第36話
茂みの中から現れた女性は緑がかった金髪に綺麗な水色の瞳、緑を基調とした衣服を身に纏っている。身長はアズハと同じくらいだろうか?
「貴方様は魔竜領域の主、ヴリトラ様でしょうか?」
女性はゆっくりと近づいてくる、どうやらグリフォンは彼女を守っているようだ。
「確かに俺はここに住んでるしヴリトラとも名乗っている、それで貴女は?」
「申し遅れました、私はリュクスティス。ティターニアです」
彼女の背中には虹色に光る蝶のような美しい羽が生えている、それは本当に見とれてしまうほど綺麗な羽だった。
「妖精女王がどうしてこんな場所に?」
「あ、待った、彼女の手当てもあるし彼に妻の姿を見せてあげたい。場所を変えても?」
「スノーホワイトは無事なんですか!?」
「無事だし赤ちゃんも生まれたよ」
「そうですか……」
リュクスティスは驚いた後、すごく安心したという顔になった。忙しいお方だ。
「で、移動しても?」
「はい、お願いします」
「レフィ、その娘と背中に。女王様も一緒にお乗りください」
「いいのですか?」
「構わない」
レフィは戦妖精の娘と背中に乗り、続くように恐る恐るという感じで女王様も乗ってきた。よくよく見ると女王様の羽の後ろやスカートの裾などなどに手乗りサイズの小さな女の子が数人居るようだった。
「あれが普通の妖精?」
「はい」
ルーフェに聞くとそう返事してくれた。
「じゃあ一度戻ります、グリフォン君もついておいで」
そう言って俺はその場を飛び立った。グリフォンもちゃんとついて来ているようだし大丈夫だろう、マンティコアの死骸は……後で考えよう。
「ピャルルラー!!」
家が見えてきた辺りでついて来ていた黒グリフォンが一気にスピードをあげて突っ込んでいった。気持ちはわかるけどすごい勢いだった。
「ピャー!」
家の方を見るとシラユキがゆっくりと歩いて出迎えに来ているようだった。
「すみません……」
「気持ちはわかりますよ」
背中に乗るリュクスティスが申し訳なさそうにそう言ってくるが気にしないしシラユキも嬉しいだろう。黒グリフォンは着陸するとゆっくりとシラユキに近づき再会を喜ぶように頭を擦りあっていた、やはり彼はシラユキの旦那で間違いないだろう。
「おかえりなさい」
「ただいま、怪我人が居るんだ。ベッドの用意できる?」
「うん、大丈夫」
全員を降ろしたら怪我をしている戦妖精をアズハ達に任せてこっちは状況を整理しようと思う。
「スタースパイダーにエルダーウォルフ……」
お約束のように驚いてくれるので人間モードに戻りセッカを撫でて大丈夫とアピールしておく。
「そろそろ、なんで襲われていたか聞いても?」
「あ、そうですね。すべてをお話します」
とりあえず外だけど椅子とテーブルを用意してお話の出来る環境を整えた。ちなみに黒グリフォンはシラユキと再会を喜び自分の子供達と対面中、早速餌を分け与えたりしていたので親子水入らずで過ごさせてあげることにした。
「まずはスノーホワイトを助けていただきありがとうございました、子供も無事に産まれたみたいで本当によかったです」
「最初来た時は危なかったですけどね、無事に回復してくれてよかったよ」
女王様はシラユキが元気なのを見てホントに嬉しそうだった。
「っと、説明でしたね。私達はここからずっと西の方にある森に隠れて暮らしていました、ですが突如アレクロン王国の使役する魔獣達が襲ってきたのです」
「妖精族は特別な作物を育てたりできますし、その過程で集めた蜜はフェアリーシロップと呼ばれて希少価値がありますから捕獲して自身の管理下に置きたいという王族や貴族は少なくありません」
「はい、恐らく王族の目に留まってしまったんだと思います。元々魔獣を使役する魔術の国、私達の結界を見破る呪術が開発されたのかもしれません」
早い話がひっそり暮らしていたら急に襲われて逃げてきたということらしい。
「最初はブラックナイトとスノーホワイト、そしてシンシアのお陰で襲撃を退け対抗していました。しかししびれを切らした王国は最強の兵器と呼ばれているマンティコア部隊を投入してきたのです」
あの戦妖精はシンシアと言うらしい。
「しかもスノーホワイトが妊娠してることが判明した?」
「はい、そこで先に体力的にも限界の近かったスノーホワイトを逃がすことにしたのですが……」
