3-third:神に祝福されし呪い子-1
「祝福...?」
祝福、というとやはり異世界における特殊能力が思いついた。勇者などが異世界から来た時に持ってるようなやつは、だいたい祝福と言うだろう。
だがそれを"のろい"...つまり、"呪い"と表現するのには疑問を覚える。
「説明するよりも直接見たほうが早いと思う。着いてきて」
そうケルトが言うと、杖を手に取り歩き出す。
莉とシドはそれに続いた。
...
「ここだね」
そうして着いたのは、建物の近くにある辺鄙な路地裏。
そこには特になにかがあるというわけではない―――が、一つ。
それなりに大きな扉と、そこの前で転た寝をしている獣耳が生えた寂れた男がいることを除けば。
「ほい」
そう言って男はケルトは銅貨を投げる。
男はそれを拾うと、問う。
「神へ?」
それをケルトは間髪入れずに答えた。
「報い、屠る。」
何かの合言葉のようで格好良いな、と場違いな感想を抱く莉。
そうしていると、男はゆっくりと扉から離れた。
「客かい?領主サンよ」
「まあね。彼なら...レイ君なら"彼女"の祝福を解けるかも知れないんだ」
「...へえ。その小僧が?」
見た目より鋭い眼光で見つめられると、睨まれているような錯覚を覚えてしまい身構えそうになる。
男はそんな事はお構い無しに莉へ忠告する。
「おい、小僧。」
「えっと、はい何でしょうか」
「お前がどんな魔法を使えるか知らんがな...生半可なもんを使うんじゃねえぞ。文字通り消えちまうからな」
「ええと、はい...?」
「ケッ...行きな」
まだ若干言葉の意味を理解しきれていない莉だったが、男に急かされたのもあり、扉の奥に続く階段へ進む。
先導するのはケルト。莉とシドもその後に続く。
「...来ましたか」
その奥に居たのは、まだ歳も高くないであろう少年。
白髪と、髪色と同色の猫耳と尻尾を持っている―――獣人だ。
「...そっちの人が」
「ああ。もしかしたら、だがね。希望的観測でしか無い。期待はあまりしないでおくれよ」
「分かっています...俺の名前はジェノ。申し訳ないが、彼女を...妹を頼む」
良く分からないが、おそらくそのケルトの言っていた治してほしい祝福の持ち主がこのジェノという少年の妹で、それを今から見に行く―――ということか。
そうとだけ言うと、「008」という数字が書かれた扉の前に立ち―――そして、扉を開ける。
古びた音を鳴らして空いた扉にしては随分と近未来的な内装をしたその部屋には、ホルマリンの匂いが充満しており、薬品などが常時使えるようにしてあるのか外に出してある。
そして、その中央の部分のベッドに横たわり、穏やかな寝息を立てている少女が一人。
彼女も猫耳と尻尾がついている。おそらく、髪色や顔立ちからしてこの少女がジェノの妹だと推測。
そして彼女には、何よりも特筆すべき特徴が一点。
―――濃い紫色でできた、紋様のようなものが彼女の身体に広がっていた。