第105話
「シラユキちゃん、そのままその子押さえててください。邪魔されると困るので!」
降りてきたイリオはそう言うとシラユキから飛び降りてこっちへ走ってきた。ちょっと可哀想な気もするけどあの感じじゃすぐ抱き着いて調べられる状態じゃなくなるだろうし申し訳ないけどあのまましばらく泣いててもらおう。
「ご主人様、お怪我は?」
「大丈夫、心臓……と言うより核みたいな部分は破壊したからもう動かないと思う」
俺の左手には砕けたオレンジ色のミスリル核のような物体が握られていた。胸を貫いた時彼女の内部にあったのは心臓ではなくこの鉱物だったのだ。
「間違いなくこの娘はホムンクルスですね、人体に似せて作られてますけど明らかに強度が人のそれじゃないです」
「そうですね、核さえあれば魔力を無限に吸収して損傷を回復する系統のホムンクルスだと思います」
「しかも使い捨て前提みたいですね素体が劣化しきったら再生も追いつかなくなるそうなったら捨てて次の個体にって感じかと」
まさに兵器という感じらしい。何と言うかたちが悪い……
「この娘も劣化が酷いです、あまり時間は残ってないかと」
時間がない、四肢は崩れてしまっているがまだ体は残っている。しかし崩れた部分から炭化が進んでいてしばらく時間が経つと完全に灰になって消えてしまうのだろう。
「ご主人様、お客様みたいですよ」
ルーフェの声に前を見ると紫っぽい鎧を着た集団が迫ってきていた。まぁ結構な数居るから気づいてはいたけど……
「あの鎧、何処のかわかる?」
「あれは、アレクロンの近衛騎士団ですね」
またアレクロンかい! あの国もしつこいなぁ……
「黒嵐作戦失敗。ホムンクルスはもう使い物にならんな……勇者も後回しでいい。テンザンの回収を最優先、我々はヴリトラを足止めする! 行くぞ!」
隊長っぽい奴がそう言うと、騎士団の大半の奴らがなんか黒い結晶を掲げだした。
「なにあれ?」
「わからないですけど、ろくなものじゃないですね」
眺めていると鎧が砕け中から魔獣が姿を現した。前に倒したマンティコアっぽい感じだけど結構デカいし強そうだ……それが数えるのもちょっとめんどくさい数はいる。
「人体を触媒に魔獣化させる物質でしょうか? たぶん人に戻れるかすらわからない危険な物ですね」
そこまでして回収したいのがこのホムンクルスでもあの青年でもない。あの剣ということは多分何かあるんだろう、まぁ俺の体を斬れる時点でそうとうな魔剣か聖剣であることは確定しているし。ここまでしてくるのだ、全力で邪魔してやらないといけないよなぁ!
「ルーフェ、後ろは任せるよ」
「はい、ご主人様」
俺はドラゴンモードへと変身した。このホムンクルスと戦うには大きな体が不利になるため変身していたが、雑魚を薙ぎ払うならやはりこっちだろう。人間がスズメバチなど致命傷になる危険な能力を持つ虫を相手にするのは大変だがゴキブリは数が多いけど叩き潰せばいい。たぶんそういう感覚なんだと思う。
「嵐は俺の味方らしい、行くぞ害獣ども!」
俺は上空に飛翔して奴らに狙いを定める。結構な数が居るがただそれだけ、両翼と口に魔力を集めていく。嵐の力をそのまま生かして一掃させてもらおう。
「荒ぶる嵐、今すべての物を薙ぎ払う。カラミティタイフーン!!」
全てを薙ぎ倒す嵐の力と全てを破壊する竜の力を合わせた災害の嵐。黒嵐にも負けない圧倒的な破壊力、いくら魔獣になろうがバラバラに引き裂いてやる!
「残念、足止めすらできなかったな」
カラミティタイフーンに飲まれアレクロンの騎士団は全滅、跡形もなく吹き飛んだようだ。
「お見事ですご主人様!」
「そっちは平気?」
「はい、問題ありません」
「さてと、一番の問題は……」
俺は放置していた地面に転がっている例の剣の元へ歩いて行った。
「さっき騎士の人はテンザンって言ってましたね」
イリオも近づいて来た。触ろうとする手を俺は制した、さっきは戦いに集中してて気づかなかったけど今ならわかる……融合しているガルザークが反応しているのだ。
「主様?」
「ガルザークが反応してる……」
「ってことは……」
「間違いなく神滅剣の一振りだと思う」
確かに神滅剣なら俺を余裕で気づつけられるのも、ホムンクルスなんて特殊な存在を使わなければいけなかったのも理解できる。
「テンザン……」
「主様!?」
俺は地面のテンザンに手を伸ばす。柄を握った瞬間、お互いを吸いあうような感覚に襲われる。これに負けると剣に飲み込まれ俺は壊れる、しかし俺は負けない! ヴリトラを舐めるな!
「右手の痣が大きくなった?」
「テンザンを取り込んだのですか?」
テンザンはガルザーク同様俺の体と融合したようだった。俺のキャパシティー次第なのだろうけど神滅剣二本と融合できた、両方とも好きなように出し入れできるようだし体に支障もない。とりあえず様子見になるが放置したら厄介な剣を回収できたし良しとしよう。




