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「残念なことに私とリリミア嬢を結びつけてくれたガラスの靴は壊れてしまったね。
だがわざとではないのだから仕方がないな」
ち、違うわよ絶対に…。
だって叩きつけていたわ!
王子の行動を目撃していたのは私だけではない。この部屋にいるすべての人が王子が棒読みの台詞を口にしながらガラスの靴を叩きつけるようにわざと落としたのを見ていたはずだ。
私は助けを求めるように周りにいる人を見ると、やはりみんな口をポカーンと開けて王子の発言にどう反応していいのか戸惑っているのが伺える。
だが王子はそんな周りの様子を気にすることなく話を続ける。
「もう確認もしようがないけれども、あの靴が彼女の足にピッタリとはまっていたことは事実。王子である私が自ら確認したので絶対に間違いはない。
ムーア子爵夫人、あなたもその目で見ましたよね?まさかあの奇跡の瞬間を見逃したなんて有りえないですよね?」
「…………」
王子から名指しされたのに継母は黙ったまま。
それもそのはずだ、目を見開き固まっているのだから。それは彼女だけでなく義姉や王子についてきた数人の従者達もだった。
「ムーア子爵夫人、どうかなさいましたか?
私がなにかおかしなことでも言ったでしょうか…」
にこやかな表情でそう言うスナイル王子だったが目は全然笑っていなかった。圧力が半端ない。
「あっ、し、失礼しました。
おほっほほ…何でもありませんわ。
そうそう、ガラスの靴の話でしたわね。確かにピッタリでしたわ、リリミアのもので間違いないです。王子様の言葉を疑ってなんていませんですことよ、ええ全然!」
ぎこちない継母の言葉に周りもコクコクと頷いている。さっきまでは確かに王子の発言がおかしいと戸惑っていたはずなのに…。
えっ?まさか日和っているの…。
完全にそのまさかだった。
この部屋の中で一番の権力者はスナイル王子。
みな王子の発言に同調している。
彼がピッタリといえば、隙間があってもピッタリとなってしまった…。
待って、みんな見ていたわよね?
そうでしょう、こんなのおかしいわ!
周りを見渡すがみな私と視線を合わせようとせず、不自然に目を逸らす。
一人だけ目があった、それは以前私のことを逃してくれた護衛騎士ケイ・ガードナー。
『助けて…』と視線で訴えるが、笑顔を浮かべながら口パクで『頑張って!』て言ってくる。
何を頑張れとこの人は言ってるのだろうか…。
平民の星だろうが、良い人だろうが所詮は王子側の人だった。
呆然と立ち尽くす私を置いて話は進んでいく。
「はっはは、きっと新聞社からムーア子爵夫人に取材が殺到すると思いますが、どうぞ遠慮なく話してください。
この奇跡の瞬間がどんなに運命的だったかを。きっとドラマチックに語れば語るほど、謝礼を弾んでくれるでしょうね」
王子の口から出てきた『謝礼』という言葉に継母はビクッと反応する。
「しゃ、謝礼でございますか…?本当に?」
前のめりで食いついてくる継母。
「そうです、新聞社は取材に対価を払うものですから当然そうなります。
それにこれからムーア子爵家は王族との繋がりができるのですから、きっと二人の令嬢にも結婚の申込みが殺到するでしょうね」
継母と義姉達の表情が一瞬で変わる、それはもう明るいものに。
「おほっほほ~。我が家の義娘が王家に嫁ぐなんて光栄でございます」
「「光栄でございます!!」」
『裏切り者っ』と心のなかで叫びかけて『…じゃなかった』と訂正する。そもそも彼らは最初から私の味方ではない。敵ではないけれども、『微妙な関係』という言い方が一番しっくりくる。
だから彼らは裏切り者ではなく、正しくは『ちょっとそこの欲張りさん』だ。
王子はやはり評判通りの優秀な王子だった。
しっかりと外堀を埋めてから、人が欲するものを目の前に提示し上手く操る。
まさに馬に人参作戦を継母と義姉達にやってみせた。
外野を上手に黙らせたスナイル王子は私の目をじっと見つめる。
「リリミア嬢、いやこれからはリリィと呼ぼう。
あの日から君のことで頭がいっぱいだったよ。
とにかく強烈だったからね…。
これからよろしく、リリィ」
そう言いながらスナイル王子は呆然としている私を優しく抱きしめてくる。
そして耳元で私にだけ聞こえる声で囁く。
『今度は逃げられないからな、くっくく…』
これって外堀を埋められたの…。
逃げられないって、どういうこと…?
どうして私がこんな目に??
あの舞踏会の翌日から国民の間で流れていた噂と今日の出来事。そして継母は絶対に新聞社に今日の話を売るだろう。
これから私はどうなるのだろう。まったく想像ができない。そして逃げられる気がしない…。




