表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベルガル王国最強騎士と少女の王国再建物語  作者: 佐藤ヒロフミ
大国を覆い尽くす闇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

300/303

終わりに近付く物語、始まる英雄譚


「おい……おいリンド」


「なに?」



 数週間後、傭兵大国マーセルの傭兵たちの全兵力をスエド王国の関所に集めた。


 約千五百。歴戦の猛者たちが一同に集まることとなった。


 しかし彼ら全員を束ねる頭領であるヴァラカは娘のリンドを心配そうに眺める。


 彼にしてみればほんの数ヶ月だ。ドーリング王国の仕事から戻ってきたかと思えば、娘の表情は凍てついて帰ってきた。


 報告は受けている。娘に、そして娘の婚約者に何があったのかも聞いている。


 元々新生ベルガル王国の約束があったとはいえ、これは仲間の弔い合戦だ。帝国の目的のために奪われた命、何が何でも贖わさなければならない。


 傭兵が他国に実績と信頼を重んじるならば、仲間には絆を最も重きとする。背中を預けて戦う同胞なのだ、一人一人の生い立ちや境遇、好みまで把握している。


 だからこそグランを失ったのは全員の悲しみだ。全員が共有し、ともに涙を流す。


 遺体をマーセルに持ち帰り火で送ったときも、全員が涙を流していた。だがリンドは違う。


 鋭い目つきでのぼる煙を睨みつけ、腰に差した剣を強く握りしめていた。



「お前大丈夫なのか?」


「……大丈夫なわけないでしょ」


「なら――」


「グランが流した血の何倍もの血を帝国兵で流させる。そうしなきゃ……でないと」



 ヴァラカが気遣った言葉とは違う意味で返ってきた言葉。


 彼女は血を求めている。復讐だ。


 昨夜ヴァラカは娘に対し、留守番を命じた。復讐に身を落とした者や自身の安全を顧みないからだ。娘を失うわけにはいかないという、父の親心であったのだが。


 リンドはヴァラカに剣を向けた。


『私を止めたいなら手脚を斬り落とすのね、父さんであっても私を止めることは許さない』


 彼女の瞳には憎しみしか宿っていない。目的のためならば彼女はきっと仲間にすら剣を振るうだろう。


 故に許可した。許可するしか無かったのだ。



「……無茶はするなよ」


「ええ、そうね」



 聞くつもりがない、と言外に伝えるかのような気のない返事だった。


 不安を煽られるが、このままにしておいたら単身向かいそうな勢いだ。



「………………シンシア嬢、こっちは準備出来たぞ」


「そうですか、ありがとうございます。こちらも各方面に報せを向かわせました」


「こんな時に言うのもなんだが……リンドを頼む。俺も立場上、あいつを見てるだけっつー訳にはいかねえからな……」


「はい、心が凍ってそして燃え盛っているように見えますけど、一応冷静さは残しているみたいですから」



 恐らくは大丈夫だろう。復讐の相手がでてこなければ、という前提のもとだが。



「ああ、そう願う…………それで、ここからはボスとしてのお願い……というか、提案だ」


「依頼料、の話ですよね?」


「ああ、こっちも私怨があるとはいえど貰うもんは貰う。でないと示しがつかないからな……それとは別に、条件がある」


「条件?」



 もう一度頷いてヴァラカは仲間たちの方を見やる。


 自身の得物を磨きながら、同胞たちと雑談に興じる荒くれ者たち。



「見ての通り躾も何もねえ野良犬みたいな奴らばかりだ。頑張りには肉と骨で褒めてやらないといけねえ」


「それって……?」


「略奪を認めろ、と言っているようです」



 シンシアの背後に控えていたオズワルドが耳打ちする。彼の言葉を裏付けするようにヴァラカは頷く。


 だがそんな彼に向かってシンシアは厳しい視線を投げかけた。



「そんな非道を許すと思ってるのですか?」


「おいおい、何も一般人に剣を向けるわけじゃねえ。俺たちの狙いはあくまでもグロリア帝国だろ? 帝国の兵士たちからぶんどる分には文句ねえんじゃねえのか?」


「……本当に、軍部だけ?」


「ああ、マーセルの誇りに誓う。絶対に民間人には手を出させねえ」



 シンシアは背後のオズワルドを首を動かして見る。もしもオズワルドの道理に反することなら彼は何かを言うと思ったからだ。だが何も言わずにただ立っているだけ。


