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REBORN  作者: ソラニヤマイ
第一章 再戦
19/93

第四話③

「……ブレスさん」


 そこには『世界の扉(ワールドゲート)』のマスター『ブレス・ノート』さんの姿があった。

 相変わらずとても長い杖をつきながら歩いている姿を見るだけで、俺はとても懐かしく、そして暖かい気持ちになれた。


「君は…ヒロの友人かな?」


 どうやら俺の事を誰だか認識出来ていないみたいだ。

 それもその筈だ。何せ服装から肉体に至るまで、その全てがわかってしまっているのだから、気がついつほしいという方が無理がある。

 

 それに、俺としては気づいて貰わない方が都合がいい。

 こんな姿になってしまったなんて知ったらきっと、善人なブレスさんは傷ついてしまうだろう。

 ただでさえ恩返しも出来ていないんだ。死んでまで傷つけるような事はしたくない。


「旅先で交流を持ちまして」

「そうか…あいつも冒険を通して、友が出来たのだな」


 ブレスさんを騙すようで申し訳ないが、俺は声を変えて、ヒロの友人ということにして会話を始めた。

 ボロを出す前に直ぐここから離れたい気持ちもあるが、恐らくこれがブレスさんと最後の会話がする為、中々この場から動き出せない。


 ブレスさんは墓の前に立ち、何か思いを馳せるようにしながら、目を細めてじっと墓石を見つめる。


「君から見て…ヒロはどうだった?冒険を楽しんでいたと思うか?」

「……そうですね。僕から見た限りでは、あまり楽しんでいるようには見えませんでした。『神の刻印』に振り回されていましたからね」

「そうか……きっと私は恨まれているだろうな。私が冒険に出るように背中を押さなければ…」

「それはあり得ません」


 俺は感情のままに言葉を溢してしまった。

 ブレスさんから、このような言葉は聞きたくなかったのだ。


「何故そう言えるんだ?」

「ヒロは生前、よく口にしていました。俺はあのまま動き出さなければ、腐っていたと。マスターには感謝していると」

「だが私が原因で命を落とした事に変わりはない」

「仮にそうだとしても、彼は貴方を恨む事はありません。寧ろ感謝している事でしょう。貴方のおかげで、夢を思い出すことが出来たんです」


 これは俺の本心だ。正体がバレる事になったとしても、この事だけは、ブレスさん理解していてもらいたい。

 俺は貴方を恨むことなんて、今後一切、ある筈がないのだ。


「そうか…ありがとう。君のおかげで救われた気がするよ。ところで君は、冒険者なのかね?」

「僕ですか?僕は単なる旅人です」

「そうな見えないな。君の中には、何か闘志を感じる。残念な事に、何かがあったのだろう。その闘志の炎は、消えかかっているがね」


 まただ。この人はまた、俺の心の中を覗き込んでは、痛いところをついて来る。

 俺の中の闘志、その正体は何なのか頭を使わずとも心で理解が出来る。

 だがその闘志を燃やす必要はもうないのだ。燃やしたところで意味がないのだ。こんな体になってしまった以上。


「この剣の事は、ヒロから聞いているかな?」

「『レベル装備』でしたか。装備そのものにレベルが宿るとされる、高価な武器です」

「彼には……いやヒロには、神の刻印を持った者としての使命があった。それが邪魔をして、あいつはこの武器を使う事はなかったんだ。……君にこれをやろう」

「……どうしてですか?」

「ヒロは死んだのだ。それに伴って、ヒロの役目は終わりを迎えた。ヒロはようやく自由になったんだ」


 自由になったか。また新しい枷が繋がれた気もするが、確かにそうかもしれない。

 もう人ですらなくなった俺は、神の刻印の宿命に従う理由はないのだ。


「代わりに君が叶えてやってくれないか?ヒロの夢を」

「僕が…彼の夢を?……無茶だ。そんな事、出来るはずがない」

「出来るとも。ヒロの意思は、君ならきっと継ぐことが出来る。そのような体になっても、涙を流せる君ならね」


 俺のかつて瞳があった箇所から、不思議と水滴が溢れ落ちていた。そんなはずがない。人でなくなった俺が、涙を流せるはずがないのだ。

 だが、これは止まる事を知らず、俺の思いと共に流れ続けた。


 ブレスさんはじっと墓石を見つめながら、ほくそ笑みながらこう告げる。

 

「それではヒロ…達者でな……」


 そう言ってブレスさんは、その場をゆっくりと去っていく。

 俺はそんな彼の背中に向かって深くお辞儀をして、墓から剣を抜き取り歩き出した。


 夢を叶えるんだ。

 かつての俺の夢を、新たな人生を始めたこの俺自身が。

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