おバカ野球ライフ
序章1
夕暮れ時、田んぼが続く田舎道。
あまり汚れていない野球のユニフォームに包まれた少年が、ため息を撒きながら家路を歩いていた。
(こんなことならなにがなんでも引っ越しに反対すれば良かった…。)
少年の脳裏には後悔ばかりが渦巻いていた。
足元の影が次第に地面と同化していく。
「やばい早く帰らないと」
「こっちの獣道を通ればショートカットになったはず。」
踏み込んだ先は枯れ枝や落ち葉で足を踏み込む度にさくりさくりと音を立てる。
進めば進むほど辺りは闇に染まっていき、耳は徐々に敏感になってゆく。
突如犬の遠吠えが響くと少年の歩く速度が上がった。
電球の明かりが見え、茂みから飛び出すと開けた道に出た。
一呼吸おき、
「これだから田舎は。」
誰もいないのに強がって見せる。
少年は知った道に出たためか、幾分か落ち着いた様子で再び歩みを進める。
しくしく…
敏感になった耳にすすり泣く声が聞こえる。
(気のせい。気のせい。)
怖い…。
小さな神社の鳥居の前を横切ろうとした時、すすり泣きが最も近くに聞こえた。
(鳥居の影に誰かいる…。)
わずかに足が見える。
女の子…だろうか。
怖い。怖いが、もし怪我などで困っているんだとしたら。
家までもう少し、出きることなら関わらずに帰りたい。
でも!
鳥居の影に回り込み声をかけようとしたその瞬間。
ぐりゅりゅりゅりゅ!
お腹の虫が鳴く音だ…。
(俺じゃない)
目の前にはうつ向く少女。
髪の毛は金髪で、掛け布団にくるまり、頭だけ出すような形で座っている。
(同い年くらいか)
ぐうぐりゅりゅ
「あ、あの…」
声をかけようとしたその言葉を遮って、少女より言葉が放たれた。
「お腹…減っているんですか?」
(それこっちの台詞なんだけど)
「えっ?」
言いたい言葉を出すよりも反応が追いついていなかった。
「"えっ?"じゃぁないでしょ?」
と、突如怒鳴り声をあげ少女は立ち上がった。
「私お腹めっさなってるわけじゃん!恥ずかしいのっ!!」
「わかる?」
捲し立てる少女。
顔立ちは整っていて瞳は澄んだ海のような色。
容姿はテレビのアイドルにも負けないほどだと感じるが、
「ねぇ聞いてる?君さぁ男なんだから、レディに恥をかかせないように"僕のお腹がうるさくしてごめんね"とか言えないんですか?」
うざい!
「お邪魔しました!帰ります!」
出鼻をくじかれ、瞬く間に感情をめちゃくちゃにされたので逃げることにした。
一瞬悲しそうな表情をした少女の顔が一瞬瞳に写ったが、感情がぐちゃぐちゃの人間には歩みを止める理由にはならなかった。
「待って!」
ドスッと背中が重くなる。
「行がないでよぉ!」
さっきとは打って変わってギャン泣きする少女
少年は少女の話を聞くことにした。
序章2へつづく