第108話
「博士! アーデをっ! アーデを助けてくれ!」
トールは研究所に着くなりアーデを抱きしめたままシラユキを振りほどいて飛び込んでいった。
「トール君、いったいどうして……それは、セブンか!?」
博士と呼ばれた五十歳くらいの男性はトールの抱きかかえていた女の子を見るなり驚いているようだった。
「とにかくこっちへ、状態を見せてくれ!」
「頼む、アーデを助けてくれっ」
もうトールは頼むしかできない。アーデを調べ始めた博士を見つめるしかできないのだ。
「セブンは黒嵐作戦の為に作られた七番目の私の娘、もう二度と会えないと思っていたのだが……」
「それで! 助かるのか!?」
「肉体はもう持たないだろう。自壊が始まっている……神滅剣の力に耐えられなかったのだろうが。想像以上に崩壊が早い……いったい何が?」
「私達がマナ遮断結界を展開。その内部で自然のマナを消費しつくして対応できなくさせました」
博士は急に振り向き声のする方を向いてすごいかをして見せた。
「堕天使? それにゴブリン?」
「細かいこと気にしてる時間はないんじゃないですか?」
「そうだ、なるほど。自然界のマナを吸収転換ができなくなり魔力が枯渇、神滅剣の力に耐え切れなくなり肉体の劣化が始まったのか……しかし、無限魔導結晶炉が無くなっている?」
「あ、もしかしてこれですか?」
イリオが持っていた俺が破壊した結晶を見せた。
「あぁ、これだ。しかしこいつはそう簡単に破壊できる代物では……」
「ヴリトラ様を相手にしたんです。常識なんて通用しませんよ」
「なるほど……状況はわかった。」
「博士! アーデはっ!?」
「このままでは彼女は完全に崩壊して消滅する、セブンはもう無理だ」
「そんなっ!!」
トールは博士の胸ぐらに掴みかかる、その瞳には涙がにじんでいるようだ。
「トール君、話を最後までっ……聞いてくれっ」
「少年、手を放しなさい。その言い方、一応助ける方法はあるということですね?」
ルーフェに諭されトールは手を離した。
「あぁ、セブンの体をもうダメだがまだ頭部の記憶核が残っている。損傷している可能性もあるがこれがあればセブンが過ごした日々の記憶や意思は継承できる」
「継承……?」
「ついてきなさい」
博士はそう言うとアーデを抱きかかえて研究所の奥へと歩んでいく。そして鉄の扉に閉ざされた暗い部屋へとやってきた。
「ここは?」
「アーデル達はね、私の死んだ娘が元になって作られたホムンクルスでね、この研究所で私は娘を蘇生させようと研究していたのだ。しかし戦力を欲しがる国王にホムンクルスを目に付けられてしまってね……神滅剣を振るう使い捨ての端末として製造せざるおえなくなってしまったのだよ……」
「その七番目がこの娘だったと?」
「あぁ、セブンはもうダメだがこの娘はトール君と過ごした幸せな記憶を大切な思い出として保管しているそれは僕が願っていた幸せだった娘の一欠けらだと思う。ならば父親として死なせるわけにはいかない。もとより悪魔に魂を売った身恐れる物は何もない!」
「博士、何をする気だ?」
「僕の最初で最後の最高傑作。アーデル・プロトゼロにセブンの記憶と意思を移植し定着させる」
「それでアーデは助かるのか!?」
「わからないし膨大な魔力も必要になるが助けるにはやるしかないんだ!」
培養液の中で眠っているアーデと呼ばれる女の子とよく似た姿をした女の子にセブンと呼ばれた崩れかけの女の子を様々なよくわからない機材で繫ぎ準備をしていく。
「プロトゼロは純粋な戦闘用ではない。僕が娘として幸せに生きて欲しいと願いを込めて作った最弱で最高の可愛い娘だ……移植に使う魔力は僕の命を懸ける。トール君、どうか僕の娘を幸せにしてやってくれ!」
「まってくれ! 命をってどういう!?」
「僕の魔力全てを使えば恐らく移植できるエネルギーは確保できるし今後私の娘達を兵器として使わせる気もさらさらない後は任せたよ」
「彼女達に頼んだらいいんじゃないのか!? 彼女達なら博士より保有魔力は多いだろ!?」
トールはルーフェ達を頼ろうとしているがまぁそううまくは行かないんだよねぇ。
「残念ですがご希望には答えられません」
「なんで!?」
「遮断結界って結構魔力使うんですよ? しかも命を懸けるレベルで必要となると私達も危険です。他人の為にそこまでする義理はございません」
流石堕天使様容赦がない。そしてトールの目がイリオに向く。
「わ、私も無理ですよ? 蛮族類のゴブリンとかより遥かに高いとは思いますけど、それでも人間と同じような物しかないです!」
「トール君、いいんだ。僕は娘を愛していたが罪を犯し過ぎた、償う時が来たんだ」
「博士……」
「それじゃ、後は任せたよ……」
博士が装置を起動させようとした時、ルーフェが呟く。
「まぁ、膨大な魔力を持っていてこの状況を助けてくれるかもしれないお方を一人知ってはいますよ」
「えっ?」
「ただ趣味の悪いお方で今もこのやり取りを隠れて覗き見してましたからね。そうでしょ? ご主人様」
あ、普通にバレてた。流石ルーフェさん……俺はミラーハイドを解除してその場に姿を現した。
「俺はヴリトラと呼ばれる者、初めましてだな」
「もうお城の方は終わったんですか?」
「ん? 全部消し飛ばしたよ」
「……」
「……」
「はい?」
博士とトールはポカンとしていた。
「城にはナオヤも居たはずだが……」
「それってなんか無駄に光ってる鎧着て偉そうにしてる奴?」
「あ~たぶんそう。あいつ王様に尻尾を振るの上手かったからいい装備や待遇たくさん貰ってたし……」
「城ごと消し飛ばしたからな。たぶん死んだんじゃない?」
「そう……なのか……」
呆気に取られてキョトンとしていた。
「ほら、それより早くしないと助けられないんだろ?」
「はっ! そうだったアーデの蘇生に魔力がっ」
「話は聞いてたよ。勇者だろうが凡人だろうが個人的にはどうでもいいし他人に興味なんてないけど剣を向けずに会話をした相手は他人と呼んでいいのかわからないんだよね」
「いったい……どういう?」
「まぁ、これは貸しだ。いつか大きな利益で返してもらう。邪悪なドラゴンの力を借りる覚悟はできてるかい?」
「いいぜ! 俺の渡せるもの全て捧げてやる! だからアーデを返してくれ!」
まぁ彼女を倒したのは俺だつまり奪った張本人。こう話すなら返してくれというのもわからなくもないな。
「ここに魔力流せばいいんだな?」
「あ、あぁ……」
「準備は良いんだな?」
唖然としていた博士はハッと我に返る。
「勿論だ、いつでもいける!」
「お前達が返してくれるもの期待してるぜ!」
俺は装置に魔力を流し込んだ。ドラゴンの膨大な力は命を奪うだけじゃない一人くらい救ってみせなきゃただの兵器に成り下がる、同郷のよしみもあるしやってやんなきゃ名が廃るってね!
「記憶と意思を譲渡開始。アーデル、娘よ生き返ってくれ!」
「俺は、アーデともっと。思い出を作りたい! 頼む! お前が居ないとダメなんだ、戻って来てくれ。アーデ!!」
俺は更に魔力を込める。結構消耗しているがそれでも十分足りるだろうし言ってしまった以上ここで失敗とか名が廃る。やってやろうじゃないか!




