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ベルガル王国最強騎士と少女の王国再建物語  作者: 佐藤ヒロフミ
黄金都市の出会いと別れ

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責任と存続


「随分やられちまったみてぇだな?」



 塔の頂上、ビリオンを支える五柱の商家が囲む円卓。


 騒動の最中一度も姿を見せることが無かったトパーズ家が開口一番そう言った。



「……貴方は、何処で何をしていたのですか?」



 エメラルド家当主が冷静を保ちながら問いかける。


 大きな体を椅子の背もたれに預けながら、トパーズ家は悪びれもせず答えた。



「工房にいたぜ?」


「……人口の六割ですよ。それだけの数の命が失われた時に、貴方は工房にいたと?」


「ああ。あの化け物たちときたらよ、手当たり次第に壊しまくってただろ? 俺の工房を壊されちゃかなわんからな」



 絶句する。


 街を支える一柱が人よりも物の方を大事にしているという事実。



「貴方はそれでも人間ですか!? 工房なんてまた作ればよろしい、人命のほうがよっぽど尊いものでしょう!?」


「そういう綺麗事はいらねえよ」



 冷静を保っていたエメラルド家だったが、あまりに命を軽んじているトパーズ家に我慢の限界は早々にやってきた。


 食って掛かるが、煩わしいとばかりに手を振って咎める声を受け流し、聞き返す。



「じゃあ聞くが、残った人間を守るための武器を作るのは? 命を守るための防具を作るのは一体誰だ? 何で作るんだ? 工房を壊され、修復するまでに一体何で戦うんだ?」


「そ、それは…………ですが、使う人間がいなければ!」


「人間がいても、使う道具が無ければ?」



 平行線だ。そもそもの優先順位が違うのは火を見るよりも明らかである。


 手に持った扇子をへし折らんばかりに握りしめるエメラルド家とは対照的に、涼しい顔で椅子にふんぞり返るトパーズ家。



「言わせてもらうがな、工房にいた連中は怪我こそしたものの誰一人として死んでねえ。全員武器を持って戦って、俺も工房を守るためにそうした。お前らはどうだ?」


「……何がいいたいのですか」


「ハッキリ言われねえとわかんねえ、ってか? 戦う力も無ぇ癖に、人を咎めるしか脳のねぇバカが。って言ってんだよ」


「バ、カ…………っ!? その罵りは今必要ありませんよね! 撤回を要求します!」



 聞き流すように頭をかきながら、空いた席を二つ見やる。


 一つはスラムの住民と同じくクスリを摂取して死に絶えたガーネット家。そしてもう一つは。



「あんたらが普段小馬鹿にしてるサファイア家の嬢ちゃんの方がよっぽど上等だ。力は持ってねえが周囲の力を上手く使ってテメェの周囲を守った」



 エメラルド家、そして黙りこくったカーネリアン家を見る。


 カーネリアン家は黙っていたわけではない。全身包帯だらけで、喋ることが出来なかったのだ。



「自分は何もしなかったのを棚に上げてヒスを起こすババァ。んで、賊どもに通行を許可した結果裏切られて、ボコられたうえに何もかも失った自惚れ坊や」


「むー!! んー!!」



 抗議の声を上げるが、何言ってんだかわかんねぇよ。と一蹴するトパーズ家。



「不確かな推測で会議の席を奪って、お前ら何がしてえんだ?」


「ですが、彼女は自分の意思で脱獄したのですよ? あとババアはよしなさい!!」


「無実の罪で、な。状況証拠だけで言うならガーネット家が一番怪しいだろ、化け物と同じになっちまったし。それにあいつはいつでも周囲を見下してた、自分がトップに席巻するためには何でもしたんじゃねえか?」



 しかしあくまでも状況証拠、裏付ける確証なんてものは存在しない。


 実際のところ、ガーネット家当主は今回の騒動に何ら関与していない。元々中毒者であった彼は、新作に飛びついただけのジャンキーである。


 だが使用人も全員死に絶えた屋敷では目撃者も証言者もおらず、保身に長けた当主が書面での証拠を残しているわけもない。故に確証は屋敷をひっくり返してもでてこないだろう。



「……まあ、俺は俺の仕事が出来ればそれでいい。とはいえ、このままだと運営に支障が出るな…………ああ、五柱の権限でサファイア家は無罪放免でもするか」


「何を……!?」


「だってよ、証拠がねえんだろ? なら証拠が出るまでビリオンを引っ張ってって貰ったほうが、住んでる奴らも楽だろ。言い逃れできねえほどの証拠が出てから牢にぶち込めばいい。違うか?」


