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継母と義姉達はどちらが舞踏会で見初められたのかと考えながら、王子の言葉を今か今かと待っていた。
その目は輝き、自分達が王子妃または王族の親戚になることを疑ってはいない。継母にとってはどちらの娘が王子の妻になろうと喜ばしいことには変わりがないのだから。
「突然の訪問で申し訳ない。訪問の目的は噂で察しているとは思うが、その通りだ。今日は運命の相手を訪ねてここまで来た」
スナイル王子の口から出た言葉は継母達の期待通りのものだった。継母は『まあまあ光栄ですわ』と喜びながら義姉達に前に出るように促す。
二人が我先にと王子の前に出ようとするが、スナイル王子は義姉達の横を通り過ぎ、部屋の隅へと歩いていく。
そこにはことの成り行きを観察している私が立っていた。
私の目の前には完璧な王子の仮面を被ったスナイル王子が微笑みながら立っている。
なぜ彼が前に???
まさかこの前のことを話していないか心配になったのだろうか。
どうやら王子は心配症なのかもしれない。
『大丈夫ですから』という意味を込めて笑顔を浮かべて軽く頷き、そっと右に3歩ずれて立ち位置変える。
すると彼も私の動きに合わせてサッサッとずれる。
む、むむっ…。
どうしてついてくるの??
あっちに行ってください、大丈夫ですから。
また3歩右にずれると彼も間髪入れずについて来る。
困ったことにもう右には壁しかないのでずれることは出来ない。
どうしたものかと思っていると、いきなり王子が跪き私の手を取って話し出す。
「探しましたよリリミア嬢。あの日私の心を奪ったくせに名前も告げずに去ってしまうなんて狡い人ですね」
「え、ええーーー?!」
おかしい、絶対におかしいわ!
名前も告げずどころかしっかり名乗ったのに。
それにグサッと言葉の刃で……。
そもそも心を奪うなんていう甘い雰囲気は一切なかった。痛いところをついた記憶はあるけれども…。
困惑するリリミアと同じく、継母も戸惑っていた。
「スナイル王子様、なにかのお間違いではないですか!リリミアはあの日、お肉を買い…ではなく大切な用事があって出掛けておりました。なのであの舞踏会には参加しておりません、参加していたのはこちらにいる二人の娘です。どうかよくご覧になってくださいませ!!」
継母の言葉が正しいかどうかこの際どうでもいい。とにかく訳が分からないこの状況から逃れようと私は何度も頷く。
「ムーア子爵夫人、間違いではありません。私の想い人はリリミア嬢です。その証拠にきっとあの日落としていったガラスの靴がピッタリと合うことでしょう」
一体なんのことだろう。
私はあの日ちゃんと革靴を履いて帰ってきたし、そもそもガラスの靴なんて持っていないので一度だって履いたことはない。
「あの…、私はガラスの靴なんて持っていませんけど…」
とにかく本当のことを伝える。
「リリミア嬢、君はなんて奥ゆかしいんだ。子爵令嬢だからってそんなに遠慮することはないんだ、身分なんて関係ない。さあ履いてみてくれ」
『お前が言うなっですわ』と心のなかでつっこんでみる。
なぜか全然話が通じない。というか聞くつもりはないようで、この状況についていけない私に構うことなく『ケイ、靴を出してくれ』と言ってガラスの靴を受け取り、王子自ら私の右足にはめていく。
まるでおとぎ話のようにすんなりと入りピッタリで…とはならなかった。
すんなりとは入ったけれども、明らかにサイズが大きい。
ぶかぶかとまではいかないけれども、歩けばパカッと脱げてしまうだろう。
ふふん、これで決まりね♪
私ではないとはっきりしたわ。
王子の意図は分からないままだけれども、これでこの茶番も終わるとほっとする。
「これではっきりしましたね」
にっこりと微笑みながらそう言うと王子も微笑みを返してくる。
「ああそうだな、君のもので間違いない。
こんなにサイズがピッタリなんだから」
はい???
ちょっと待って、本当に分からないの?
全然合ってないから!
何を言ってるのだろう?
どう見てもサイズは合っていないのは王子にも分かっているはずだ。だって彼が履かせているのだから。
もしかしたら女性の靴のサイズ感は男性には分からないかもしれない。
それならばみんなの前で歩いて、自分のものではないことを証明してみせようと思い歩こうとするが、その前に王子はガラスの靴をさっと脱がせてしまう。
そして立ち上がると『あっ、手が滑った』という言葉とともにガラスの靴を叩きつけるように落とす。
『ガッシャーンーー!!』
床には砕け散って原型を留めていないガラスの靴の破片。
「あっ、すまない。君に再び逢えた喜びから緊張しているようだ」
しれっとそう言う王子。
その表情はすまないと思っているようには見えない。それに緊張なんて微塵も感じられない。
これはうっかりではなく、明らかに故意だろう。
な、なにをしてるのよーーー!
この馬鹿王子ーーーー。




