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来週の舞踏会に参加することを決めてからの行動は早かった。
亡くなった母のドレスや装飾品をルイーズと一緒に手直ししたり、顔なじみになっている商人にお城まで馬車で送ってもらうようにお願いをする。
継母達には当然内緒だ、参加すると言ったら許して貰えそうにないから。だから当日、私が不在でも怪しまれないように事前に手は打っておいた。
『お母様、来週お城の舞踏会がある日にちょっと朝から出掛けたいのですが、いいでしょうか?』
私がそう言うと継母は眉をしかめ嫌そうな顔をする。
『そんな勝手なこと言われても困るわよ!
それに一体どこに行くというの?』
『そろそろお肉がなくなってきたので隣町の安売り店に買いに行こうかと。ですが駄目と言うなら、』
『まさか駄目なんて言わないわ!行ってきなさい、そして普通の肉を買ってきなさい』
継母はそう言ってから『絶対にお店に行きなさい』といつもより多めに食費を渡してくれた。
やはり継母はそれほど悪い人ではない。
◇◇◇
準備は全て整い王城で開かれる舞踏会当日を迎える。
私は予定通り『ではお買い物に行って参ります』と朝から屋敷を出て、途中でルイーズの家に寄り用意したドレスに手早く着替える。
すべて順調にいっているので時間の余裕があった。
のんびりしているとルイーズが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「お嬢様、何をなさっているのですか!
もう舞踏会は始まっていますよ、これじゃ遅刻です、さあ早く馬車に乗ってくださいな」
時刻はまだ午前11時だ。舞踏会の開始時刻は午後1時なので、王城まで一時間は掛かるけれどまだ出発しなくても大丈夫なはずだ。
「12時に出れば大丈夫じゃないかしら?」
早く着くのも遅く着くのも避けたかった。目立つことはしたくないので、人混みに紛れて入場するつもりだ。
「何をのんきなことを言ってるんですか。開始時刻は11時ですよ。お嬢様、ボケるにはまだ早いですからね。若いんですからしっかりしてくださいな。さあ早くしないと」
「えっ、そうだったかしら……?」
私の記憶では1時だった気がするが、ルイーズに急き立てられるまま馬車に押し込まれた1時間後王城へ到着した。
時刻はちょうど12時、お城の塔の上にある鐘が『ボーン、ボーン…』と鳴っている途中だった。
なぜか着飾った人は誰もいない。
忙しなく舞踏会の準備をしている人達がいるのみ。
その理由は言われなくても分かる、やはり開始時刻は午後1時だったのだ。
基本舞踏会には早めに来るものではない、予定時刻より遅めに来るのが常識となっている。だから貴族は誰も来ていない…。
…ルイーズ、間違ってるから…。
ここにはいない70歳自称現役ルイーズが恨めしい。日頃はシャキッとしているのだから、肝心なところでボケてほしくなかった。
舞踏会に一番乗りした私は人混みに紛れることも叶わず目立ちまくっていた。