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ベルガル王国最強騎士と少女の王国再建物語  作者: 佐藤ヒロフミ
不死の騎士

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ギガクラブ


「十日分の宿賃は僕たち五人で出し合って払っておいたから。足りないかも知れないけれど、あの時のお礼……ってことで」


「何から何まで……ありがとうございます」


「ありがとう、ローク」


 ヴェストの宿屋の前。


 無一文だったシンシアとオズワルドは、ロークたちのはからいにより宿を世話してもらっていた。


 決して豪奢な宿屋ではないが、店主の人の良さや、一階部分のレストラン部分の賑わいを見て、良い宿屋だと感じ入る。


「じゃあ、僕は仕事に戻るから……本当にありがとう」


「こちらこそ、ありがとうございました!」


 シンシアは深々と頭を下げる。


 オズワルドは右手を胸に置き、一礼した。


 ギルドのいざこざから少し。


 未だ日は高い。


「薬草採取に行きますか?」


「そうですね、行きましょうかっ!」


 どちらが前に立つでもなく、並んで歩き出す。


 喧騒と雑踏に囲まれ、初めての人混みに少しだけ人に酔うシンシア。


「大丈夫ですか?」


「はい、ちょっと……クラっと来ただけですから」


「休んでから行くことも出来ますが……」


 オズワルドの言葉に、ふるふると首を振る。


「いえ、大丈夫です。外に出たら良くなると思いますから」


 強がりかと深読みするが、シンシアの視線は外を求めている。


 オズワルドは少しだけ前を歩き、人の波を自身の身体でかき分けていく。


 そうすることでシンシアの歩みが楽になれば、との考えのもと。


 門をくぐり、門番をしている兵士たちの不躾な視線を無視して街の外へ。


「………………ふう」


 広がる平原。


 人の間を流れた淀んだ風ではない、澄んだ空気。


 外を歓迎するかのような空からの光を体に受け、シンシアは深呼吸。


「………………」


 その様子を、黙ってオズワルドは見つめる。


 野宿や村に住んでいた際は、このような辛さを見せることは無かった。


 村に住むべきだろうか?


 だが近辺に村はない。だとすれば野宿になってしまう。


 シンシアのような若い少女に野宿を求めるのも酷な話だ。


「本当に、大丈夫ですよ」


 オズワルドの考えがわかるのか、口に出さずとも返答をするシンシア。


「あんなに沢山の人を見たのが初めてだったので、少し気疲れしてしまったんだと思います」


「やはり…………」


「野宿はイヤですよっ!?」


「しかし……」


「柔らかいお布団の上で寝たいです!」


「ならば、ベッドを外に……」


「ならばじゃないですーっ!!」


 事実、シンシアは外の空気を浴びてどんどん元気になっていく。


 薬草が生えているとされる森は街から然程離れていない場所だ。


 街道から少し外れ、視界に入る木々へと向かっている最中にも、シンシアは元気をどんどん取り戻していく。


「それに、人が多い場所に住んでいる方が何かと得ですからねっ」


「……得、ですか」


「ええ、人がいればそれだけ依頼も多い、ならそれだけ人助けも出来るというわけですよ!」


 シンシアは前向きだ。


 それに比べて、オズワルドは街に住むことに難色を示し続けている。


 オズワルド自身も、その事に気付いて驚く。


 最初はシンシアの体調を心配しての進言だと自らそう思い込んでいたが。


 違う。


 帝国憎し。


 その一心である。


「…………ああ、そうか」


 この期に及んで。


「自分の感情を優先しようとしていたのか」


「何か言いましたオズさん?」


 森の中、野草の群生地と言われる場所まで辿り着いた。


 シンシアは屈んで草を眺める。


 なるほど、絵の通りの草が幾つも生えている。


「申し訳ありませんシンシア様!」


 と。


 唐突にシンシアに傅くオズワルド。


「ちょ、ちょっとなんですかいきなり! あと、跪くのはダメって言ってますよね!?」


 咎められるが、オズワルドは姿勢を崩そうとしない。


 いつもであれば、咎めればすぐに姿勢を戻すのだが。


「…………どうかしたんですか?」


 いつもとは違う空気に、シンシアも居住まいを正す。


「私はシンシア様に何かあってはならないと、街に住むことを拒否し続けていました。ですが、真に貴女様の事を思えば、町に留まるべきなのは自明の理。拒否し続けていたのは、単なる私のエゴでございました」


