第109話
この世界は基本的に地球で言う中世あたりが基盤にあると思う。科学も進歩していないし電化製品、もちろんパソコンなどの機械装置は存在していない。
「よし、この魔力量なら問題なく移植できる!」
「ほら博士、そんなこと言ってる暇があるなら完璧な仕事をしてあげたらどうですか?」
ルーフェに指摘されて博士は真剣な目をして装置を操作しセブンと呼ばれた崩壊寸前の個体からプロトゼロと呼ばれる培養液のカプセルの中で眠る個体への移植作業が進められていく。この世界に機会は存在していない、そもそも石炭やガソリンなどのエネルギーについての知識が一切なく電気も攻撃魔法という認識で科学技術という概念がほぼまったくない。まぁよくあるラノベの世界と同じと思えばいいでしょう、だいたいあってるしね。
「記憶、知識、意思……頭部の損傷がなかったのが幸いしている……これなら完全な移植ができる」
「それは、本当にアーデなのか?」
作業をしているその時、ふとトールが呟いた。
「確かに見た目もそっくりだし、記憶や意思が一緒。しかしそれは俺が好きなアーデなのか……」
確かに気になるとこだろうし感情的には難しい問題なのかもしれない、大切な人ならなおさらだ。
「関係ないかもしれないけど聞いて欲しい、アーデルシリーズは元々私の死んだ娘が元になっているんだ。どんな形でもいい、成長して生きて欲しいという願いを込めて始めた研究だった」
「じゃあなんで娘を兵器になんてした! アーデの姉さん達は神滅剣の生贄に使われて全員……」
「ホムンクルスの心臓、無限魔導核に目を付けてしまったのだ。しかも王命だったため逆らえなかった……ワンからセブンにはキングオーダーという王命に逆らえないよう呪いが組み込まれていた……」
「じゃあ辞めればよかったじゃないか!」
「できない! 僕にはできなかった。プロトゼロを守るためには作るしかなかったんだ!」
「そのプロトゼロはなんなのですか?」
「完全なる人間の器、成長し歳を取り人と共に歩んでいける完全体だ。ゆえに起動したが最後どうなるかはわからないし意志や思考など感情が一切ないために精神が育つのも待つしかなかった」
「そこでこの子の感情を使うのですね?」
「そうだ、セブンはトール君と出会ったおかげで過去の姉妹の中でもっとも発達した感情を持った最も人間に近づいた個体だった。だからこそゼロに賭けるんだ! 私の最初で最後の最愛の娘を!!」
熱い展開なのはいいんだけど、俺装置にめっちゃ魔力持ってかれてるんだけど……早くしてくれないかなぁ。この世界に地球のような技術はない、しかし魔法がある、マナを利用した装置が作られ魔力をエネルギーに稼働している。これは地球で言うシステムやエネルギーを駆使して作動させることを全て省いて魔法で解決している感じだと思う。こっちの世界では魔科学とか言うらしいけど、俺みたいな馬鹿には理解できない。後で簡単に教えてもらうしかないかな。
「話すのもいいですけど早くしなさい。この娘の体はもう限界ですよ」
見るとセブンの体は完全に炭化しており頭部も浸食されている。もう時間はあまり残っていないようだった。
「トール君、次に会うアーデルは君の知っているあの子ではないかもしれない。それでもどうか、傍に居てやってくれ。笑って行って欲しいんだ!」
「アーデッ!!」
(トール様、私を……私達を信じてっ)
少女の声が聞こえた気がした。その声にトールも覚悟を決めたようで信じると強い瞳が見えた。
「博士、そろそろ時間切れじゃねぇの?」
「もう少し! よし! 蘇れ、アーデル・セブン!!」
博士が培養器のレバーを思いっきり引く、すると装置が轟音を立て電撃が走り明らかに暴走しているような勢いで稼働している。大丈夫かこれ? てか更に魔力を吸い上げられるんだけど!? ホントに大丈夫これ!?