 本当ならば軍の略奪すらも止めたいところだが、流石に全員が全員シンシアと同じ善なる心を持っているわけではない。


 譲歩するところは譲歩しなければならないだろう。



「わかりました、重ねて言いますが……民間人には絶対に」


「手は出さねえ」


「はい。では行きましょう」


「了解だ……お前ら、行くぞ!」



 野太い呼応する声を聞きながら、前進を開始する。


 関所が開き、重く大きな扉が開く。そこを抜ければマーセルにとって憎き土地、スエドの領土だ。


 そしてそこには、スエド王国の兵士が待ち構えていた。


 盾兵が一列に並び、まるで戦列を整えているかのように対峙する。



「……おいおい、これは…………」



 傭兵たちに一瞬で緊張が走る。元々和解には程遠い因縁がある。敵国同然なのだ。


 だがスエド王国側に動きがある。兵士たちは左右に道を開き、馬に乗ったスエド王がヴァラカの方にやってくる。



「…………スエド王か」


「ヴァラカ王」


「いったいこれは何の真似だ?」



 王の背後の兵士を見やる。彼らは無表情にマーセルの傭兵たちを見据えていた。


 約二百人。志願兵も含めた、スエドの守りを固める全兵力である。


 警戒心を露わにするヴァラカだが、彼の目の前で馬を降りるスエド王。そして……。



「すまなかった」


「あ……?」



 深々と、頭を下げる。ぽかんと呆気にとられるヴァラカを前に、スエド王は謝罪の言葉を改めて口にした。



「マーセルの土地に攻め入ったこと、この場を借りて深く陳謝する。本当に申し訳ないことをした」



 先代王、つまり現スエド王の父が行った略奪行為。それによって断絶した国交は、今に至るまで修復することはなかった。


 熟成され続けた遺恨は、そう簡単に割り切れるものではない。



「……今は休戦なんだろ?」


「ああ、敵は共にある」


「ならその話はあとだ。背中を預けることは出来ねえが……片翼を任せることくらいは出来るかもな」


「任せてくれ…………って、え?」



 スエド王はマーセルの傭兵集団に目をやった。そこで見たものは、よく見慣れていた金色の髪。



「セオドア!?」



 追放したはずの息子である。端正な顔立ちに傷を作ってはいるが、仲間と談笑するその姿はかつての第一王子とは似ても似つかない。



「追放したんだろ? なら引き取っても文句無かったよな?」


「あ、ああ……だが何故?」


「何故も何も、弟だからな」


「そうか……そうだな、ああ、そうだ……」


「お前も義父なんて言わねえ。俺からすれば母を奪った大罪人だ。だけどな」



 次はヴァラカが深々と頭を下げた。



「母を、親父から引き離してくれて、ありがとう」


「ヴァラカ……義理の息子……」


「ちげえよ! お前とは因縁深いケンカ相手だっての!」


「ふっ……セオドアのこと、よろしく頼む」


「はっ……頼まれなくても守ってやるさ。家族だからな」



 お互いに笑みを見せ、ここはひとまず和解。


 共通する敵を倒した時、初めて歩み寄ることが出来るだろう。だがそれは今ではない。



「シンシア女王、我らスエドも参戦致します」


「ありがとうございます。それでは……」



 準備は整った。敵は強大な帝国だ。


 だからこそシンシアは方々に仲間を募った、危機を救ったりしながらも親交を温めた。


 シンシアを、そして新生ベルガル王国を知る者は口を揃えてこう言うだろう。


 救世主と。救いの女神だと。



「では、全軍前進! 目標は――グロリア帝国!!」



 救いの女神の傍らには、漆黒の騎士がいる。圧倒的な武力、見たこともない剣術を用いながら敵を屠る女王の剣であり盾。


 雌伏の刻は終わった。


 かつては帝国から退き、点々としながら爪と牙を研ぎ続けた。


 今こそ研ぎ続けた武器を抜く時、長きに渡る圧政から民を救う。


 そう、これはかつて暴君と呼ばれた王の魂を持った――うら若き少女が救世主となる冒険奇譚である。



「今こそ、世界をグロリア帝国の手から解放するのです!!」

読んでくださってありがとうございました。

もしよろしければ、評価等をお願い致します。


次からが最終章になります、最後までお付き合いいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