第四話②
冒険を始めてから数年、久しぶりの故郷に俺はそんな状況でもないのに浸っていた。
昔通っていた料亭は古びているが未だ経営しており、俺の住んでいた宿は潰れて新しい宿が出来ていた。
何もかもが変わっていたり、全く変わらず昔のままだったり、そう言ったものを見て、感情の浮き沈みを楽しんでいた。
やはり帰ってきて良かった。
故郷というものが、こんなに愛しく思えるだなんて考えもしていなかった事だ。
辺りを見渡しながら歩いていると、ある建物を見て俺は足を止めた。
見上げるように、その建物をじっと見つめる。
「何も変わらない……『世界の扉』……看板もそのままだ」
少し塗装が新しくなっていたり、柱が逆に古くなっていたりするが、俺がいた時と殆ど変わらないギルドハウスを見て、何とも懐かしい気持ちで胸がいっぱいになった。
「少し失礼するぜ」
ギルド近くに立っていると、屈強な男たちが横並びでギルドへと入っていった。
見たことのある顔だが、昔と比べて随分と鍛えられているのがわかる。
ギルド周辺には、『世界の扉』所属の人間が多々見受けられる。
その半分が知っている顔であるが、随分と容姿は変わっていた。
案外人というものは、直ぐに変化が現れるみたいだ。
中の様子を一度見てみたいと考えたが、体が思うように動かなかった。
中に入ってしまえば、きっと身分を確認されてしまい、俺のこの姿が皆に見られてしまう事になるだろう。
そうなって仕舞えば、血の気の多いここの連中は、俺のことなど気にせずに始末しにくるだろう。
声は生きていた頃と同じものだが、こんな骨のみとなっあ見た目で、「俺はここに所属していたヒロだ」と言っても、誰も信じてはくれはしないだろう。
「中は諦めるか……」
そうぼやきながら少し体を動かすと、直ぐ近くに墓地が見えた。
ギルドに所属していた者が亡くなった際は、ここに埋められるようになっている。
俺の知っている人間も何人か眠っている為、一度手でも合わせに行こうと、その墓地へと踏み込んだ。
やはり墓地は綺麗に手入れされており、昔と何ら変わらない程整備されていた。
複数並ぶ墓を見て、昔は置いていなかった墓が目についた。
やはり俺が冒険に出ている間も、何人もギルドメンバーは死んでいったみたいだ。
そのどれもが知らぬ名前で、新人だったことが伺える。
そう考えると胸が痛い。
「……」
そんな死んでいった者たちを見て心を痛めている場合ではない事を、俺は今更知ったのだ。
予想外な事に、そこには俺の墓がたってあった。
俺が死んでから何ヶ月ほど経ったのかははっきりと分からないが、こんなにも早くギルドに伝えられているとは思いもしなかった。
見た限りではまだ、墓は建てられたばかりのようにも見える。
最近ギルドに伝達が言ったのだろうか。
いや、それよりも。
「やはり俺は……」
やはり俺は、死んだ事になっている。
確かに死んでいる事は理解しているのだが、自分が死んだ事を直接確認するといった行動は、あまりにも衝撃的なものだった。
いや、衝撃なんてものじゃないし、喪失感があるなんてものでもない。
たまらない程の、かつてない虚無感に襲われてしまう。
俺の墓には綺麗な筆記体で、『ヒロ・ブライト』と書かれており、その直ぐ側にはギルドマスターから頂いた高ランク『レベル装備』の【黒紅の剣】が刺されてあった。
黒を基調とした、鉄ではなく光を吸収するといった珍しい鉱石を使用しており、闇での戦いに置いて有意な装備だ。随分と懐かしい。
俺の夢を察したマスターは、力を持たない俺のために、剣そのものにレベルなどの力が宿せる武器、通称『レベル装備』なるものを、俺にプレゼントしてくれた。
結局自分の夢を放棄していた俺にはこんな大剣を持っていく勇気はあらず、悩んだ末にギルドへ置いていき、俺は短剣のみを隠し持って冒険に出たんだ。
今思えばこれを持って冒険に出ていれば、何か変わったのかもしれない。
せっかくのマスターの後押しを無碍にしてしまったのだ。
俺は居た堪れなくなり、その場を離れようとした。
「君、ヒロの友人かい?」
すると後ろから、懐かしい声が聞こえてきたのだ。