「エゴ、ですか」


「はい。私としましては、帝国は仇敵。その内部に入り込み、のうのうと住むことを私の精神が拒否しておりました」


 倒すべき相手。


 その国の寝所を使い、仕事を行い、金銭を稼ぐこと。


 全てに拒否反応を示していた。


「ですが、もう平気です。全てはシンシア様のため、今日の苦渋は明日の甘露にしてみせましょう」


 今反旗を翻した所で、強大な国であるグロリア帝国に擦り潰されるのみ。


 力を蓄え、来たるべき時まで内部に潜伏していたほうが、かえって警戒されにくいというもの。


 甘んじて受け入れるのが、最善なのだ、と自分を納得させる。


「オズ…………オズワルドさん」


「……はっ」


「私は貴方の王………………なのかもしれません」


 だが、信じ切ることは出来ない。


「けど、今は仲間です。対等に見ることは出来ないのかもしれませんけど…………王よりも仲間として見て欲しいんです」


 彼女の要求に応えたい。


 だが、その気持ちはやはり。


 王と家臣としての関係性から来るものである。


「貴方が我慢をしてまで、私は街で暮らしたいとは思いません」


「お待ち下さいシンシア様!」


 それは、オズワルドの望むものではない。


 自身の内面と対話するまでは、その提案にいとも容易く乗ったであろう。


 だが、向き合った今となっては。


「あの街に住むことが最善手だと思われます」


「ですけど……」


「確かに兵士の暴挙が目に付く事もあるでしょう。気に入らない事もあるでしょう。シンシア様が大人数に酔う事もあるでしょう」


 しかし、それは許容範囲。


 大事の前の小事。


「今日の帰りも、酔うかも知れません、もしかしたら吐くのかも」


「ちょ、ちょっと待ってください?」


「ですが、それでも貴女をお慕い申し上げております」


「話変わってませんか!?」


 シンシアは、控えめな性格ながらも頑固な一面を見せる時がある。


 このまま問答していても、意固地になって拒否する可能性があった。


 ならば、話題を変更して有耶無耶にするのが一番良いと。


 オズワルドはそう判断した。


「お、お慕いって…………そんな……っ」


 顔を赤くしながら、所在なくウロウロするシンシア。


 まだ少女。


 ストレートな親愛表現に慣れていないのだ。


「早く…………薬草を採って帰りましょうっ、そうしましょう!!」


「そうですね」


 話題変更に目論見通り成功したオズワルドは、兜の下でほくそ笑む。


「これですよね?」


「いえ、それはよく似た雑草です。こっちが薬草です」


「…………どう違うんですか?」


「何と言いますか、草の声を聞くんです」


「そんな呪い師みたいな事出来ませんよ!?」






 薬草を採取した帰り道。


 もうすぐ門に差し掛かるといった地点で、事件は起きた。


「た、助けてくれえ!!!」


 後ろから聞こえる、救助の声。


 シンシアとオズワルドは振り返る。


 そこにいたのは。


 以前出会った巨大な猪とは比べ物にならない。


「…………カニ、ですかね」


「カニですね……」


 城壁程の大きさを持ち、横歩きではなく前に歩いているその姿は、二人の知っているカニとは似ても似つかない。


 足元には、豆粒ほどの小さな男。


 成人男性ではあるのだが、カニと比べると豆粒ほどの大きさだった。


 それほどまでにカニの化け物が巨大すぎた。


「た、助けてくれええええ! ぐあっ!!」


 シンシアとオズワルドの横を、幾つもの矢が通り抜けた。


 振り返ると、放ったのは帝国の兵士。


 カニに放ったわけではない。


 負われている男に向けて放ち、そして。


 門を、閉めていく。


 二人はまだ入っていないというのに、閉め切る。


 大きなカニ――――帝国の間ではギガクラブと呼称される巨大な化け物は、西側の海から時折迷い込んでくる。