「ですが、それでは他の者に示しが!」



 尚も食い下がるエメラルド家から視線をそらし、トパーズ家は椅子から立ち上がる。


 そのまま出入り口へと足を向けた。



「何処へ行くというのです!」


「帰る。仕事もあるしな、ついでに無罪にしてくら」


「勝手なことを――」



 トパーズ家に食って掛かるエメラルド家。


 だが、突如振り向いたトパーズ家が、彼女の襟首を掴んで持ち上げた。足がつかなくなるほど高く持ち上げられ、絶句する。



「うぜえ」



 短くそれだけ言って、軽く放り投げる。


 尻もちをついたエメラルド家は怯えた表情でトパーズ家を見上げるが、彼は無視して出入り口へと向かっていった。




――――――――――




「つーわけでよ、後頼むわ」


「頼むわ、って……」



 サファイア家にやってくるなり言い捨てた。


 突然やってきて残す言葉に、アイラは戸惑いを隠せない。



「あいつらも専門分野に対する見聞はすげえが、如何せん利己的すぎるのがな」


「あの、本当に良いんですか?」


「ああ。あの二人も家のゴタゴタを片付けるのに手一杯だろうしな。だがこの家は被害も少ないし、あいつらよりは余裕もあるだろ」



 家を失い、職を失った市民の申し出は後を絶たない。


 しかしエメラルド家とカーネリアン家は内部処理にかかりっきりであり、外に目を向ける余裕はない。



「トパーズ家は……私を疑ってはいないのですか?」


「どうでもいい」


「ど、どうでもいい?」



 ああ、と頷いて腕を組む。


 大柄である彼が腕を組んで見下ろしてくると、ただそれだけで迫力がある。



「確たる証拠がないんなら疑うだけ時間の無駄だ。俺ならその無駄な時間を仕事に使うね」


「……ありがとうございます」


「興味がない、って言ってるのに礼を言うのも変な話だな………………ああ、変な話ついでに。ガーネット家が担当してた分野もついでに頼むわ。じゃ」


「え? ちょ、ちょちょちょちょ!! トパーズ家!?」



 踵を返して逃げるように去ろうとしていたのを慌てて呼び止める。


 逃げ切れなかったことを悔やむように気まずそうに顔をしかめた。



「どういうことですか!?」


「絵画とかツボとか美術品とかはともかくよ、大変なときこそ酒やタバコといった嗜好品はストレス解消に必要だろ?」


「ですが、私はその辺りの審美眼は一切養ってはいませんよ!?」



 血統至上主義であり、それ以外の人間を見下していたガーネット家だが。


 専門分野における目利きは流石の一言であった。


 対するアイラは雑貨や食品を専門分野に行ってきた、いわば畑違いである。


 そんな彼女に任せるには、荷が勝ちている気がするが……?



「カーネリアンとエメラルドはそれどころじゃねえ。じゃあお前がやるしかねえだろ」


「トパーズ家は!?」


「俺がそういうのを出来るように見えるか?」


「………………………………いいえ」


「だろ。俺もそう思う」



 残った人間はアイラしかいない、ということになる。


 断ることも出来るだろう。だが困るのは一体誰か? 市民である。


 家もなく、職もなく、肩に大きくのしかかるストレス。一時しのぎとは言え逃げ場所は必要だ。



「わ、わかりました……ですが、本当に困ったら助けてくださいね!?」


「ああ、酒瓶なら優先的に用意してやるよ」



 そういうことではないのですが……。と声を出そうとした時だった。


 庭先から沢山の悲鳴が聞こえてきた。


 またあの怪物が……!? アイラは慌てて飛び出す、背後にはトパーズ家もついてきていた。


 庭に出ると、大きな風を生む音がいくつも耳に届いた。


 晴れているにも関わらず、大きく影が作られ暗く感じる。


 見上げてみる。すると上空には大きな翼を持った獣の姿。


 市民は悲鳴を上げて逃げ始める。



「なんだありゃあ!?」



 トパーズ家は驚きの声を上げる。


 アイラも驚いて口を両手で抑え、悲鳴を力付くで抑えてはいた。しかし新たに訪れた脅威に足が震えて逃げることも叶わない。


 私兵たちも恐怖から腰を抜かしている。万事休すか。


 そう思った時、獣から一つの影が飛び降りてきた。



「っとと……やっぱり間に合わなかった?」


「……ネネ、さん?」



 軽装の女性、ネネである。


――ということは、つまり上空の獣たちは……?


 一つの影が降りてくる、地面に着地すれば見えるのは影ではなく、大きな幻想種だということがわかる。



「あの、ネネ? もしかしなくてもアタシ達って」


「遅かったみたいね」



 金色の翼、そして獅子の下半身を持った獣は――そう、グリフォンである。


 女性が地に足をつける。またがっていたグリフォンを労わるように撫で、心地良さからグリフォンは目を細めていた。



「あ、そうだアイラさん。山岳の途中で倒れてた人を拾ってきたんだけど」


「……ええ、確かにうちの者です。ということは、彼女が……?」



 ネネが指を差した場所はグリフォンの背中。そこに横たわる男性が一人。


 飛鷲族とコンタクトを取るために派遣した人物であり、帰りが遅いことを心配もしていた。


 一人の少女に目を向ける。赤い髪をサイドに結んだ快活そうな少女。


 持っていた双刃の戦斧を地面に起き、アイラに向けて笑顔を向ける。



「はじめまして、飛鷲族の長のマルティナです」


「ど、どうも……アイラ・サファイアです」



 思っていたよりも若い長に、戸惑うアイラであった。

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