第四話(回想)②
「夢の話なんて……今は関係がないと思いますが…」
「そんな事はない。いいから話してみてくれないか、昔のように」
「昔のように」この言葉は正直聞きたくはなかった。
昔の俺と今の俺は違うのだ。そして俺は、今の自分を嫌い、昔の自分を愛している。
そんな今の俺が昔の自分を語れば、きっと比べてしまうだろう。そしてこんなにも嫌いな今の自分を、さらに卑下してしまうはずだ。
「話したく…ありません」
「ならば、私が口にしてやろう。お前の夢は、『英雄』になることだった筈だ。違うか?」
「……そうでしたね。昔は、そうだったのかもしれません」
「ならば何故、お前は自分の命が短いものだと知りながら、直ぐに行動を起こさないんだ」
「「思っていた」つまりは昔の話なんです。行動を起こせばその分早く死んでしまう、今の僕はその事に気がつきました……そんな事、ごめんなんです」
「長く生きる為に、危険を犯さない。それは間違いではない。寧ろ正しいと捉えることが出来るだろう。だがお前は、そんな生き方を選んだことを後悔しているように見える」
「何が、言いたいんですか?」
「長く薄い人生ではなく、短くても劇的な人生を望むお前が、何故こんなところで立ち止まっているのか。そう聞いているんだ」
ブレスさんは、ただ一点に俺だけを見つめる。
じっと視線を合わせて、俺が話から逃げることを許さないと言った意思が見受けられた。
「貴方に…何がわかるんですか」
「怖いのだろう。夢を追うことが」
俺はこの言葉を口にされた途端、自分の心の奥底をほじくり返されるような、もしくは自分の胸の内を突き刺されるような、そんな気分が良いとは決して言えない、衝撃的な感情が全身を走った。
「ただでさえ……ただでさえこんな力を持った状態で産み落とされて、スキルの一つも目覚めない。こんな僕が夢を追うなんて無謀なんてものじゃない。ただの愚か者でしかないではないですか」
「愚か者などではない。夢を追うのに痛みはつきものだ。その痛みに屈せず突き進むものが、愚かな筈がない」
「いや……愚かですよ。本来痛みから逃げるのが、人間の本質です。自ら痛みを負いにいくなんて、愚か者以外の何者でもない」
「痛みを恐れその場に止まったとして、待っているのは後悔と言った痛みだけだ。進んでも痛みを負い、止まっていてもまた痛みを負うのであれば、私は先へと進んでほしい。少なくともお前に対して、私はそう思うんだ」
俺は立ち上がり、何も言わないままその場から離れた。
この際、ブレスさんの顔は見ていない。いや、見れなかったんだ。
どんな気持ちで俺にあんなことを言ってくれたのか、どうして俺とここまで向き合ってくれるのか。
それらが全て、あの人の純粋な優しさであることを理解してしまう。そんな気がして、あの人の表情を伺うことができなかったんだ。
――
その日は眠る事ができず、ただひたすらに考え込んだ。
何が正しいのか、正解はない中でそのようなことを考えるのは馬鹿にも思えるが、今の俺には必要なことだと信じて、頭を回し続けた。
そして導き出した答えを抱えて、俺はブレスさんの前に立った。
どう思われるかはわからない。ブレスさんの望んだ答えではないかもしれない。
それでも俺は、正面から伝えなければならないと思ったんだ。
「ブレスさん……やはり僕は、夢を追う事は出来ません」
「……そうか」
「けれど、僕は……いや俺は、そんな自分を変える為に、冒険に出ようと思います」
あまりにも短いやり取りだ。
だがこれ以上、深く話す事はない。
今の自分の感情を、考えを、それらは伝える事はできたのだ。
ブレスさんは驚いたような顔を浮かべた後、ゆっくりと表情を和らげていった。
満面の笑みなんかではないし、口角がわかりやすく上がったわけでもない、寧ろ泣き出しそうになっているのにも関わらず、不思議とブレスさんの表情を見て俺は、喜んでいるように見えたのだ。




