はそのような事が出来ない為、夜の戦闘はなるべく控えるようにしている。
だが、ここでは朝も夜も関係ない。
太陽などの光は一切入っては来ず、ただこの少ない松明を頼りに進む他方法はないのだ。
幸い今の俺はこう言った暗い場所でもはっきりと辺りを確認する事が可能な体になった為問題はないが、元の俺ならこの場所の仕組みに気がついた瞬間に引き返していただろう。
始めてこの体になったことを感謝したいと、少しでも感じた。
カコンッと、小さな音が突如響いた。
俺が足を先へ進める際に小石を蹴ってしまったらしく、それが近くにあった金属に触れてしまったのだ。
この音を聞いてか、突如何処からか魔獣の鳴き声が響き始めた。
これは俺がダンジョンに入る際に聞いた声と同じものだろう。だが唯一違う事がある。
それはこの声が、遠くからではなく直ぐそばから聞こえてくるという事だ。
ドスンドスンと、まるで岩が跳ねるような鈍く重い音が聞こえてくる。
何かがこちらへ近づいてきている事がわかり、俺は剣を握る拳にグッと力を入れて、その先を見つめる。
するとそこに姿を現したのはゴブリンの姿をした大型の魔獣、見たところゴブリンボス……いや、ゴブリンリーダーだろう。
複数のゴブリンを支配するその長であり、リーダーであるゴブリンリーダーは、通常のゴブリンよりもパワーと装備が優れており、ゴブリンを複数体相手するよりも厄介だとされている。
だがどうしてこんなところにゴブリンリーダーがいるんだ。そんな疑問がふとよぎる。
見たところ、こいつの周りに通常のゴブリンの姿はない。
本来ならゴブリンリーダーは通常のゴブリンを引き連れている筈なのだ。
そう言った通常のゴブリンは下の階にいた。何故あいつらと共に行動せず、コイツだけがこの階にいるのだ。
考えてみたが、それはとても簡単な事だった。
この階には、コイツよりも優れたものがいる。
自分がリーダーとして他の奴らを引き連れるよりも、自分よりも力を持つものに守ってもらった方がいいと判断したのだろう。
だから他のゴブリンの相手はせずに、自分1人この階にいる。
実に生物らしい、生きる為の判断がはっきりと出来ている。
俺の考えが正しければ、コイツは追い詰められた際に自分の主の元へ助けを求めに行くだろう。
それをされて仕舞えば戦況は極端に厳しくなってしまう。
何とかその前に、コイツを仕留めなくてはならない。
じっと俺を見つめるゴブリンリーダーに応えるように、俺はフードを捲り上げ、相手を睨み上げながら剣を構えた。




