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ベルガル王国最強騎士と少女の王国再建物語  作者: 佐藤ヒロフミ
未来のために

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302/302

開戦


「……はぁ」



 ガヤガヤとした喧騒の中、男は一人大きな溜め息を吐く。酒場だった。


 男はここ、港を拠点にする水夫だった。過去形である。


 船長は海を生きる貿易を営む輸送船を持っており、部下を大切にする男だった。


 水夫もそんな船長を慕っており、どんな時でもついて行こうと決めていたのだが、だが何故今ここにいるのか。それは数週間前に遡る。


 帝国が突如発令した全土統一宣言。それによりスエド王国へと進軍するための船を、帝国を拠点にする貿易商から接収したのだった。


 彼が慕っていた船長も多分に漏れず船を接収。海を生業とする彼らからすれば、船を奪われるのは仕事を奪われるのと同義。船長は抗議した。



「…………」



 そして船長はどうなった。思い出すだけで水夫は胸が苦しくなる。


 泣きたいのか、叫びたいのか、誰彼構わず殴りかかりたいのか。自分の衝動が説明出来ずに胸の中を渦巻くマイナスの感情。


 抗議をした数日後、船長は大きな街の絞首台で首を括られた。


 帝国に逆らった、そういった名目でいとも簡単に船長の命を奪ったのだ。


 船長が拘束される際に共に抗議の声を上げた他の水夫も同様、今は船長の隣にいる。


 つまり今、酒場でちびちびと酒に口をつける水夫は、抗議を上げなかった男だ。


 船長や同僚が力付くで連れて行かれるのを目撃した水夫は、恐怖したのだ。



「…………」



 ちびり、残り少なくなってきた酒で唇を濡らすように、少しだけ口につける。


 無職となり、自分を信じられなくなった彼に出来ることは、安酒をちびちびと飲みながら一日を潰すだけであった。


 今も酒場を出れば、帝国兵があちこちを彷徨いている。彼らを見るだけで本能的な恐怖を覚えてしまった水夫は、酒場から出ることすら恐怖していた。


 自分を恨み帝国を恨む水夫だが、何の行動も出来ずに今日もまた酒で一日を無駄にする。


 ……そう思っていたが。



「おい! 敵だ、敵がやってきたぞ!!」



 息を切らせながら酒場の扉を開き、一人の男が飛び込んできた。


 喧騒はいったん止んだかに見えたが、次はどよめきが広がる。


 酒場にいた人間はすべて酒場を出て行く。ある者は港を逃げ出し、ある者は野次馬の如く埠頭へと向かう。



「……敵?」



 水夫は思う。船長を殺し、同僚を殺し、自分を臆病にさせた。本当の敵はどっちなんだと。


 しかし口には出せない。口に出したが最後、船長と同じ場所に運ばれていく。それは怖い。


 だから心の中で願う。敵でもなんでも良い、この現状を……誰か、変えてくれと。


 誰もいなくなった酒場で、水夫は一人ちびちびと酒に口をつけていた。




――――――――――




 船の上から埠頭が見え始める。そこには横一列に並んだ帝国兵がいた。


 前列は盾を構え、後列には弓を持った兵士たち。どれだけ烏合の衆であろうと、手に持った武器防具は一級品。苦戦は免れない。



「リザードリアン、水中から奇襲をかけろ。弓兵はリザードリアンが気取られないように射掛けて注意を引け」



 帆船の後ろからリザードリアンが海に飛び込み、潜水。


 オズワルドの指示通り、弓を持った兵士たちは弦を引き絞っていた。



「オズワルド隊長、魔術兵は如何するか?」



 エルフの長、エレンシアは厳かな言葉を選んで指揮官であるオズワルドに尋ねる。


 他の者の目もある以上、彼の先生であったエレンシアといえど言葉には気をつけなければならない。



「待機だ。港を兵站の要衝とする以上被害を出すわけにはいかない」


「了解だ」



 こちらが弓を射掛けるよりも早く、帝国の矢が放たれた。無数に見えるそれは、それこそ雨のようだ。


 炎が灯る矢尻が火の雨になって降り注ぐ。



「バードリアンと飛鷲族、前へ」



 指示通り翼を持った部隊が前へと躍り出る。


 両軍は翼をはためかせ、帝国の矢に向かい風を向けた。


 推進力を失い、帝国の矢は海へと落ちていく。そこでオズワルドは号令をかけた。



「今だ、矢を。風に乗せて矢を敵へと射抜くのだ」



 帝国から見れば向かい風なら、連合軍から見れば追い風。曲線を描かずに直線軌道を描く矢は、追い風に乗ってまっすぐ飛んでいく。


 追い風によって推進力がプラスされた矢は、一本のか細い矢でも衝撃力を生み出す。盾にぶつかる細い矢ですら、バランスを崩すほどだ。