「ヘルハウンドの一部が追手としてついて行ってしまったと?」
「はい……」
たぶんその結果が北西の沼地での出会いなのだと思う。そこは助けられてよかった、シラユキの運が良かったんだと思う。
「その後、我々も戦力的に大きな被害を出し土地を捨てて逃げることにいたしました。それでも探索能力の高いヘルハウンドと戦闘能力の高いマンティコアを振り切ることができなく各地を転々と移動しながらどうにか生き延びていました」
「そういえば、あのマンティコアは馬鹿なんだっけ? 俺を見ても逃げないで襲ってきたし」
知能のある生物なら今までの経験からドラゴンを見た瞬間逃げ出すもしくは距離を取り続けるなどまず喧嘩を売ろうとしないのだがあれらは気にせず襲ってきた。馬鹿の一つ覚えとでもいうかのように。
「はい、正確には思考がありません。主の命令を受けたらそれを遂行し成し遂げるまで止まらないのです、呪いの一種で縛ってるんだと思いますけど、今回は妖精の女王を捕獲せよ、邪魔者は全て排除してとかそんな感じだったんだと思いますよ」
「あ、ちなみにヘルハウンドがさっき見当たらなかったのって」
「ご主人様めんどくさいだろうなと思ったので全部仕留めました!」
流石のルーフェ様、めっちゃ強いし優秀です。
「あ、続けてください」
リュクスティスに続きを促す。
「はい、そんな逃走生活をしている中ある日からブラックナイトが何かを感じとったかのように魔竜領域に行きたがるようになったのです」
「ちなみに魔竜領域って?」
質問したら女王様に何をおっしゃいます? という顔をされた……
「ご主人様は知らないと思いますけどここ、旧終焉の森は現在魔竜領域やヴリトラ領域と呼ばれて恐れられてるんですよ?」
初耳なんですけど?
「いつの間に……」
「帝国の力をごっそりそぎ落とした魔竜が住みついた、もうあの森には近づけないって」
そんな気性の荒いつもりは無いんだけどなぁ……
「私達も限界が近かったしブラックナイトの感にかけていっそのこと人の踏み込まない魔竜の住処へと飛び込む決断をしました」
「で、今日飛び込んだところでシラユキの咆哮が聞こえたと?」
「はい、最初は番で呼び合っていたんだ、無事に過ごせる場所があるんだと期待しました。しかし王国のマンティコアに追いつかれてしまい……」
そこでさっきの展開ということなのね。
「もう少し早く助けに入ればよかったかな?」
「敵か味方かわからないんです、様子を見るのは正しかったかと?」
ルーフェ、こういうところは冷静というか冷酷というかなんというか。
「はい、私達はあくまでよそ者ですし。あの状況で助けていただいただけでもありがたいです」
「それならよかった」
流れはわかった、よくあるお話のパターンではある。となると次の問題は今後の事だ。
「とりあえず状況はわかりました。女王様は今後どうするおつもりですか?」
「それは……」
ノープランっぽい、まぁ急に住処を追われて流れ流れてだししょうがないかなぁ。
「ティターニア!」
「ティターニア、ここ凄くいい!」
「環境がすごくいい!」
「ちょっと! あなた達勝手に……」
よくよく見ると手乗りサイズの蝶のような羽の生えた少女達が俺らで開拓した土地を飛び回って喜んでいるようだった。セッカ達も気にしてないし蜘蛛さんズとも友好的みたいだった。
「気に入ったのならここに住みますか?」
「え?」
女王様はキョトンとした顔をしていた。
「シラユキはもう家族みたいなものだし畑とか手伝ってもらえるなら歓迎しますよ?」
「本当ですか?」
「ただここ、結構な他種族で暮らしているから仲良くしていただけるなら」
「是非、よろしくお願いします!」
妖精族の女王にしては即決すぎる気がする、ちょっと不思議そうにルーフェを見る。
「ここはご主人様が思ってる以上に私達にとって安全で居心地のいい場所なんですよ? それにシラユキも、もう立派な住人ですし妖精族の皆さんが居てくれるならいろいろ利点の方が大きいですよ」
確かにさっきちょっと聞いただけでもメリットを感じるしおチビちゃん達は既に気に入ってくれてる様子、別に迷う必要もないという感じなのかな。
「じゃあリュクスティス、これからよろしくね」
「はい、末永くよろしくお願いいたします!」
こうしてまたここに住人が増えたのだった。




