第三話③
「お客様、こちらの防具は何らかの魔獣の素材を使用していたりしますか?」
「……どうしてそんなことを?」
俺はない筈の心臓が動き出したかのような気分になりながら、そう問いかけ返す。
「いえ、水晶に魔物についての反応が出ておりましてたので…」
「そうか…実はこの手袋は貰い物でな。詳しい事はわからないんだ。済まないが、曖昧でもいいので診断結果が欲しい。急いでくれるか?」
「分かりました……少し反応が鈍いので、はっきりとしたデータが出るかは分かりませんが、直ぐにご用意致します」
そう言って受付の方は店裏にはけていった。
この後は相手が診断結果をこちらに持ってきてくれるのを待つだけだ。
それにしても偉く動揺してしまった。
まさか本当に魔の反応を示してしまうとは、思っても見なかったからだ。
だがこの結果を見るに、やはり俺は人間ではなくなってしまったと、認めるしかないのだろうか。
気が気ではないほどに動揺しながら、俺は結果を待つ。
「お客様お待たせしました!こちらが診断書になります!」
そう言いながら、走ってこちらに向かってきた受付の方が持っていたのは一枚の用紙。
それを丁寧に俺へと差し出してきたが、俺は少し戸惑ってしまった。
この結果を見るのが少しばかり怖いのだ。
だがこのまま躊躇いを見せるのは不自然だと思い、さっと用紙を受け取って結果をじっと睨むように見つめて確認をする。
パッと全体を見たところ、この紙には人間か魔族かなどと言った、そう言った種族に関する結果は書かれていなかった。
だかそれはよく考えてみれば当然のことで、何せ魔のものが人間の元で身体検査をしてもらうはずがないのだ。
その直ぐ横に、〈スキル【反逆者】〉の記載があったが、これは冒険者カードに記されていた為知っていた事、もしかしたらこの検査をしてもらった事は無駄だったのかもしれない。
そうんな事を考えながら用紙の下の方を見てみると、俺は思わず声が漏れてしまうほどの、衝撃的な項目を見つけてしまう。
「レベル、魔力共に初期値?…どうなっているんだ」
何とそこには、本来の俺とは全くもって違う、レベルや魔力などといったステータスが書かれてあったのだ。
本来の俺のレベルは80で、魔力は5000を超えている。
それが初期値のレベル1になっており、魔力に至っては、0になっていた。
慌てる俺を心配するように、受付の方が声をかけてくる。
「やはり、結果に何らかの不具合が生じているのかもしれません。お客様の装備を見るに、レベル1なんてあり得ませんし……」
「その通りだ。何せ俺の役職は『回復職』、魔力が初期値なんてあり得ない」
だが、結果にそう書いているのだから認めるしかないといった、言わば諦めのような考えが頭に積もる。
それか受付の方の言う通り、これが間違いであるかといった希望にかけるのかだが、そんなミスなんて本当に有り得るのだろうか。少なくとも俺は、一度として聞いたことがない。
「それがこいつの実力ってことだろ!! 何ら不思議なことじゃねぇ!!」
すると、少し離れた席に座っていた冒険者らしき人物が、そのような言葉を俺の方へと向かって投げかけてきた。
「お客様困ります。争いを生むような発言は控えて下さい」
「お前がバカみたいな擁護してるからだろ! こいつは防具だけが立派な初心者冒険者、それで間違いねぇ」
随分と酔っているのか、呂律が回っていない話し方で暴言を吐き続けている。
同じ席に座っている仲間らしき連中は、こちらに何も言ってこないが、ケタケタと男の話を聞いて笑っていた。
「大丈夫です。俺は気にしてませんので」
「気取ってんじゃねぇぞ若造が!!喧嘩を買うことも出来ねぇのか!!」
どうやらここから離れたほうが良さそうだ。
変に争いを起こして、自分の姿を晒してしまうようなドジは踏みたくない。
「それでは失礼します。お騒がせしました」
俺は駆け足で店から出ていった。
診断結果のことで頭がいっぱいいっぱいなのに、変に絡んでこないで欲しいものだ。
さて、それでこれからどうしたものか。
積み上げてきたレベルも、魔力も無くしてしまった。
俺に残っているのは骨の体と……そうだ。あの力はどうなったんだ?
俺は街から離れながら、ある事を思い出した。
それは神の刻印だ。この体になってからと言うもの、そういえば一度も使用していない。
なぜ気がつかなかったのかと思い、俺は早速その力を発動させた。
もしかしたら肉体が回復するかもしれない。
今まで治せなかった傷など殆どなかったのだ。
俺は全身に渡って力を使い続ける。
何度も何度も繰り返して、そろそろ傷一つ残らないほど回復しているはずだ。
そう思い、体全体を確認してみるが、治っている箇所は1つとして見当たらず、依然として骨の姿のままとなってた。
この結果を見るに、もしかしたら神の刻印すらも失ったのかもしれない。
そうだとすれば、俺に残されたのは【反逆者】といった謎のスキルだけということになる。
魔力値も1しかない為、スキルを使用して確認することもできない。
完全に詰んでしまっている。
俺は路地裏で、天を仰ぐように空を眺めた。
すっかり日は暮れ初めており、それがまた悲しさを増幅させた。
「おいテメェ、何逃げてやがんだ?」
すると後ろから、先程の冒険者とその仲間が3人がこちらに向かってやってきていた。
俺はフードを深く被り直して、相手の方へ体を向ける。
ただでさえ落ち込んでいるのだから、そっとしておいて欲しいものだ。