「あ、これヤバいやつだ……レフィ防御!!」
「えっ、あ、はい! グランフォートレス」
バチバチと装置が悲鳴を上げているのを見て咄嗟にレフィへ防御の指示を飛ばす。不意に呼ばれて油断していたのか驚いていたがすぐに防御魔法を展開してくれた次の瞬間だった、装置が轟音と共に爆発する。もちろん魔力を流し込んでいた俺はもろに飲み込まれてしまった。
「ぐおっ!?」
「ご主人様!?」
「アーデっ!?」
部屋が爆煙に包まれてしばらく経った。ゲホゲホと咳き込む声が聞こえてくる。
「いやぁ参ったっ……まさか最上位クラスのドラゴンがこれほどとは……王国が束になっても絶対勝てない! 断言できる」
「博士! そんなことよりアーデは!?」
博士が煙を払いながら結界で守られている皆の元へと歩み寄ってくる。てかちょっと博士の扱いが酷い気がする。
「主様生きてますか~?」
「平気、と言うか無傷だよ」
レフィにそう聞かれた時俺は背中から翼を出して風の魔力を纏いながら羽ばたき煙を吹き飛ばした。プロトゼロの入ってるカプセルは残っていたがセブンの方はもう跡形もなく吹き飛んでしまったようだった。そして残っていたカプセルも無事とは言えず亀裂が入り拡大している、今にも砕けてしまいそうだ。
「アーデ!!」
カプセルが砕けた瞬間、トールはすぐさまカプセルへ走り出し内部の液体、ガラス片すべてを無視してアーデル・プロトゼロを抱きとめた。
「で、博士。上手くいったの?」
「わからない、手術が完了するとほぼ同じタイミングで装置がヴリトラの力に耐えられず破壊されてしまった。どうなったか……」
「そもそもあれだけ魔力吸い上げるとか、あの装置自体使ったことないんじゃ? 明らかに実験すらしてない勢いだったし」
「そりゃ、あの規模の装置を極秘に使う魔力なんて手に入らないからね……この子を知られるわけにはいかなかったし」
そりゃ爆発しますよと思う。まぁそこまでして娘を守りたかった親心と言うのだろうが、歪んではいると思う。
「アーデ! アーデ、目を開けてくれ!!」
俺達が話している間もトールはずっとアーデを呼び続けている。ホントに大事なのが伝わってくる。
「キスで目覚めるんじゃね?」
「あ、それいいですね。粘膜接触で魔力を循環させるのはありですよ」
ふと口走った王道パターン、結構ありなのか?
「実際呪いなどの体内魔力を異常化させることへの対策として有効ですよ? 正常な循環を共有して元に戻すんです」
「あ、じゃあ試してみなよ。循環ってか動いてないなら動かしてあげればいいってことね」
「……」
トールは明らかに照れている。顔にそう書いてある、まぁ見られてるなかそういうのって恥ずかしいよねぇ。
「ほら、照れてる暇ないでしょ?」
「なるほど、ここは親として僕がっ……!?」
博士が何か言い出したが空気の読めるルーフェが見事な腹部へのストレートで黙らせた。博士は膝から崩れ落ちてピクピクしてるけどまぁいいでしょ。
「くそっ……アーデ。起きてくれ、愛しているんだっ!」
トールはそう呟くと唇を重ねた。正常な状態のトールが停止状態のアーデに循環を促し蘇生させる、それだけのことだ。ちなみに俺達はすごくニヤニヤその光景を眺めている、やっぱ青春っていいよね!
「アーデ……」
口づけを終えたトールの声にアーデの瞼がピクっと動いた。そしてゆっくりと目が開く。
「トール……様」
「アーデ!!」
トールはギュッとアーデを抱きしめて涙を流しながら喜んだ。
「トール様、また会えて……嬉しいです」
アーデの方も抱きしめ返して嬉しそうでよかった。
「愛だね~」
「愛ですね~」
「いいなぁ~」
「おねぇ様私ともっ!?」
レフィが蹴り飛ばされた気がしたが幸せそうな二人を見つめながら愛の力を実感した俺達だった。




