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「「「うわぁーー、本物のシンデレラだ!」」」
王子が屋敷を訪ねてきた日から私を取り巻く状況は一変した。
買い出しの為に町を歩いていれば、私を指さしながら子供達が『シンデレラだー』と歓声を上げて寄って来る。それは大人達も同じで『お幸せにっ!』と祝福の言葉を誰もが口にする。
そしてある一定の人数が集まれば、満面の笑みを浮かべながら『シンデレラ万歳ーー!!』と万歳三唱を始める始末だ。
違いますから!!
確かにシンデレラみたいな生活だったからある意味シンデレラなのは合っているけど…。
でも最近の噂は全くの出鱈目でっ!
つまり半分は合っているけれども半分は合ってません。
だ・か・ら・違うのーーー!
最初は必死になって『これはなにかの間違いでして…』と釈明していた。
何度も何度もそれは丁寧に、誤解を解こうと努力していた。
…だけれども、なぜか誰にも話が通じない。
というか『ちゃんと正しく聞き耳』をどこかに落としてしまっているようだ。
『さすがシンデレラだ!慎み深いな』
『応援してるから身分なんて気にしないで!』
私の言葉にそんな言葉を返してくる町の人達。
誤解が解けるどころか、…加速している。
……ちがう…のに………。
最初こそ誤解を解こうとしたけれども、最近はもう諦めた。
それはもう綺麗さっぱりと。
別に投げやりになっているのではなくて、幼い頃の父との会話を思い出したのだ。
『人には自分の力ではどうにもならないこともある。そういう時は…』
『そういう時にはどうすればいいの?おとうさま』
『リリミア、そういう時には笑って前に進むんだ。
うじうじ考えて立ち止まっていても良いことはない、腐ってしまうだけだ』
『えっ、くさっちゃうの??』
『ああそうだよ、ほら置きっぱなしにしていると台所の肉や野菜だって腐っていくだろう?それと同じだな』
『そうなんだ!だから人はねている時もうごいているんだね。わたし、ねぞうがわるくてよかったー』
思い返せばとても素直な子供だったと思う。
父の話を真に受けて『おとうさまって、なんでもしっているのね』と抱きついていたのだから。
もちろん今は『物理的に腐ってしまう』とは信じてはいない。
でもお調子者の父にしては良いことを言っていたと思う。
どうにもならないことを考えすぎても心を消費するだけだ。それなら前だけを見て笑っているほうがよっぽど有意義だ。
別に実害はないから放っておきましょう。
そのうち噂も治まるわ。
世間では『人の噂も七十五日』と言われている。
人々もそのうちこの噂に飽きるだろう。それまでの辛抱だ。
もう割り切ってこの限定シンデレラブームを私も楽しむことにする。
周りがこの噂で盛り上がってお祭り騒ぎを楽しんでいるのなら私だって楽しんでも罰は当たらないはず。
皆の祝福の言葉に微笑みながら『ありがとう?』と応える。嘘はいけないけれども、最後に『?』をつけているのだから嘘は言っていないのでぎりぎり大丈夫だ。
そしていつものように安売りの肉屋へと足を運ぶ。ここは上質の肉をお手頃価格で売っている店なので値切るのも他の店より難しいがとても人気のある店だ。
「いらっしゃーい。あっ、リリミア様じゃないですか、この度はおめでとうございます!!」
「こんにちは。ありがとう?」
「??なんか語尾がおかしくないですか?
……気のせいですかね」
訝しげに首を捻る店主。やはりやり手なだけあって、なかなか鋭い感性を持ってるようだ。
「ゴッホ、ゴッホ…。なんか声の調子がおかしいみたい、風邪でも引いたのかしらね…」
断定はせず仮定で話し、良心の呵責に見事打ち勝つ。
「そりゃ、大変だ。しっかり肉でも食べて元気になってくださいよ。リリミア様はスナイル王子の大切な『シンデレラ』なんですから。今日は特別に10%引きにしますよ!」
シンデレラブームに便乗して値引きをお願いしようと思っていたのに、こちらが値引きを要求する前に値引いてくれた。
それならばもっといけるはずだわ。
もっと、もっと…。
いまだかつてない高みを目指してみよう。
「うーん。シンデレラって10%割の価値かしら…」
「では、15%まで割引しましょう!!」
店主は笑顔を浮かべてそう言ってくる。
…まだいけるわ。
私の頭の中の辞書から妥協という文字をすぐさま消去する。
「おとぎ話も改編されるのかしら…。もしそうしたらこの素敵なお店も登場したりして…ね?」
ぎりぎりの線で揺さぶりを掛ける。仮定で話しているので、…たぶん大丈夫だろう。
これならあとで噂が本当ではなかったと分かっても出入り禁止にはならないはずだ。
…たぶん。
店主の笑顔が微妙に引きつってきている。
「ええいっ、では30%引きだ。持ってけ泥棒シンデレラ!」
目に涙を浮かべている店主の手に代金を渡し『ありがとう!』と言ってから肉を手に店をあとにした。
こんなふうに新たなシンデレラ生活を満喫している。なかなか楽しいし、充実しているのでこの現状に文句はない。こっちだって噂を悪用…ではなくちょっとだけ利用している。だから、お互い様ってところだろう。
ただあれから一つだけ大きな問題がある。
それは毎日のように訪ねてくるスナイル王子だった。
(作者のひとり言)
【カモノハシは見た!】
いつものように親友ケイに会いに来たカモノハシ。
「あれ、いないな?ケイってばどこにいるんだ?」
探しながら歩いているとケイの姿を見つけた。でも一人ではなく隣に誰かがいる。
「えっ、な、なんで…あいつがケイの隣にいるんだ…?!」
ケイの隣りにはあの『両刀使いの二股野郎』が。
「まさか親友のケイが、あの男が言っていた『ケイ…』だったのか…」
二人の顔はよく似ている。ケイとあの男の繋がりに気づくカモノハシ。
辿り着いた真実に体を震わせ、なぜかその場に崩れ落ちた。
…次回波乱の展開が待っている??




