第三話⑤
妙な感覚だ。
体に傷がついているというのに、痛みを感じないというのは、安心感よりも恐怖を感じてしまう。
だがこれは好奇だと思い、俺は反撃を開始した。
痛みが感じないのであれば、多少攻撃を当てられたところで、痛みによるすきが生まれる事は無くなった。
攻めるのは今のうちだと攻撃を仕掛けていくが、錆びついた短剣では、相手にまともなダメージを与える事が出来ない。
だがそれでいい、何も殺すつもりは無いのだ。
ただ相手が俺を追えなくなるほど、もしくは追おうとも思わなくてなるほどのダメージを与えればいいだけだ。
だがここで、はっきりとした危機が訪れた。
急に右腕が動かなくなったのだ。
確認してみると関節が切断されており、腕がぷらぷらと機能しなくなっている。
今見て初めて気がついた事だ。
何かが触れた感覚はあったが、まさか切断されているなんて考えもしなかった。
このような事は始まりに過ぎなかった。
俺はその後攻撃を仕掛け続けるが、相手を緩ませる程の攻撃はできず、見っともない戦いを続けていき、その最中体のあらゆる部分に不具合が生じていった。
足は前に出なくなり、物を使う事も叶わなくなり、やがて立ってもいられなくなった。
ここからは酷い物だ。まるで蟻を踏み潰すかのように、奴らは俺を踏み始めた。
抵抗されない事はわかり切っているため、相手はとっくに俺に対する恐怖心は無くなっている。
限度を知らない奴らは止まる事を知らず、このままでは殺されてしまうのでは無いかと思い始めた。
既に死んだ筈の俺にとって、2度目の死となるわけだが、あまりに早かったものだ。
なんて言っている場合ではない。
諦めてどうするんだと、自分を奮い立たせて頭を回す。
何とか体を動かそうとするがびくともせず、焦りを感じていたが、俺は再びある事を試してみる事にした。
それは先程失敗してしまった神の刻印の使用だ。
先程よりもダメージを負っている今なら、何か効果が得られるかもしれない。
あるかもわからない希望を抱いて、俺は女神の力を発動させる。
すると体に馴染み深い感覚が走った。
未だ神の刻印は健在だったみたいだ。
俺は手や足を動かして、勢いよく立ち上がった。
成功だ。神の刻印の使用に成功したのだ。
だが悲しいこともある。
俺の体はいくら回復しても、骨のまま進まなかった。
ボロボロになっていた骨は傷一つない程に回復したが、そこまでだ。
つまり俺の体の最大値はここである事になる。
「気持ち悪ぃな!!な、何で回復してんだよ!!」
「…神様のおかげだな」
「何わけわかんねぇこと言ってんだ!!お前みたいな奴に、神なんぞが微笑むわけねぇだろ!!」
「俺もそう思う……思っていた。だがどうやらこの世界の神は、かなり悪趣味みたいだ」
俺はその場にいる全員に切り掛かった。
相手が怯むほどの剣幕で襲い掛かり、相手は先程の威勢を失って、高みの見物をしていた男に泣きついていく。
それをみかねた男が前に出て、俺との戦いを始めたが、結果散々なものだった。
俺は相手の力なんかに敵うはずもなく、ただひたすらに痛ぶられ続けた。
この説明だと語弊がある。
俺は痛みを感じないからだ。
ひたすらに攻撃を仕掛けられ続けたが、俺は一向に倒れない。
何故なら神の刻印があるからだ。
それも制限なく使用できるのだ。
元々神の刻印は自身の皮膚や筋肉などを劣化されるものだった。
その為、骨のみとなった俺が請け負うデメリットは無くなった事になる。
相手は徐々に息が切れ始め、動きが鈍くなってきたところで俺は攻撃を始めた。
自分よりも格上とはいえ、相手にも体力に限界がある。
俺はそこを突いた。
相手はやがて悔しそうな顔を浮かべながら、体力が残るうちに、その場から離れていった。
ボロボロになるまで攻撃を仕掛けられ続けたが、されど勝利を収めたのは俺だ。
勝利を収めたというのに、今の俺は何も喜べない。
何せ俺はこの戦いを通して、自分が人間でなくなった事を知らしめられたのだ。
やはりヒロはあの日死んだ。
今この場に立っているのは、神の刻印を所持した、何とも厄介な1匹のモンスターだ。