 目に付く人間がいれば見境なく襲い出すため、現れたら全員が建物の中に隠れる事となっている。


 襲う者がいなくなれば、海水を求めてまた海へと戻っていくのだ。


 つまり、先程射抜かれた男を含め、三人は。


 見捨てられたのだ。


 矢を受け倒れた男に、足を突き刺していく。


 何度も、何度も。


 苦痛に喘ぐ声すらも、次第に上がることは無くなっていく。


 動かなくなった玩具を、無造作に投げ捨てる。


 上部の目がグリグリと動き。


――――オズワルドと、シンシアを捉えた。


「オズワルドさん! シンシアちゃん!!」


 城壁の上から、ロークが声を上げる。


 他の兵士たちから、隠れるように引っ張られ続けながらも、声を上げた。


「…………ローク!!」


 突如、大声を出すオズワルド。


「シンシア様を、頼んだ!!」


「えっ……? 待ってください!」


 シンシアを優しく抱き上げ。


 上に放り投げた。


 悲鳴を上げながら、城壁まで飛び……ロークによって抱きとめられる。


「いや! オズさん! 駄目です、駄目!!」


「もし、万が一のことがあれば――――王国のことなんて忘れ、健やかにお過ごしください」


「いやあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 走る。


 街から出来るだけ引き離すために。


「ダメ! 行かないで!!」


 後ろ髪引かれるシンシアの悲痛な声を振り払い、駆ける。


 ギガクラブはオズワルドにターゲットを絞り、追いかける。


「ベルガル流剣術、空間斬」


 立ち止まり、剣を振り下ろす。


 狙うは、足。


 一本の足の後ろから斬撃が飛ぶ。


 まるで鉄をぶつけたような音が響く。


 少しグラついただけで、ダメージは無い。


 ギガクラブの一歩は大きい。


 あっという間に距離を詰められ。


 足の一本が頭上から振り下ろされる――!


「ベルガル流剣術、防御陣!」


 足を弾く。


 弾かれたことに憤ったギガクラブは、連続で足を振り下ろす。


 剣閃は弾く。


 だが、攻撃に転じる余裕がない。


「ベルガル流剣術、防御陣」


 弾き続ける。


 しかしギガクラブの圧倒的な質量は抑えきることが出来ず。


 防御陣を貫いて、足がオズワルドへと迫る。


 衝撃により、土煙に覆われた。


 弾かれることが無くなったために、何度も何度も足をその場に振り下ろす。


「オズさん! オズ! オズーっ!!!!」


 土煙の中から声がする。


 そもそも、王国最強の剣士は。


 大きなカニ如きに。


「――ベルガル流剣術」


 ベルガル王国の近衛騎士は、そう簡単にやられはしない――!


「――――――剛撃!」


 カニの足を一足飛びに登り、ギガクラブの頭上まで飛び上がる。


 剣を振り上げ、落下とともに振り下ろす。


――振り下ろすのは必勝。


 オズワルドを捕まえるべく伸ばしたハサミは。


 彼の剣術によって、両断される。


――両断するのは敵の志。


 そしてそのまま。


 ギガクラブの体すらも、両断する――


――分かたれる時、それは既に必然。


 着地するオズワルド。


 少し遅れて、ギガクラブの崩れる音。


 左右に分かれて、事切れた。


 またもや土煙が巻き起こる。


 それと同時に、城壁からも歓声が沸き起こる。


 単身でギガクラブを討伐した、英雄に向けて雄叫びの声援が送られるが。


 土煙が霧散すると同時に、歓声すらも霧散した。


 何故か。


「あ…………あぁ………………!!」


 シンシアは口を戦慄かせる。


 ギガクラブとの戦闘により、兜が外れ。


 中の髑髏が、白日の元に晒されていた――――

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