2-quiet:闇下の兄妹-2
前の話が短かったので今回は少し長めです。
酷く悩み垂れている笑顔も、すぐに変わり明るいものとなる。ただ、それはあくまで表面上だけだということをシアは的確に見抜いていた。
「お兄ちゃん、また笑ってない」
「え?...ああ、その...すまない」
「良いよ、私がこんなナリだからってのもあるし」
するとシアはゆっくりと起き上がろうとして―――その瞬間にジェノに制止させられる。
「やめるんだ、シア。お前の身体はまだ治ってないんだ。悪化したら困るだろ...」
「大丈夫だよ...私も最近は気分が大分良くなってきたし。お兄ちゃんは心配性だなあ」
お前がそんなんだから心配にもなるんだ、とジェノは口走りそうになるが慌てて口を閉じる。
そんな事を言ったらシアにヘソを曲げられてしまう。それは色んな意味で良い事ではない。―――主に精神的な意味で。
閑話休題。
シアは途端、悲しそうな顔をしてジェノを見やる。
ジェノもそれにつられて悲しくなるが、それを無理矢理心の奥に押し込んで愛する妹を励ます。
「大丈夫だ。何時かここを出られる時が来るさ。」
「...勇者。」
「え?」
「人間の国に勇者だとか言う異世界人が召喚されたらしいじゃん」
ジェノは驚きで目を見張る。
「おい...それ、いつ知ったんだ?」
「医者と研究者の人達が言ってた。...曰く、どうしようもないクズの集まりだって。」
「...それで?」
「私を...私の中の、祝福を見るために攻め込むかも知れないって、そう言っていたの!」
ジェノは言葉を失った。
シアがそこまでの知識を持っている事に対してもだが、なにより勇者という存在にもだ。
―――シアは、ある"祝福"という要素を持っている。
莉の持つようなギフトとは違い、常時の対価を支払い力を得る、呪いとも言えるようなものだ。
祝福は非常に貴重だ。
そのため、祝福持ちの者は国単位で手厚い保護を受け、重宝される...のが、一般的だ。
シアもその例に漏れず、その"常時の対価"への対処のための保護を受けているのだ。
だが、当然それほどまでに貴重故、その者を狙う者が出てくるのも当然であり必然であるのが悲しい現実だ。
事実、祝福が原因で戦争が起き、滅んだ国も数え切れない程ある。
ネアリア王国には、その土地や人種の特質故に、貴重なスキルを持つ者などが多く生まれる。
―――だが、絶対に出現しない要素が2つ。
その内の一つが"祝福"なのだ。
祝福は強力な力を持っていることが多い。
そのため、帝国やその他周辺国では祝福の研究が進んで対策なども施している...のだが、王国は祝福持ちが居ないためにその対策を持っていない。
そのため、王国は自分達のアドバンテージである貴重なスキルや"勇者召喚"を使って祝福を狙い、他国へ攻め込む計画を立てている...という噂さえ流れている。
そしてもう一つ、勇者召喚。
それは、古来よりネアリア王国に伝わるとされている大魔法の一つであり、これまであった数えきれない王国滅亡の危機をこの"勇者召喚"の秘術で乗り越えてきた、と伝わる程だ。
莉がこれを聞いたとしたら、「どうせ王国に利用されるんだろ?」と言ったであろうこの話だが、強ち間違いではない...と、予想されている。
なにしろ、召喚された勇者は全て―――戦死したと言われている者達含めて―――消息が不明となっているのだ。
一説によると、危機を乗り越えた後に勇者達の王国への干渉を恐れた王族達が秘密裏に暗殺した、とも言われているが詳細は定かではない。
どっちにしろ、召喚された勇者は全員いなくなっているのだ。真実など確かめようもない。
話を戻そう。
つまり目の前にいる最愛の妹は、自分の身に降りかかるかもしれない災いを理解しており、そして自分はそれをたった今理解してしまった訳で...
ジェノはこれからどうしたら良いのか、と頭を抱えて悩むことになった。
莉がこの街に来る、およそ3日前の事である。
明日からついに第二章です。