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第9話

「渋柿っぽい形だなぁ」

 拠点に持って帰った柿を植えなおしてみた。問題はないようで順調に実を育てている、むしろ植え替えてから実が増えたかもしれない。サトウキビやアブラナの植え替え量産準備をしたら既に根が生えはじめたりと展開が早い、黒鱗粉の効果は予想以上な気がする。そして魚だが水合わせなどいろいろやる工程があったのだがそんな機材も道具も無かったので溜池に全部ドボンした、種類的には多分ナマズ、バス系、コイやフナなど生命力の強い奴らばっかだったのもあって普通に適応してくれたみたいだ。

「干し柿ってどうやって作るんだろ、後で調べなきゃ……」

 とりあえず作物も順調で冬に向けて順調に準備は進んでる、暇なのか用途不明な家をエルフ達が建築し始めたのもちょっと気なる。しかし、今日はアズハとあるとこに行く約束をしているのだ。

「タカト、準備できたよ」

「覚悟はいい?」

「うん、もしかしたら今ならまだ……」

「わかった、じゃあ行こう! セッカ、お留守番お願いね!」

 ワン! と返事をしたセッカのお見送りを受けながらアズハを背中に乗せて飛び立った。今日向かう場所、それは家の北側。アズハの住んでいたという帝国に襲われた領地だ、エルフ達を助けたこともあり場所の把握はすでにできている。アズハ自身も領主の娘らしいし気になるみたいで時々不安そうな顔をしていた。ならばさっさと解決してしまおう、早ければワンチャン助けられるかもしれないという希望もある。正直俺はどうでもいいがアズハにとっては大事なこと、それなら夫として叶えてあげねば!

「最初は様子を見るね」

 しばらく飛行し、セナ達を助けた山を越えて更に北に向かう。領地が見えてきた辺りでミラーハイドを発動させ上空から状況を確認する。

「酷いね」

「うん……」

 家は焼かれボロボロで廃村のようになっている。しかし作物は綺麗に育てられこんな小さな村のような領地には相応しくない鎧を着た兵士、結構な数が居て何かを監視しているようだ。

「ねぇ、あの兵士に鞭打たれてるのって領民?」

「あ、近所のおじさんです……いつも、優しく、お嬢様って……言ってくれてた……」

 すごく苦しそうにしている。だけど、生きてるなら助けられる。諦めるのではない、これはチャンスなのだ。

「アズハ、今決めて欲しいんだけど。どうしたい?」

 アズハは俯き考える。恐らくこれからの事、どうしたいかなど本気で考えている。しばらくして何かを決意した強い視線を感じる。

「タカトさん、私……助けたい! 皆を生きているならまたやり直せる!!」

「今更かもだけど、人殺しを見逃す覚悟はある?」

 はっきり言おう、俺は加減してあげるつもりはない。敵なら皆殺しにするつもりだ、それの片棒を担ぐようなものだし確認はしておく。

「私は、魔竜の妻です! 覚悟はできてます!」

 その言葉を聞いた瞬間俺は迷彩を解除、地響きがするような全力咆哮をあげて降り立った。

「な、なんだ!? ドラゴン!? なんでこんなところに??」

 姿を見た兵士は混乱し、奴隷扱いされていた農民は腰を抜かしていた。しかしそんなこと知らん、まずは正面の兵士を叩き潰し、更に周囲の兵をファイヤーブレスで焼き払う。

「ひぃぃぃぃ!?」

「て、敵襲!! ドラゴンだっ、ドラゴンがでたぞぉ!?」

 瞬く間に大騒ぎとなり逃げ惑う兵士も居れば武器を構え向かってくる奴も居る早い話が大混乱だ。槍だろうが剣だろうが俺の鱗を貫くことはできない、全て弾いてしまう。こいつ等には悪いけど理不尽に蹂躙させてもらおう、ドラゴンらしくね!

「アズハ、お嬢様?」

 後ろで腰を抜かしていたおっちゃんが俺の背中に乗るアズハに気づいて呟いた。

「安心して」

 アズハはそう微笑むと、真剣な瞳で正面を見つめる。俺は容赦なく兵士達を潰し、引き裂き焼き尽くす! 噛みつぶしてもいいんだけど、正直に言うと野郎なんか噛みたくないし絶対不味い!!

