第四話①
「お客さん、今日はどちらまでいくつもりですかい?」
「……教会にようがあってな」
「教会?あー確かに信者らしい格好してますもんね」
俺は教会へ行く為に、馬車に乗って大きな街を目指していた。
教会は小さな町にもあるにはあるのだが、俺がようのあるものは、小さな教会には置いていないと思う為、こうして大きな教会を目指している。
随分と汚れてしまっているが、ポケットに幾らか手持ちの金が入っていた為、何とか馬車に乗車することが出来た。
もしも徒歩で教会を目指すとなると、3日はかかっていただろう。本当に金があって良かったと、心からそう思う。
「それでお客さん、教会では何しにいくんですかい?お祈りですか?それとも何か他に?」
「いや、ゲートを使わせて貰う。少し行きたいところがあってな」
ゲートとは教会にのみ設置された、言わば人間を転送することが出来る魔法による転移装置だ。
魔王城に近づく転移はできないが、魔王城から離れるところへなら、ゲートからゲートへ移動ができる優れものだ。
「行くどころですかい?そいつぁ一体どこへ?」
「……俺の所属していたギルドハウスに、戻りたいと思ってな」
――
【世界の扉】、生前俺が所属していたギルドだ。
ある一定の実力を超えた者しか入ることが許されていない、完全実力主義であるこのギルドは、各々が闘志をむき出して行動しており、誰1人として馴れ合いなどをしていなかった記憶がある。
今となっては懐かしい、勇者パーティを結成して出発したのはあのギルドからだ。
元々冒険に行くつもりがなかった俺だったが、ギルドマスターである『ブレス』さんの説得によって、動くことを決めた。
今となっては感謝している。あの日俺を動かしてくれなければ、きっとあのまま俺は腐っていた。
結果的に夢も叶えることが出来ず死でしまったわけだが、あのまま冒険をしていなければ、夢を思い出すこともなく死んでいただろう。
もう人間では無くなり、ただの化け物になった俺は英雄になる資格すら持ち合わせなくなってしまったわけだが、最後にマスターには会っておきたい。
あの街まではかなりの距離がある。
きっと俺の死もまだ知られてはいないはずだ。
一度改めて、感謝を伝えておきたいのだ。
「お客さん、着きましたで。ここから少し歩けば教会になります」
「ありがとう。釣りは取っておいてくれ」
「ありがてぇありがてぇ。それじゃあお客さんお達者で」
支払いを終えると、馬車の運転手はすぐに馬車を出発させて、その場から離れていった。
さて、それでは教会へ向かうとするか。
こんな薄汚れた身なりで中へ入れてくれるのかと少し不安ではあるが、俺は構わず先へと進んだ。
そこから少し歩いたところで直ぐに教会へと辿り着き、その教会をじっと眺める。
屋根は高く壁面も最近修繕した後があり、綺麗に整備されているのがわかる。
ここならきっと、ゲートが置いてある筈だ。
扉を開けるとズラリと席が並んでおり、奥には大きな神様の肖像画が飾られてある。
その地域によって神様の肖像画は変わってくるのだが、そのどれもが美しく描かれてあるといった共通点があった。
「いかがいたしました?」
するとシスターらしき女性が、俺を見るなり直ぐに話をかけてきた。
「急にすみません。ゲートを使用したいのですが…」
「ゲートでしたらこちらにございます。ついてきて下さい」
おっとりとした口調で話しながら、シスターは俺をゲートがある場所まで案内をしてくれた。
教会裏にある小さな小屋、扉には複数の鍵が掛けられており、小屋自体も小さい割に頑丈そうだ。
勝手なゲートの使用をさせない為に、ここまで丈夫な作りにしているのだろう。
「ところで、どのような理由でゲートをお使いになるのですか?」
「…ギルドハウスに戻りたいんだ」
「そうですか。先に言っておきますが、ゲートは魔王城から離れた場所へしか移動が出来ません。ここまで冒険してくるのに苦労なさったでしょう。本当に宜しいのですか?」
「……どうして俺が冒険者だと?」
「容姿をお伺いすれば分かります。貴方には強い心が、沢山の経験が感じ取れます。今までさぞ、立派な活躍をなされたのでしょう」
俺が立派な活躍か。そんな記憶は少しとして持ち合わせていないな。
「活躍なんてしていない。俺は前衛職じゃなかったんだ。後ろで安全なところから仲間を回復する。ただそれだけの役目だった」
「何もパーティにおいて立派なのは、前衛の方のみではありません。後衛の方がいるから前衛も勇ましく戦える。お互いを支え合うのがパーティであり、皆が主役なのです」
流石シスターだ。素直にそう思った。
だが俺は傲慢なことに、第一線で活躍する。そんな仲間のために前に出て戦う者になりたかったのだ。
未だに過去の自分の活躍を、認めてやることが出来ないでいる。
「ありがとうシスターさん。その言葉は素直に受け止めておきます。……けれど、もういいんです。ギルドハウスに戻ろうと思います」
「そうですか……分かりました。では準備いたしますのでこちらへ」
複数の鍵を手際よくシスターは開けて行き、中へと案内してくれた。
中はあまりにも質素なもので、家具などは何1つとしておいておらず、唯一部屋の中央に魔法陣が展開されていた。
「それではこちらの中央にお乗り下さい。少ししてから私が合図を致しますので、戻りたい場所をイメージして下さい。そこから最も近い教会へと転移させていただきます」
俺は了承したことを伝えて、ゲートの上へと立つ。
すると光が魔法陣から発生し始めて、俺の体を包んでいった。
シスターは何やら書物を広げて魔法陣に手を当てている。
光はじわじわと強くなっていき、やがて部屋を包み込むほどになっていく。
「それでは戻りたい場所をイメージして下さい」
シスターの合図が来た瞬間、俺はギルドハウスを頭に浮かべた。
懐かしい光景、マスターの姿、旅立ちの日、不要なことまで頭を駆け回っている。
「それでは、今までの冒険に敬意を称します。今後の貴方の人生にも、神の祝福があらんことを」
その言葉を最後に、俺は少しの間意識を失った。
光によって目がやられたのか、意識を取り戻して直ぐに目を開こうとしたが、中々瞼が持ち上がらない。
少ししてから目を慣らして辺りを見渡すと、そこは先程とは違う場所となっていた。
「おはようございます。転移は無事成功したみたいですね」
口調や声も、先程のシスターと同じだが、容姿が違っている。
どうやら先程のシスターとは別人みたいだ。
「ここは?」
「ここは東の国、スプリングでございます」
「スプリング……。本当に戻ってきたんだな」
――
教会を後にして、俺は早速街へと繰り出した。
少し寂れてある箇所も見当たるが間違いない、ここは俺の所属していたギルドが存在する街であり、俺の故郷だ。




