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「両想いになれるなんて…夢のようだ。
リリィ、ありがとう」
ギュッと抱きしめながらそう囁く王子に胸が熱くなる。
本心ではないとは思えないくらい、心が籠もった言葉に私も嬉しさからギュギュッと抱きついた。
『あっ、これはまずい…』と呟く王子。
なぜか密着した体を微妙にずらして空間をあけられてしまった。
せっかく良い雰囲気なのに…。
こういう場面では空気を読んで欲しい。
せっかくの甘い雰囲気が微妙な空間のせいで台無しだ。
やり直しとばかりに、また私の方からギュッと抱きついたら『悪い、本当に…駄目だから』と真剣な表情で懇願された。
「いったい何が駄目なのですか?力加減が強すぎましたか?でしたらもう少し弱められますよ」
私だって力加減の調整くらいできる。
でも若干前傾姿勢の王子は私の肩をがっちり掴んで微妙な空間を維持し続ける。
それならばと、ぐっと力を入れ全体重をかけて踏み込もうとしたその時、後ろから声が掛かった。
「スナイル様、お時間です。これ以上はまずいでしょう?からお早く…」
ガードナー様は変なところに疑問符をつけて話している。遅刻しそうなら、『これ以上はまずいでしょうからお早く』でいいのではないかと思う。
なんで訊ねる体で『?』をつけているの…?
おかしな言い方をするなと思っていると、ガードナー様の言葉に王子は無表情で頷きながら素早く私から離れていく。先ほどまであった温もりがなくなって、寂しさを感じてしまう。
「スナイル様、馬にはまだ乗れる状態ですか?」
「…ああ、ぎりぎりな。…助かった、ケイ」
「良かったです。ですが下半身限定の護衛は最初で最後にさせてもらいます。人間は理性を持った生き物なんです、スナイル様は知っていますか?」
「……たぶん…な」
二人で何やら小声で話しているが私には聞こえなかった。
その後スナイル王子は馬上から『リリィ、すまない。明日また来るから』と急いで戻っていった。
とにかく何か政治的にまずいことが起きそうだったのだなと思いながら、その後ろ姿に『スナイル様、続きは今度いたしましょうー』と見送った。
◇◇◇
お互いに想いを確認し合ったあの日から、スナイル王子の愛情表現は『これが溺愛か?!』というものに変化していった。
なんかどこかのネジが外れてしまったのかというくらいに…。
ルイーズの教えに従って私も負けじと気持ちを言葉と態度で示す。
出し惜しみはしない。
『愛は死ぬまで湧いてくるものです、ケチってはいけませんよ。ほら私だってまだまだ恋人募集中ですから』とルイーズだって言っていた。
私にだけに見せてくる『錯乱王子』の顔。
口は悪いし、態度だって紳士的でないところも、…まぁ多々ある。
それは私に対してだけで、他の貴族や令嬢達の前では『完璧な王子』のままだ。
でもそれは大事にされていないのではなく、私だけを特別に想ってくれている証。
くすぐったいわ。
でも…すごく嬉しいなって思うの。
お家デートや野っぱらデートを経て、順調に下町デートへと進んでいく充実した日々。
そして最近になって二人で舞踏会に参加するようにもなった。
周りは私達のシンデレラ物語を信じているので、あからさまに反対の声を上げる貴族はいない。
だが子爵令嬢と王子の組み合わせは普通なら許されないもの。
私がスナイル様と一緒に舞踏会に参加すれば、王子を狙っていた高位貴族の令嬢達は『自分がいるはずだった場所を盗まれた』とばかりに睨みつけてくる。
でも直接はなにもしてこない、だって私の隣にはいつもスナイル王子がいるから。
でも今日だけは違った。
『すまない、ちょっと席を外す』と王子が側近とともに私の隣から姿を消すと、綺羅びやかなドレスを身に纏った令嬢達がさっさと私の周りを取り囲んだ。
凄いわ、これなら立派な獲物が狩れるわね。
狩人顔負けの身軽な動きに感心していると、一人の令嬢が一歩前に出てきた。
「あらあら、どちらのご令嬢かしら?公爵家、それとも侯爵家かしら…。高位貴族の集まりではお会いしたことはないようですから、もしかして他国の王族かしら…ふっふふ」
その視線は好意的なものとはほど遠いものだった。




