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ベルガル王国最強騎士と少女の王国再建物語  作者: 佐藤ヒロフミ
盲目の騎士は雨に歌う

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とある国の話、新たなはじまり


 サンディラ大陸という小さな島国があった。


 端から端まで歩いて二週間ほどの小さな島国だ。森が生い茂るその島の中央には、似つかわしくないほど立派な城があった。


 新生ベルガル王国。その城は王国を掲げ、小さな島一つの領土を持ち、繁栄に身を粉にする。


 北西にある港。作りたてこそあばら家のようなものが並んでいた港だったが、度重なる建築によって石造りの物の立派な港が完成した。


 埠頭には帆船が一隻。その船は西にある亜人の大陸とを結ぶ交易船として用いられている。


 そして島の北側、そこには同じく石で作られた家屋が建ち並び、家屋の隣にはそれぞれ厩舎のようなものが建てられていた。


 厩舎から何かが出てくる。鋭く大きなくちばし。ワシの頭を持ち、胴体は獅子。巨大な翼を広げ、翼の裏側をくちばしで毛繕い。


 繋がれてすらいないそれは、グリフォンと呼ばれる幻想種。


 幻想種を相棒に持った人間。飛鷲(ひじゅう)族と呼ばれる部族の集落であった。


 元々は山岳地帯に住まう彼らだが、平地の暮らしを望んだ希望者のみが移住してきたのだ。


 戦闘ともなれば彼らはグリフォンにまたがり空の騎兵として戦場を蹂躙する。


 さらに島の東側から南側まで。そこにはたくさんの木々が生えた森。更に森の中には人間とは違う亜人が住んでいた。


 エルフ。


 長寿で知られる希少な種族である。


 千年前の大きな戦いで散り散りになった彼らは、安住の地を求めて彷徨い続けた。


 そうして見つけたのが、この大陸。南側の森を残すことを条件に新生ベルガル王国に恭順したのだ。


 様々な種族と契りを結び、人間だけでなく亜人や幻想種といった、様々な種族と共に共存する新生ベルガル王国の王は――



「シンシア様」



 ここは城の中にある玉座の間。何をするでもなく、玉座に座りぼうっとしていた少女は、紙の束を持った女性に声を掛けられた。


 女性の姿はスラッとした長身。長い金色の髪の隙間からは長い耳が垣間覗く。


 エルフ族の長、エレンシア。


 昔から彼らと縁のある彼女は、千年の時を経て再会。シンシアに忠誠を誓い、まだ未熟な女王の諸々の指南役を買って出ていた。


 対する少女はオレンジ色の髪の毛を後ろに結び、藍色の瞳を動かして女性を見る。



「此度のエルフの実による収支です」


「……ありがと…………でも、こういうの苦手だから……エレンシアさんがやってほしいんだけど」



 紙にはぎっしりと文字と数字が埋め尽くされていた。


 代金に輸送費、人件費に売却額。


 シンシアと呼ばれた少女は見ただけで頭が痛くなるのを感じた。



「いえ」



 長耳の女性はゆっくりとした動作で首を振る。



「これは国の運営に関わること。女王であるシンシア様がやるべきことです」


「う、う~ん……」



 尤もな意見。反論できずに困ったように唸り声を上げたシンシアは、右後ろ、左後ろに視線を彷徨わせる。


 そこには女性と男性が一人ずつ立っていた。


 女性は護衛らしからぬ軽装。深い青色の髪を短く切り揃えており、武器は腰に差した小さな短剣一つ。



「こっちを見ないでくれる? 私の仕事の範囲外だし」



 女王であるシンシアに向かってぞんざいな言葉。だが誰も気にすることはなかった。


 名をネネという。シンシアの護衛兼友人という珍しい立ち位置の少女は、公の場以外ではこのように言葉を崩してシンシアに接するのが常であった。


 そして彼女には一つ秘密があった。それは――



「そうです、女王たるものすぐに部下に頼るのはよしなさい!」



 ネネの声が突然高くなる。


 顔つきも変わり、つっけんどんだった先ほどとは違い、高圧的な態度でシンシアに接する。


 ネーディス。ネネの内側に潜んだもう一人の人格である。


 ベルガル王国に呼応することで目覚めた人格であり、暗殺術を用いる手練れでもあった。ネネは彼女と共存することで、力を貸してもらっていた。



「……オズぅ」



 反対側へと首を動かす。そこには背後に控えた大柄の男が立っていた。


 真っ黒な鎧。胸元に刻まれているのは間違いなくベルガル王国の紋章。ヘルムを被り甲冑を身にまとい、微動だにしないその姿はインテリアと言われれば初見の人物であれば信じてしまうだろう。