「馬鹿野郎! バコロン公爵の元に近づけるな、なんとかしろ!!」

「くっそ、なんでこんな辺境にドラゴンなんか居るんだよっ!?」

 つまりこっちにいけば偉い奴がいるのね、てか辺境だからドラゴンとか怖いの居るんじゃないの普通? とりあえず兵士達の案内に従いお礼に踏み潰し集まってくるのを尻尾で薙ぎ倒し進んでいく。ちなみに飛んで来る矢は怒り狂うように見せかけて全部火で焼き払っている、アズハに危険が無いよういろいろ考えてブチギレドラゴンをやっているだ。

「ああああああっ!?」

「もうダメだっ退避、退避ぃ!」

 結構潰したし、流石に敵わないと感じたのか一か所に兵士が集まっていく。

「アズハ、あそこは?」

「私の、家です」

 つまり領主邸ってことね、この領地で一番豪華。大ボスが居そうな場所だ!

「公爵、馬を用意します急いでっ!」

「ふざけるな! 吾輩はただ王命で占領した土地の視察に来ただけだぞ、どうしてこんな目にっ」

 あの目障りな派手な衣服のデブがお偉いさんなのかな? 兵士が集まって必死に守ろうとしているように見える。ちょっとやってみたいことがあるから試してみよう! イメージは周囲を薙ぎ払う業火と爆発、早い話がファイヤーブレスの上位互換、出せそうな気がする。集中して魔力を練り上げ口に溜め込み一気に吐き出した!

「破壊の爆炎、デモリッションバースト!!」

 この瞬間の絶望しきった奴らの顔は面白いと思ってしまった。精神も悪いドラゴンになりかけてる? 誤算だったのは威力強すぎて奴らごとアズハの家を吹き飛ばしてしまったことだ、申し訳ない。

「アズハ、終わったよ」

「うん……」

 首の辺りをギュッと抱きしめられた感触を感じながら、様子を見ていた領民達の方に向き直る。目が合った瞬間後退りをして見せる、そりゃ兵士皆殺しのドラゴンが向いてきたら怖いよな……

「アズハっ!!」

 ボロボロの服を着た、しかしどこか気品を感じる口ひげを蓄えた男性が駆け寄ってくる。

「お父さんっ!!」

 背中からアズハを降ろすと二人は涙を流しながら抱き合っていた、殺されてなかったようでよかった。

「よかった、本当によかったっ!!」

 嬉しそうだなぁ……あれ? ちょっと残ってたみたいで武器も鎧も投げ捨てて逃げていく兵士が二、三人見えた。

「もう大丈夫、いいよ!」

 殺しに行こうかなって思ったらアズハに止められてしまった。

「お父さん生きててよかったね」

「うん!」

 アズハがすごく嬉しそうで俺も嬉しくなってくる。いい感じの達成感! 

「すまない、取り乱してしまった……アズハ、状況を説明してもらってもいいかい? この黒竜様はいったい……」

 奴隷として働かされていた領民やお父さんが解放され、販売目的だったのかこれまた奴隷として囚われていた女性や子供も解放。一通り喜んだ後、現在に至る。

「助けてほしいってお願いしたの」

「おお、なんと……偉大なる黒竜よ、なんとお礼を申し上げたらいいか」

 なんだろ、竜王様とか偉大なる黒き竜とか言われるのもあれだな……ちょっと遊んじゃおうかな。

「我はヴリトラ、南の山を越えた森に住まう者だ」

「ヴリトラ様、改めてお礼を。感謝申し上げます」

 俺はドラゴンモードから人間モードへと姿を変えた。集まった人々はものすごく驚いていた、やはり珍しいのだろう。

「礼なら不要、俺はアズハを妻として迎えた。今回のことは妻の願いを叶えたにすぎない」

 お父さんは笑いそうになるくらいすごい顔をしてアズハに向き直り、彼女が恥ずかしそうに頷くと完全にフリーズしていた。

「アズハ、それはあなたの選んだことですか?」

 奥の方から綺麗な女性が歩み寄ってきた。雰囲気的に関係者かな?

「お母さま、はい! 私は自分の意志で彼の妻となることを決めました」

「そうですか、やはりあなたは普通の人生を送れない運命なのでしょう……」

「どういうことですか?」

「あなたは私の本当の子ではありません、今はいない妾の子だったのですが彼女は女神だったのです」

 なんか話が急にすごい展開にシフトした気がする。確かに父と母を見てもアズハの特徴的な綺麗な水色の髪も赤い瞳も全然似ていないしそういうことなのだろう。てか、半人半神ハーフゴッドって感じかな? 俺の嫁は神様でした!

