2-quiet:闇下の兄妹-1
薄暗い、街の角。
日が落ちかけている夕日を背に、歩く一人の少年の姿があった。
その少年は、白髪という黒髪程ではないが珍しい髪色を持っている事に加え、獣人に特徴される獣耳と尻尾が生えていた。猫のような耳と尻尾だ。
ふと、建物の影...正確には、扉の前に寄りかかっている、転た寝をした寂れた男―――これまた、獣耳が生えた―――に銅貨を投げつける。
すると、男は起き上がってそれを拾い、問いかける。
「...神へ?」
「報い屠る」
そうすると男は、問いかけに瞬時に反応した少年を一瞥し―――扉から離れた。
「またか?ジェノ」
ジェノ、と呼ばれた少年はそれに反応するが、ただ
「まあな」
とだけ小さく呟き、扉の奥、薄明かりの灯る地下階段を降りていった。
「ケッ、愛想の無い奴だ」
男はそうとだけ吐き捨てると、扉を閉めてまた寄りかかり、また転た寝を始める。
闇夜へ暗く光る銅貨は、違和感を覚えるほどに明るく、場違いなほど綺麗に光り輝いていた。
...
階段を降りきり、扉を開ける少年―――ジェノは、開けた先にある妙に整った殺風景な廊下を歩き出す。
そして、いくつもある個室扉の一つ、数字で「008」と書かれた扉の前に立つと、それをゆっくりと、静かに開けた。
強い薬品の匂いと、ホルマリンの色。
そして、実験台を連想させるベッドの上に寝転がっている、病的なまでに色白ながらも穏やかな寝息を立てている少女。
見ると少女は、ジェノと同じ猫耳と尻尾、そして長い白髪を持っていた。
佇まいからして兄妹か姉弟だろう、と推測できる。
答えは前者であった。
「シア、来たぞ。」
そう呼ばれた獣人の少女―――ジェノの妹であるシアは、ゆっくりと目を開けると、ジェノの方向を向いてにっこりと笑いかけた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
「ああ、ただいま。」
そうして、ジェノもシアに笑いかける。
だが、その笑顔はシアのものよりもずっと重く、苦難に染まっていた。