「リザードリアンが奇襲をしたと同時に港に乗り込む。一気に制圧しろ」



 海面が隆起し波立っていく。しかし船を注視している兵士たちは、すぐそばの不自然な波に気付けない。


 だから一歩出遅れる。兵士の視界は、気が付けば無数のトカゲの亜人で埋め尽くされていた。



「ハッハー!! てめえらアニキの前だ! 存分に暴れて良いところを見せつけてやろうぜ!!」



 リザードリアンの長……代理、モードである。


 他のリザードリアンとは一線を画す大柄な体系。片手に握られた巨大な両刃の戦斧。


 かつてオズワルドとの一騎打ちに敗北した彼は、リザードリアンの長の地位をオズワルドに譲った。


 しかし引き続き、彼は長代理という名目でリザードリアンを率いていた。



「オラァ!!」



 モードの強大な一撃。帝国兵の盾ごと薙ぎ払う。背後に控えていた弓兵たちも、剣を抜く前に吹き飛んできた盾兵にのしかかられて身動きが取れなくなる。


 動けなくなったとあれば敵ではない。一人ずつ、そして確実にトドメをさされていく。


 突如現れたリザードリアンに狼狽する帝国兵たちだが、彼らだけに構ってもいられない状況となっていた。


 空から鳥の亜人であるバードリアンと、グリフォンにまたがる飛鷲族による空からの攻撃も開始される。


 新生ベルガル王国を筆頭とした解放軍の奇襲は大成功を治める、またたく間に埠頭を制圧し、全員が陸に乗り上げる。



「バードリアンと飛鷲族は空からの警護。リザードリアンは埠頭の防衛を。傭兵諸君は港を見回って帝国兵が潜んでいないか確認」



 陸に降り立ったオズワルドが的確な指示。誰も異論を唱えることなく指示通りに動き始めた。


 野次馬に訪れていた港に住む人間たちは、突如現れた敵軍に恐々とした様子を見せる。そんな彼らに向かってシンシアは矢面に立つ。



「皆様、私たちは帝国からの圧政から解放しにやってきた解放軍です。もし私たちが気に入らないのであれば港から立ち去ってもらって結構。私たちは一般市民に手を出さないことを約束します」



 市民たちはぽかんと口を開く。こんな少女が、解放軍を?


 信じられない、といった風に少女を眺める。


 その中にはちびちびと酒を飲んでいた水夫もいた。水夫はしげしげとシンシアを見つめる。


 ……何処かで見た気が。しかし思い出せない。酔った頭では記憶も不確かなモノだった。



「私は元々帝国領に住んでいましたが、まるで暴君のように振る舞う帝国に嫌気が差し国を飛び出しました。そして力を得た、だから世界を正すべく、やってきたのです」



 しかし見たことがある。いったい、何処で、いつ?



「シンシア様とオズワルド様に報告! 海から帆船が数隻、帝国の旗印を掲げています!」



 バードリアンを率いる隊長が報告にやってきた。彼は人間である彼女たちに反目していたが、周りがシンシアたちを受け入れていくのと同じく、心をひらいていった。



「リザードリアン、海から――いや待て、あれは……?」



 目視できる距離に見える帆船。帝国の旗印は確認できないがまっすぐ港に向かってきているようだ。


――しかし、その帆船たちが斜めに傾く。海から現れた何かに横倒しにされていったのだ。


 横に海面に倒れた帆船はあちこちを折って海面に徐々に沈んでいく。


 海面から現れたそれは――シンシアたちには、懐かしいモノだった。



「あの姿……あれって、あの時の……亀!?」


「……そのようですね」



 メガタートル、と呼ばれる巨大な亀である。


 満足に食事を捕れずに動けなくなっていた巨大な亀を、かつてシンシアは救ったことがある。



「…………こっちを見てる?」


「恩返し、でしょうか」



 海面からシンシアをじっと見ている、気がした。


 感情を映し出さないため完全に理解は出来ないが、視線は確かに絡み合った気がする。



「ありがとう!」



 海に向かって手を振るシンシア。するとメガタートルはゆっくりと沈んでいった。



「…………っ!!」



 その時、水夫に閃くものがあった。少女と亀、そこから引き起こされた記憶は……。



「み、水着で港にいた嬢ちゃんじゃねえか!?」


「お……覚えてる人がまだいたんだ!?」


「やはりあの時記憶が消えるまで殴るべきだったのです」



 かつての羞恥を思い出し顔を赤くするシンシアと、堅く握りこぶしを作るオズワルド。


 その光景は、戦の真っ最中だとは思えないほど、一時とはいえ穏やかな時間であった。

読んでくださってありがとうございました。

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