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どちらかを選ぶなんて出来ない。
『王子としての自分を優先せよ』と幼い頃から教えられてきた。国と国民を大切に思う気持ちは心からのもので偽りではない。
だが『でも…』と思っているのも事実。
こんな気持ちは初めてで言葉にする術も知らなかった。
だがどうしようも無く惹かれてしまう強い想いを知ったからにはもう知らなかった自分に戻れない。
『手放したくない』
いいやそんな軽い気持ちではない、『手放してはいけない』と全身全霊で心が訴えている。
どうしたらいいんだ…?
俺は王子としての責任を捨てられるのか…。
いいや、そんなことは出来やしない。
自分に課せられた責任と諦められない想いの間で葛藤する。
王子としてはこの想いを捨てるのが正解だと理解しているが、正しい道が選べない。
いつもなら自然に王子として正しい道を選んでいたはずなのに…。
「スナイル様、何を悩んでいるのですか?」
俺の悩みを分かっているだろうにまたケイが訊ねてくる。
「…ケイの言う通りだ。俺はリリミア嬢に恋をしてしまったらしい。だがこれは許されないことだ。俺は王子としてそろそろ結婚相手を決めなくてはならない。
国にとって有益な相手と。
彼女は……、子爵令嬢だ。周りから認めてもらえないだろうな」
父である国王や国の重鎮達からは『素晴らしい相手と結婚を』と散々言われている。
つまり国の為になる相手をと期待されているのだ。
「確かに妃には高位貴族が相応しいと言われています。ですがそれは結婚相手である王や王子の足りないところを補うといった意味も含まれているでしょう。スナイル様は己の努力によって『完璧な王子』と周りから認識されています。補わなければならない所はないでしょう。
それならば絶対に求められることは周りからの祝福だけではないでしょうか。
今のお気持ちを捨てずに皆から祝福される形にする…、リリミア嬢の身分を考えれば簡単ではないでしょう。
貴族からの反発を抑えるには国民全員を味方につけなくてはいけませんから。
それが出来ればですが……」
煽るように訊ねてくるケイはとても嬉しそうな顔をしていた。
きっと人を愛することを知った俺のことを喜ばしく思っているのだろう。
常日頃から結婚は義務だと言い切る俺に『スナイル様なら責務と愛を両立出来ると思いますよ』と言っていたのだから。
うじうじ考えているなんて莫迦らしい。そうだ、自分の力で新たな道を作ればいいんだ。
「…俺なら可能だな。
いや、絶対に成し遂げて見せる!
どんな手を使っても…。ケイ、すぐに動くぞ」
「はい、スナイル様。ご指示をお願いします」
最短で最善の方法を求めてすぐさま動き出す。
リリミアに会いたかったが、はやる気持ちを抑えてまずはしっかりと調べ上げた。彼女の生い立ちや現状などを。
使えるものならなんでも利用する為には正しい情報が必須だ。
『シンデレラか…面白い。これを使おうか』
人々から祝福されるならおとぎ話の主人公もどきになっても構わない。
噂を流して国中から祝福される形を作り、外堀を埋めて逃げられないようにする。
もちろん彼女には何も知らせずに…。
彼女の気持ちは後からになってしまうが、それでも自信はあった。
好かれる自信ではなく、絶対に諦めない自信がだ。
どんな努力だって苦ではない、彼女に好かれるためならば…。
だがこれをケイに言ったら『それは心に秘めることをお勧めします。平民の間ではそれをストーカーと言いますので』と言われた。
ストーカーってなんだ??
ストーカーという言葉を調べたら付き纏う犯罪者のことだった。
それだったら心配は無用だ。証拠を残すようなヘマは王子の名にかけてしない。
それにもうそれを越えているのだから次元が違う。
◇◇◇
すべての準備が整ったのは、あの舞踏会から三日後のこと。
ガラスの靴を持ってムーア子爵家へと向かう。
本当はリリミアの足のサイズは把握していたがわざと大きめに作ったガラスの靴。
あのお転婆なら足の指を必死になって広げ『あら入らないわ、残念』と言い出すかもしれないから。
それでも可愛いだろうな。
カモノハシみたいで、くっくく。
今度はどんな表情を見せてくれるだろうかと考えていると自然と顔がにやけてしまう。
(作者のひとり言)
【とある日のケイ・ガードナー】
「あのさー、困るんだよね。なんで俺達とあのリリミアが一緒なわけ??ほら違うでしょうっ、このくびれの全く無いキョートな腰とかぽっこりとしたお腹とかさ」
王子の心の声を読み取ったカモノハシから苦情が入る。
「…大変申し訳ありません」
「王子付きの護衛騎士ならさ、ちゃんと注意してよ。それだって給料に含まれてるんだよ。仕事しないなら税金泥棒だからね!税金返してよ」
払ってもいない税金を返せと言うカモノハシ。
「…ごもっともです」
ひたすらカモノハシの怒りを鎮めるために低姿勢のケイ。カモノハシの怒りもだんだん落ち着いていく。
「まあ、いいや。あんたもいろいろと大変だ。そうだ、俺が友達になってやるから元気出しな」
「………お心遣い?ありがとうございます」
「いいってことよ。これもなにかの縁だからな。カモノハシと友達だって自慢してもいいぞ、ケイ」
そんなケイ・ガードナーとカモノハシの様子を遠目に見た王子。
「カモノハシをペットにしてるのか?可愛がるのはいいが職場にはもう連れてくるなよ。お前だけ特別扱いは出来ないからな」
「…………はい」
このケイ・ガードナーの献身を知る人は誰もいなかった。




