3-second:迫る魔の手
「ようこそシルヴァンへ、レイ・タチバナ君。」
そう挨拶をした温和そうな初老の男性は、莉に柔らかな笑みを浮かべる。
その視線は、暖かくも何やら品定めをするような商人気質なものも含まれているように莉は感じて、少し緊張。
だがそんな時間もすぐに終わる。
「シド君からは聞いたよ。なんでも、襲撃された村からシド君の娘さんを救ったとか。他にも何百ものネアリアの兵と戦って、生き残って勝利した、ということも。」
「え...ええ、まあ...」
自分のしたことがもう既に他人にも知れ渡っているのか、と考えるとあまりいい気分ではないが、元の世界ならこんな事が起こったら即世界中に届くだろう、と考えて無視。
―――まあそんな事はどうでも良くて。
「名前を言っていなかったね。私の名は"ケルト・エニス"。この街の領主を務めているよ。」
「りょ、領主...!?」
「ああ、無礼講で構わないさ。堅苦しいのはどうにも苦手でね。癖でそうなってしまうのなら構わないけどね」
「え...ええ、じゃあ...分かった」
そうしていると、その男性...ケルトは顔を真剣なものに変えてこちらに問いかける。
「さて...前置きはもう要らないね。要件だけ言おうか。」
「...はい」
そうして、ケルトは思っても居なかった莉への要件を告げる。
「君の魔法で...人の"祝福"を治す事は可能かな?」
...
......
.........
「そんで、どうなんだ?彼女さんとは。早く結婚しちまえよ」
城壁の上に立ち、見張り番をとっている一人の兵士が若い兵士に聞く。
からかい混じりのその問には微笑ましい感情が含まれていた。
「いや、まだですよ...付き合い始めて半年も経ってないんですよ?」
「ケッ、勇気ねえなあ。男ならこう、ビシッと感情を伝えて結婚してくれって言うもんだ」
「そんなの偏見じゃないですか!?」
もう一人の兵士が茶化しに来る。
「おいおい、早く結婚してくれよ!俺はお前が一年以内に結婚することに金貨一枚も賭けたんだからな!」
「いや人の恋愛を賭けに使わないでくださいよ!」
そうしてアハハハハと笑う兵達。どちらかというと悪ガキの集まりに近く過ごしやすいその空気も、突然の報告ですぐに消え失せてしまう。
「...!確認!六時方向に敵影を発見!」
「おっと?ついにネアリアの兵がお出まし...か...?」
その言葉が途切れた理由は、目の前の光景を前にすれば誰でも分かるだろう。
何百?何千?そんなものは生ぬるい。十万に届くかと言うほどの人数の兵が、平原の奥地からこちら側に―――即ち、シルヴァンの街に迫っているのだ。
「...なんだ、あれは」
一人の兵が、全員の気持ちを代表して表すように力なく呟く。
シルヴァン防衛戦が、今ここに始まろうとしていた。