第91話
終焉の森探索を受けて森の中に入って数日、特に問題もなく順調に進んでいたある日。ゴブリンの群れに囲まれた、僕達はそれを連携し迎撃していく。これなら勝てると思ったその時、巨大な腕が伸びてきてリーダーが吹き飛ばされた。トロールの襲来に一人、また一人と仲間が倒れていく……そしてトロールと目が合った。次は僕の番だあの巨大な腕が伸びてくる、嫌だ……嫌だ嫌だっ! 死にたくない!!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
勢いあまってベッドから転げ落ち知らない天井が目に映る……ここは、僕はいったい?
「目が覚めたみたいね」
目の前には紫色の髪をしたエルフの女性が立っていた。
「エルフ……?」
「半分正解、夢でも見てたのかしらね?」
僕はゆっくりと起き上がる。ふかふかのベッドに綺麗な木製の壁、いったいここはどこなのだろうか?
「私はマリエール、ここの治療士みたいなものね。貴方はゴブリンとトロールの群れと戦っていて意識を失ったのよ」
「そう、だったんですね……あなたが助けてくれたんですね。ありがとうございます」
「私は治療しただけ、お礼は主様に言ってね。貴方達は運が良かったの、魔竜の気まぐれに感謝するのね」
「魔竜の? 気まぐれ……?」
「貴方は比較的軽傷よ、まぁ混乱してるかもしれないけどとりあえず外に出て太陽の光でも浴びてきなさい。状況が理解できたらいろいろ説明してあげるから」
そう言われて僕はゆっくりと部屋をでて行った。日の光が眩しい……
「おうキッド、目が覚めたか」
「エイダ!」
僕に声をかけてきたのは仲間の女戦士エイダ、数か所に包帯が巻かれているが元気そうだ。
「無事だったんだね」
「あぁ、助けが来なかったら間違いなく死んでたけどな」
「キッドさんですね? 元気そうで何よりです」
「ゴブリン!?」
エイダと話していた女性に声をかけられよくよく見るとその姿は人と変わらないが間違いなく魔物系の雰囲気をしていた。
「確かに種族としてはゴブリンですけど信仰も貴方達と一緒ですし敵じゃないですよ」
「あ、すみません……」
確か魔王領に住んでいるゴブリン族は会話もできるし友好的だと聞いたことがある、彼女はその系統のゴブリンなのだろう。
「イリオさん、この人達があたしらを助けてくれたんだよ」
「そうだったんですね……ありがとうございます」
「元気そうでよかったです」
優しい感じの人だと感じた。ゴブリンと一括りにするのは間違っているな……
「他の皆は?」
「サムとエランはもう起きてるよ。ここの住人と話したりお礼に農業の手伝いしてるよ。あたし達は比較的軽傷だったからね」
「皆さんの一党は十人で間違いないですか?」
「はい、僕達は十人編成で探索に出ていました」
「そうですか……あの場に居たのは十人で間違いありませんでした。貴方達を含めて八人今ここで治療を受けておりますが、すみません。後の二人は……」
「そう……ですか」
つまり八人は助かった。しかし後の二人は……
「ジムとザニーがやられた……」
エイダが悔しそうに呟いた。二人とも僕の先輩でたくさんの事を教えてくれた恩人だった……
「あの乱戦で犠牲が二人だけだったのは奇跡みたいなものだ……本来なら全滅してたっておかしくないんだから」
彼女は仲間の死を受け入れてる。ここで我儘を言うのは間違いだって僕にもわかる……冒険者は死と隣り合わせ、何があってもおかしくないんだから。
「葬儀の方は皆さんが目覚めてからお決めください。ご遺体の方は丁重に保管しておりますので」
「イリオさん何から何までありがとうな」
「主様が助けると決めたのでそれに従ったまでです。お礼は主様に」
マリエールさんも言ってたけど主様って誰なんだろう? 周りを見るとライカンスロープ系、猫と兎の獣人、ケンタウロスにリザードマン。それにエルフやドワーフ、狼にグリフォン……明らかに異常な環境なのは誰が見ても明らかな環境だ。こんな場所の主っていったい何なんだろ?
「イリオ」
「あ、主様! 少年君目が覚めましたよ!」
僕は唖然とした。バンダールの町で自由をもたらす黒き魔竜が信仰されているのは知っているしそれが実在して領主様の娘を娶ったとも聞いた。その黒竜ヴリトラが目の前に歩いて来たのだからもう訳が分からない……頭が真っ白になってしまった。
「先頭で頑張ってた子だね? 元気そうでよかったな」
「……」
「ん? どうかしたか?」
「あ、主様。この子気を失ってます」
「あらら」
あの姿を見てやっと理解した。僕達が居る場所は魔竜領域の最深部、ヴリトラの巣なんだと……