「アズハ、混乱しているとこ悪いけど話を進めてもいいかい?」

「あ、うん……実は外見も違うし、なんとなく察してはいたんだ。神様の子っていうのはピンときてないけどね」

 そう言って笑ってみせた。

「ヴリトラ様は、今後どうするのでしょうか?」

 膝から崩れ落ちてフリーズしている領主のお父さんを無視してお母さんの方が話を進めてくれた。

「俺は森に帰る、ここに口出しをするつもりはないし冬も近い。しっかり蓄えて生活を安定させればいい」

 言葉を聞いたお母さんは驚いていた。なんでだろう?

「ヴリトラ様! お願いがございますっ」

 疑問に思っていたら膝をつき頭を下げてきた。しかも領民全員が同じように頭を下げてきてなんかむず痒いっ。

「どうか、どうかヴリトラ様の庇護を頂きたく存じますっ! 欲しいものがあれば何でも差し上げます、どうか!」

 困ってアズハの方を見るとニコッと笑ってくれた。はい、可愛いです!

「名前を貸して、この領地に手を出すと強大なドラゴンの怒りを買うぞってことにしたいの」

 なるほど、後ろ盾になってくれってことか。

「それって大丈夫なの? ここってどっかの国に所属してるんでしょ?」

「してたけど、今回の一軒で占領されて国の所有権が変更、しかしドラゴンの襲来で放棄って形になると思うの」

「今はどこにも所属してないと?」

「そうなるね」

 アズハの話を聞いた感じ確かに後ろ盾が必要な状況なのは理解できた。

「いいだろう、ならば我が名を貸そう。汝らに災いが降りかかる時、そのすべてをこの魔竜ヴリトラが薙ぎ払ってやる!」

 ちょっとカッコつけてみた!

「ありがとうございます! ヴリトラ様、感謝いたします!!」

 領民全員ですごく感謝された。ちなみにこの領地はヴリトラ領域と呼ばれ他国の干渉できない自由な領地となるがもうちょっと後の話になる。

「ヴリトラ様、見返りとして何を差し出せばよろしいでしょうか?」

 困って再びアズハを見ると苦笑いされてしまった。どうしようかと考えていると視界の隅に気になる物が目に入った、全員解放されたはずなのに檻に入ったままの人が居る。三人? 全員女性だ。

「なぜあの者達を解放しない?」

「あ、あれは領民ではなく帝国が捕まえてきたエルフでございます。彼女達には悪いですが復興のため……」

 犠牲になってもらうとかそんな感じか。アズハが袖を引き笑ってみせた、考えていることはお見通しらしい。俺はエルフの捕えられてる檻へと歩みより力づくで檻を破壊した。

「なにを!?」

「エルフの娘達、今すぐ決めて欲しい。このまま奴隷として売られるか、俺の住む場所に共に来て暮らすか」

 俺はエルフ達に手をさしだした。彼女達は驚き顔を見合わせ困惑しているようだった。

「安心してください、私の夫は優しいです。それに、すでに五人のエルフが共に生活しており意外と居心地がいいかもしれませんよ?」

 アズハの後押しもありエルフ達は頷き合い、手を取ってくれた。

「決まりだ、このエルフ達をもらい受ける。いいな?」

「わかりました、しかし……」

 確かエルフは高く売れるんだったか? 復興には必要なのだろう。俺はため息をつき再びドラゴンモードへと変身し、体を掻き何枚か大きめの鱗をポロポロと剥がして見せた。

「好きに使え、これだけあれば簡単に立て直せるだろ?」

 領民が唖然としていた。後で聞いた話だと、俺の鱗はどうやらあれだけあると一生遊べるレベルの代物らしい。

「あと、小麦や大豆などを分けてもらえませんか? それと立て直してからでいいので今後家畜などいくつか融通してくだされば問題なしです。」

「わかりました、手配いたします。ヴリトラ様の恩恵ありがたく頂戴いたします!!」

 こうして俺達は小麦と大豆を樽いっぱいとエルフ三人を荷車に乗せそれを抱えて家に帰ることにした。アズハがここに残りたいと言ったら止められないなとか考えてたら、私は貴方と共にと一緒に来てくれることになった。父の方は愕然としてたが一応親公認で妻としたのだ! ちなみに、生贄とかはめんどくさいし要らないと拒否しておいた。

「お父様、お母様、また来ます! お元気で!」

 彼らは深々と頭を下げていた。

「帰ろう」

「うん!」

 すっかり暗くなった空に俺達は飛び立った。これが世界に影響を与える魔竜ヴリトラの始まりだったと気にもせずに。

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[良い点] 所属を確認して後先考えたのは偉い、奇策は定石を知ってるものが使うからタイミングと効果を間違えないのである、それはそれとしていつのまに結婚してたん?お二人さん。それはあんまり軽く扱っては良く…
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