3-first:シルヴァンの街へ
ついに新章開始です。
城塞都市シルヴァン。
元々鉱山街だった場所を要塞化して作られた、帝国の中でも上位に入る大都市だ。
「おお、来たっすかシド先輩!」
「ああ、無事にこうして帰ってきたぞ」
頭に角を生やした―――だがリィハやシドのものとはまた違ったもの―――青年の門番がシドに敬礼をする。
一介の軍人や兵士としては本来よろしく無い態度と訛りのある口調なのだが、シドは特に気にしていないようだ。
と、そんな時。
その青年と莉の目が合い、お互いに硬直する。
そしてたっぷり十秒の沈黙が流れて、そして青年が叫んだ。
「な...なんで人間がここにいるんすか!!!!」
集まる注目、莉に向かう視線、戸惑いや畏怖、興味の感情。
莉は情報量の多さに頭がパンクしそうになった。
...
「いやあ、まさか先輩の娘さんの命の恩人とは知らず...すみませんね...はは、あははははっ....」
青年はそうして莉に申し訳無さそうに莉に謝る...頭を抑えながら。
あの時、青年が叫んだのを見てシドは重く溜息をつき、そして鉄拳を青年の上に落とした。
その音はそれはそれは壮大なもので...見ているだけで、莉とリィハは頭が痛くなってくるほどのものだった。
「あの...大丈夫ですか...?たんこぶできちゃってますけど...」
「あはは、大丈夫っすよ!こんぐら....っ〜〜〜〜!!!!」
再度痛みに悶え頭を抑える青年。アワアワとするリィハ。また溜息をつくシド。そしてそれを真っ白な頭の中で見る莉と、それを眺めるギャラリー達。
シルヴァンに入る前に問題が起きてしまった。
「えっと...それじゃつまり、貴方が先輩が連絡していた"娘の命の恩人"...レイ・タチバナさんってことでいいっすか...?」
「んと、まあ?」
いつの間にか連絡とかしていたのか、と莉。
「そうすっか....まさか人間だとは思いませんしたが、先輩には召喚の令が出されているっすから、レイさんはそれについて行ってくださいっす。どうやらお上方がレイさんについて色々聞きたいことがあるそうで。」
「あー、なるほど。分かりました。」
「すまないな、付き合わせてしまって...」
「いえ、大丈夫ですよ」
そうして青年はまた門番へ戻っていき、莉達は街の中へ進んでいった。
...
そんなこんなあって。
人間だということもあり、視線を多く受けつつも、その場所に到着。
「...ここが」
「ああ。私達の拠点であり、シルヴァン防衛軍の司令部本部だ。」
学校の校舎よりもさらに高い大きさを持ちつつ、街にすっぽりと収まっているその建物は形容し難い、難しい物々しさや荘厳さを物語らせている。
シドはその中へと入っていき、莉もそれに続く。
受付のような場所に行くと、何やら手続きを済ませて階段を登っていく。
上の階に着き、廊下を通っていくと大きな扉の前に止まる。
"技術開発"で習得したスキルには言語翻訳なるものもあるので、こうして日本語で問題なく話せるし読み書きもできる。
そしてその扉の看板立には、黒く「作戦司令本部」と書いてあった。
そしてシドはその扉を強く、だがゆっくりと開いた。
「やあ。お帰りなさい、シド君。」
「...ええ。只今戻りました。」
そう受け答えするシド。
奥の作業机に座っているのは、癖っ毛のついた茶髪に眼鏡を掛けた温和そうな初老の男性。
そうして、今度は優しく莉の方を向く。だが莉は反射的に身体が固まってしまった。
初老の男性は柔らかな笑みを浮かべると、言った。
「ようこそシルヴァンへ、レイ・タチバナ君。」