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その令嬢の言葉に続くように周りにいる他の令嬢も口を開く。笑顔を浮かべてはいるけれども、話している内容は辛辣なことこのうえない。
「全くもって信じられませんわ。スナイル王子様の隣に名もなき令嬢がいるなんて嘆かわしい」
「本当にそうですわ。どこの馬の骨とも分からない令嬢が厚かましい。貴族とは思えないその厚かましさは交流がある平民から教わったのかしら?」
「私達を差し置いてずーずーしいですわ。ふっ、きっと私達が誰かも知らないのでしょうね?卑しい身ではそれも仕方が無いのかしら、おっほほほー」
蔑むような目で私を見る令嬢達。
ドレスも装飾品もすべて一流品を身に着け、髪型や手にしている扇ですら流行の最先端のもの。
恵まれた環境で暮らしているのは疑いようがない。
でも彼女達には大事なものが欠けている。
本当に大切でなくてはならないものが…。
…とてもお可哀想だわ。
どうして誰も教えてあげなかったのかしら…。
高位貴族である彼女達がどうしてだろうと不思議でならない。
でも彼女達の責任ではないのだろう。
子へ教育を施すのは親の義務、だから無責任な親の責任だ。
私は彼女達がこれ以上恥をかかないようになるべく小さな声で話し始める。
「アムロ公爵家のレナ様、メグロ公爵家のキャサリン様、エドガ侯爵家のコーデリア様、そしてアガサ伯爵家のクリスティー様。お初にお目にかかります、ムーア子爵家のリリミアと申します」
まずは一人一人の名を呼びながらちゃんと目を見て丁寧に挨拶をする。
「あらあら、私達の名は知っているようね。ほっほほ、身分も高く由緒正しき私達は有名ですものね」
その通りだった、貴族なら知っていて当然のこと。
貴族に生まれた者は幼少期から貴族名鑑を読み、国中の貴族の顔・氏名・身分・縁戚関係・領地などありとあらゆる情報を頭に叩き込む。
それは社交のためには必要最低限のことで、知らないでは済まされない。
高位貴族だろうが低位貴族だろうがそれは同じ…。
それなのに彼女達は私を知らない。
つまり貴族として大切な教養の基礎が足りないのだ。
『無知』は恥ずべきこと。
本当にお可哀想だわ…。
知らないことが恥ずかしいという感覚もないようね。
隠すことなく自分から言っているのだから…。
このままではお気の毒だわ。
私がこっそりと教えてあげましょう。
彼女達のことを考えて、なるべく小さな声で話そうとするが『あら~、そんな声ではなんにも聞こえませんわ。私に言いたいことがあるならもっとはっきりとお話になってちょうだい!』と大きな声で言い放つ。
どうやら若いのに少し耳が遠いようだ。
聞こえないのでは意味がないので、彼女達のために、同じくらい大きな声で話すことにした。
「貴族ならば爵位に関わらず、国中の貴族の顔・名前・縁戚関係などを覚えていなくてはいけませんわ。これは社交界に出るうえで最低条件と言ってもいいものです。
覚えられないことは大変に恥ずかしいこと。
さきほど皆様は『私のことを知らない』とはっきりと言っておりましたが、それは『私はお馬鹿です』と宣言しているに等しい行為ですから、お控えになったほうが良いかと…。
誤解しないでくださいませ。知らなかったことを責めているのではございません。なぜなら教育を施すのは親の役目ですから…。どうして名家と呼ばれるほどの家系なのに教育に手を抜かれたのでしょうね?」
令嬢達は顔を真っ赤にさせながら、魚のように口をパクパクしている。
どうやら自分達の無知に全く気づいていなかったようだ。
良かったわ、教えてあげて。
これで被害は最小限に抑えられたわね。
「な、なっ…なんてこと言うの!そんな事あるはずないでしょう!私達は幼少の頃よりしっかりと教育を受けてきたわ」
アムロ公爵令嬢の叫びに他の令嬢達も必死に頷いて『そうですわ』と叫んでる。
親を庇っているようには思えない。
…ということは、問題は家の教育ではなく彼女達の記憶力にある。
「……そうですか、たいへんおいたわしいことです。幼少期からの教育の結果がこれなんて…。
あっ、責めてませんわ、誤解しないでくださいませ。頭の限界は人それぞれです。頑張っても結果に結びつかない人もいますわ。それも…個性?ですわね♪」
「ち、違うわ!何言ってるの、この貧乏令嬢が!」
私に向かって暴言を吐く令嬢。
その淑女とは言えない叫びに周囲は静まり返り、人々の視線が集まる。
「……いいんですのよ。さきほど名乗ったばかりですが、もう忘れられたのですね…アムロ公爵令嬢」
しんみりとした口調で話したが、周囲が静かだったので私の声は広間に響いてしまった。
令嬢達の耳に合わせて声を大きくしたのもいけなかったのだろう。
バッタン…。
さきほどまで元気だったアムロ公爵令嬢がなぜかばったりと倒れてしまった。




