第六話 上がれ、鼓動。
〔マッチングが完了しました。〕
〔対戦相手:銀河最強俺ソード〕
〔ステージ:砂漠〕
何だよこの名前。インパクトが強すぎるだろ。
それはそれとしてステージは砂漠か…足が取られるな。
踏み込みづらい。どうやって距離を詰めようか。
5、相手が剣を構える。片手剣一本。
4、こちらは身体の力を抜く。
3、ここは砂漠の中心。砂以外の場所は一切ない。
2、日差しが照りつけ、ゲームというのにジワっと汗が出る。
1、呼吸を整える。
0。
「『加速魔法・アクセ』」
「『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』!!!!!!」
何叫んでんだアイツ!!
と思ったのも束の間、何がトリガーだったのか知らないが大量の『ファイアボール』が飛んでくる。
そのほとんどがこちらに向かっていて、外れているものは横に逸れているがそれがかえって逃げ場を塞いでいる。
咄嗟に自慢の跳躍力で空に飛ぶ。『アクセル』の詠唱が途切れ、使えなかったがなんとか回避に成功する。
そして地面につくまでの間に何がトリガーだったのか考え―
「『あ』『あ』『あ』『あ』『あ』!!!!!」
またしても叫び。
叫びがトリガーということはわかるが何がどうしてそうなっているのかが全くわからない。
今度は五つ固まって大きな『ファイアボール』となって向かってくる。
「『加速魔法・アクセル』!」
改めて『アクセル』を掛け直し、全力で跳躍。
いつもよりも跳躍距離は落ちるが『ファイアボール』を躱せたので問題ない。
そして、地面を踏みにくいなら空を踏めばいい。
ポイントボーナス、二段ジャンプ。
今回は地面とほぼ平行に。
銀河(略)の横に回り込むように飛ぶ。
「『あ』!」
着地の瞬間を狙って飛んでくる『ファイアボール』。
だが今はまだ『アクセル』中だ。
足でしっかりと着地し、そのまま駆け出す。
通常より遅かろうが関係ない。ラッシュを叩き込め。
「BOMBの言っていた通り…強いね、君…!」
「そりゃどうも…ッ!」
拳を振るが、剣で受け止められる。
数秒の鍔迫り合いの後俺が蹴りを入れ、ダメージとともに無理やり距離を取る。
トッ、と軽く空中に飛び、すぐさま二段ジャンプで距離を詰める。
体感だけの話だが走るより飛んだほうが速い。
「『あ』、『あ』、『か』!」
この少しの距離を飛んでくるのは『ファイアボール』。
だが今回は別の魔法も混ざる。
『ファイアアロー』。軽いホーミング性能の備わったそれは俺を追尾してくる。
『ファイアボール』が方に掠り少しダメージを喰らうがそれによって引き付けた『ファイアアロー』をぐいっと逆側に移動することで回避。
「よそ見は良くないな!」
「ッ!?」
剣が投げつけられる。
避けることが出来ず、モロに左肩に刺さる。
HPが目に見えて減る。状態異常に出血。
足を踏みしめる。
これはゲームだ。今後一生腕が使えなくなるわけじゃない。
それに…
「まだ、全然戦える…!」
「そう来ねぇとな!!」
俺には右腕がある。
それだけで十分。
その右手で左肩に刺さった剣を引き抜き、動かなくなった左腕を斬る。
動かないなら邪魔なだけだ。
まだまだ身体も心も加速させていく。
上がれ、体温。
上がれ、鼓動。
上がれ、心ォ!
一時の沈黙。
両者一言も話さず、1ミリたりとも動かない。
その均衡を崩したのは―
「『加速魔法・アクセル』」
「『火が灯り、あらゆるものを照らす。』」
詠唱?それが終わるより先に拳を叩き込む!
そう思ったのも束の間、辺りに火が何処からともなく灯り始める。
そこから俺に向かって『ファイアボール』が射出される。
「チッ!」
「『その火は炎より熱く、赤より赫く。』」
その無数の『ファイアボール』を飛び、走り回避する。
その間にも詠唱は進み、灯る火は増え、『ファイアアロー』も発射され始める。
「『その火を身に宿し、我は姿を変える。』」
その火は詠唱が進むたびに温度が上がっていく。
どうにかして止めなければならない。
だがこのマップに投げるものは…!
「『それはかの不死鳥の如く。』」
「『何度殺されようと、その身の火は消えることは無い。』」
ある。たった一つ、俺の近くに。
駆けろ。その場所へ。たった一つの希望へ。
「『極限火魔法』!!」
それを手に取り、火のダメージも気にせずたった一点目掛けて投げつける。
「ッラアァァァァァァァァァ!!」
「『不死鳥の太陽!!!」
それは、誰が見ても諦めるほどの神々しさと圧倒的なまでの力。
だがまだ諦めていない者がいる。
「『加速魔法・アクセル』!」
先の魔法とは比べるのが烏滸がましいほどちっぽけな魔法。
だがたった一つ。
あの魔法にもない唯一の効果。
「ダメージよりもッ!復活よりも速くッ!ブッ殺してやるッ!」
〈行動の加速〉という唯一の効果。
剣は刺さらない。
その火は何よりも熱いのだから。
その身に届くまでもなく溶けてなくなる。
それでも男は諦めない。
ほんの僅かな可能性があるのなら。
これがゲームだから。
俺がまだ死んでいないから。
駆ける。好敵手の下へ。
好敵手として。挑戦者として。
駆ける。この拳を。この足を。奴に叩き込み、そのHPを散らすために。
「『超火魔法・ハイ・ファイアバースト』!!」
その火は一度触れれば全てを溶かす。
それが前方に、放射状に広がる。
それでも一直線に向かう。
自分の加速を信じ、全開に踏み込んで。
もはや無意識に。
その男は地面を蹴り、飛ぶ。
そのほうが速いと、知っているから。
その速さには、極限の強化を受けた火でさえ、追いつくことは出来なかった。
スレスレでその範囲から逃れた男は地面を蹴り、さらに上空へ飛び立つ。
この前の勝負で知った使い方。
自身を投擲物だと信じ込み、思いそのままに言葉を紡ぐ。
空中を蹴りながら。
「『加速魔法・ブースト』ォォォォォォォ!!!!」
加速に加速を重ねた圧倒的速度。
まだ火を纏った男は振り向けていない。
足りない。加速に加速を重ねた。
それでも足りない。
あれを超えるには、まだ足りない。
なら、もっと全力で。
アクセル全開で。
「『加速魔法・クイック』!!!」
三重の加速。
身体全体に風を受けながら進む。
最初の加速は全体の速さを。
二度目の加速はたどり着くまでの速さを。
最後の加速は足を前に振り抜くと言う動作の速さを加速させる。
その限界までの加速によって振り抜かれる足は如何に強力な火であろうとも。
頭を文字通り打ち砕く。
『不死鳥の太陽』は、〈HPの全損〉に対して復活効果が発動する。
重要部位欠損による即死には、耐性が無い。
その神話にも思えるほどの神々しさの戦いは一瞬にして終わりを告げる。
全てに平等な者によって。
〔勝者:風見鳥〕




