第106話
さてと、とりあえず黒嵐は納めることができたけどすこし問題が残ってしまった。シラユキが押さえつけている青年、それにアレクロン王国。どうやらあの国は脅しただけじゃ何も感じないらしい……
「シラユキ、放していいよ」
声をかけるとシラユキは地面に押さえつけていた青年を解放してあげた。
「アーデ!!」
青年はわき目もふらずに倒れているホムンクルスの女の子に駆け寄り抱きしめている。想像以上に大切な存在だったみたいだ。
「アーデッ……」
さてどうしよう。気まぐれとかいろいろ言われるかもしれないけど、こういうのほっとけないんだよなぁ……
「このホムンクルスは復活させたりできるの?」
「わかりませんが、この娘を作った場所なら何かできるかもしれませんね」
一応希望はあるらしい。俺はコアみたいなのを破壊したがこれは人体で言う心臓、つまり個性や性格、意識などを司る機関。脳が残っているのであればもしかしたら……
「青年、そろそろ話を聞く気にはなったかい?」
そう言うと青年はこっちをキッと睨みつけてきた、まぁ殺した張本人だし気持ちはわかるけどね。
「仇の言葉を聞くのは癪かもしれないけど、もしかしたらその娘をどうにかできるかもしれないよ?」
その瞬間青年の顔から怒りが消え、希望が浮かんだようにみえた。
「その娘を作ったであろう施設に心当たりはある?」
「あぁ……研究所を知っている。あの剣も保管してあった場所だ……」
なら確定って感じかな? 違うなら絞め上げて答えさせればいいだけだし。
「皆はいいかい?」
「ご主人様の決めたことなら」
「はい!」
「何でもいいですよ~」
「じゃあ決まりだ」
俺はルーフェ達に確認を取り、再び青年に向き直る。
「俺達はこれからアレクロン王国の馬鹿にお礼に行く。そこで君たちの手助けを少しだけしてあげようと思うんだけど一緒に来るかい?」
仇からの提案、お礼の意味も分かってるだろう。さっきまで敵だった、もしかしたら今も敵かもしれない相手の言葉を信じられるほどの愛はあるのか? 青年はこのまま最愛の女性の死を嘆き受け入れるか、何をしてでも助けたい、一緒に居たいと抗うのか。決めるのはあくまでこの青年だ。
「申し訳ないが時間はない。今すぐに決めろ」
青年はホムンクルスの顔を見つめ、すぐに俺に向き直った。
「俺はアーデを助けたい! 悪魔に魂を売ったとしても!!」
俺は悪魔じゃないんだけどね。青年の顔は、諦めないといういい表情だった。
「なら決まりだ、早速行くとしようか!」
俺達はそのまま飛翔しアレクロン王国へと飛び立った。
「そう言えばお前、名前は?」
「え? ……あぁ、トールだ。トール・スドー」
やっぱ同じ地球、しかも日本人で間違いなさそうだ。漢字はわからないけど須藤徹とかそのあたりだろう。
「召喚された勇者の一人か」
「お前はヴリトラだろ? 俺達は国を襲ったお前を倒すために呼ばれたんだが?」
「それは馬鹿な王様がちょっかい出してきたから仕返しただけだよ」
「飛んだとばっちりだ……」
「まぁ仮にも勇者だ、苦労はないだろ?」
「は? 知らない環境に急に放り出されたんだぞ? お前みたいなドラゴンに俺の苦労はわかんねぇだろうな」
ルーフェさんがピクっとした気がした。口が悪いと俺よりもルーフェさんが怒るんだよなぁ。
「まぁいいや、アレクロンについたら俺は王城に挨拶してくるから。ルーフェ達はトールを助けてあげな」
「はい!」
「は~い」
「……わかりました」
ルーフェさんちょっと不満そうだけどまぁ我慢してもらおう。
「それじゃ、シラユキこいつを任せる。トール、大事な彼女落とすなよ?」
「は? なにをっ……うお!?」
俺は片手に乗せていたトールを放り投げた。シラユキ空中でそれを見事にキャッチした、トールもアーデを必死に抱きしめていた。
「お前っ!」
「ナイスキャッチ! じゃあまた後でな!」
俺は見えてきた王城へと方向を変えてルーフェと別れた。さてと、今日はわかってから試したかった新技の実験台にでもなってもらおうかな。前回はこの世界に来て初の殴り込みだったし脅すだけにしたけど、ドラゴンの逆鱗に触れて二度目はないと教えてあげよう。