 だが、それは確かに生きていた。



「大変なのは心中お察ししますがシンシア様……それは国の行く末を握った大事な案件ですので……」


「…………そうだけど」



 オズワルド・ガベル。ベルガル王国に忠誠を誓い、そしてシンシアに忠誠を誓う忠義の心を持った騎士である。だが――


 彼は現在、人間とは程遠い存在であった。


 ならば亜人だろうか? それとも幻想種? いや、そのどれとも違う。


 彼は元人間であり――千年前に死んだ存在であった。


 国に深く忠誠を誓った黒騎士は、朽ちた身であっても尚蘇り、国のために尽くし続ける。


 故にその肉体は既に形を持っていなかった。蘇ったその瞬間は、まさに動く骸骨。


 痛覚も、食欲も、睡眠欲も無く。ただただ国のために働くアンデッド。


 だがそんな彼も、シンシアと関わる内に変わっていった。


 数多の敵と戦った。そこにはかつての同胞も。


 同胞と戦い、力を集めていく事で彼は人間らしさを少しずつ取り戻していったのだ。


 骸骨だった肉体は血肉が通った。しかし頭はまだ骸骨というアンバランスさではあるが。


 痛覚や睡眠欲は失われたままだが、食欲は取り戻した。


 オズワルドはシンシアに仕えることで、徐々に人間としての形を持ち始めていたのだ。



「それにシンシア様、今日はクレアが腕によりをかけてケーキを作っているそうですよ。ひと仕事を終えた後のスイーツは……さぞ格別でしょう」


「…………オズ、私のこと、子どもか何かだと思ってるの?」


「……い、いえ、そのようなことは」



 その時、玉座の間と廊下を繋ぐ大きな扉が遠慮もなく開け放たれた。



「皆さん! お姉ちゃんのケーキが出来たみたいですよ!」



 茶色の髪を短くした少女が現れた。


 丸い目を爛々と輝かせながら現れたその姿は、快活を体現したかのような出で立ちである。



「リコ……ここを何処だと思っている」



 エルフ族のエレンシアは今にも怒りを爆発させる勢いだったが、玉座の間ということもあってなんとか堪えていた。


 リコと呼ばれた少女はその姿を見てたじろぎ、しょんぼりと肩を落とした。



「あ、あはは……すいません」



 リコ。ベルガル随一の医師であり、治癒魔術を使える唯一の術士である。



「先に行くんじゃねえよ」



 リコの首根っこをひょいとつまみ上げ、現れたのは二足歩行のトカゲ。


 リザードリアンという種族であり、名をディーノという。


 親を失ったリコとその姉に、親代わりを務める心優しい亜人である。


 ただし、聞き分けの良い姉とは違い、妹であるリコには常に手を焼いていた。


 その時、玉座の間に甘い香りが漂う。


 ディーノの後ろから大きなホールケーキを持った少女が現れる。


 長い茶色の髪。その顔はリコとそっくりである。


 ただし、リコの丸い目とは反対に、その少女の目は優しく垂れ下がっていたが。



「ケーキ、出来ましたよ?」


「クレア……オレが持つって言っただろうが」



 クレアと呼ばれた少女の腕からケーキを取り上げ、リコを下ろす。


 ベルガル唯一の料理人であり、その名は島国以外にも轟く名シェフである。


 今では他国からも彼女の料理を食べにやって来ることもあるくらいだ。



「ケーキ美味しいよ? 皆食べないの?」



 クレアの陰から現れたのは赤毛の少女。サイドテールを揺らしながら、もぐもぐと咀嚼を続ける。


 グリフォンを相棒とした飛鷲族。その長であるマルティナである。


 父を早くに亡くし、自動的にリーダーの立場を引き継ぐことになった彼女ではあったが、オズワルドやシンシアらの助力もあり、今では立派に長としての職務を全うしていた。



「なんで一人で先に食べてんの」



 シンシアの背後に控えたネネが冷たく言葉を言い放つ。



「だってお腹空いたし」


「そうじゃなくて、シンシア差し置いて先に食べるとかどうかしてんじゃないのって話」



 顔を合わせる度に口論になる二人。


 一行とってはもはや見慣れた光景で、止めることは誰もしない。



「さ、食べましょー!」



 リコは持ってきていたシートを広げる。


 それはまるでピクニックに使われるような……いや、まさにピクニックで使われるシートだった。


 エレンシアが咎める暇もなく、リコが上に乗り、続くようにディーノ、クレアもシートの上に座り込んだ。


 玉座の間がいつの間にかピクニックの広場へと様変わり。玉座から立ち上がり、シンシアも吸い寄せられるようにシートへと歩いて行った。



「シンシア様……っ、はあ、もういい……言うだけ無駄か」



 エレンシアも諦めたように溜め息を吐き、シートへと歩いて行った。


 未だ口論を続けるネネとマルティナの脇を抜け、オズワルドはシンシアの傍まで歩いて一礼する。



「巡回をしてまいります」


「あれオズ、ケーキは?」


「シンシア様に差し上げます」



 恭しく一礼をした後、オズワルドは城を出る。


 城こそあれど民のいないこの国は、まるで気の合う仲間たちが作った集落のような存在だ。


 それが悪いことだとは思っていない。事実シンシアは毎日を楽しそうに生きている。


 だが、と不安が過るのは彼が心配性なだけか、それとも……。



「……ん?」



 海沿いに東へと歩いて行くと、見慣れないものが見えた。


 遠くに見える黒い塊。確かめるべく足を進めていく。



「……これは…………?」



 それは馬だった。いや、本当に馬だろうか?


 頭には角が二本ある、とても大きな馬のような姿をした、何かが流れ着いていた――

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