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思えば幼い頃は本当に幸せだった。

優しい父と母がいて、数は少ないけれども使用人だって屋敷にはいた。温かな食事をお腹いっぱいまで食べられるのも、寝心地の良いベッドで眠ることも、何もかも当たり前だと思っていた。


我が家では私はいつだって『可愛いお姫様』。ただ毎日無邪気に笑って『わたしお姫様なのー』と花冠を頭にのせて走り回っていたのだから。


実際に自分がお姫様だと信じていた頃もあった。今思えば本当に子供らしい子供だったと思う。


念のために言っておくけど、決して私は馬鹿な子だったわけではない…と思っている。


  子供らしく素直だっただけ…よね…?


いい意味で私は幼い頃から前向きな性格だった。




◇◇◇



しかしそんな日常は今は綺麗サッパリ消え去ってしまっている。


私が10歳の時に母は病に倒れ天国へと旅立ってしまい、その4年後には父が事故に巻き込まれこの世を去った。私だけを残して……ならどんなに良かったことだろうか。


でも父がこの世に残していったのは実の娘である私だけではなかった。父は亡くなる一ヶ月前に二人の娘がいる未亡人と再婚していたのだ。


だから継母と二人の義姉もムーア子爵家に残していった。


『……お父様……』

『あなたどうしてっ…』

『『お義父様っ、いや、いやよ!』』


受け入れがたい現実に四人とも戸惑い、その死を心から悲しんでいた。


だが父の死をただ嘆いていられたのは葬儀が終わる時までだった。だってそうだろう、その後には厳し過ぎる現実が待ち構えていたのだから。


残念なことにムーア子爵家には、お金はそこそこしかなかった。


稼いでいた父はもうこの世にはいない。なのでお金が増える予定もない。けれども生きていく為には必ずお金は必要になってくる。


そんな状況では残された者同士仲良く手を取り合ってとはいかないものである。なんせ私と継母達は一ヶ月前までは赤の他人だったのだから。


再婚してすぐにまた未亡人になった継母は『こんなことになるなんて…』とひとしきり嘆いたあとは、無責任にも呆気なく天国へと旅立ってしまった夫への不満を血が繋がった娘である私にぶつけてくる。



「リリミア、あなたのお父様は私達が贅沢に暮らせるだけのお金を残してはくれなかったわ。不自由はさせないから結婚してくれなんて言っていたけれど、不自由どころか娘を押し付けて死んでしまうなんて…。ああ、これからどうすればいいのか…。まったくとんだ貧乏くじを引いてしまったわ」


「……そう…ですね」


「まったくあなたのお父様ときたら…」


継母の口からは延々と父に対する愚痴が出てくる、止まる気配はない。でも反論はしないで、ただひたすら相槌を打ち続ける。


なぜなら継母の気持ちもよく分かる。再婚したばかりの夫が私というお荷物を残して死んでしまったのだ、冷静でなんていられないだろう。

 

それに亡くなった理由も問題だった。

父は良い人だったけれどもちょっとお調子者でもあった。暴走している豚の前に『はっはっは、私に任せろ!』と飛び出しておきながら、軽く跳ね飛ばされ壁に頭をぶつけて死んでしまうくらいに…。


ちなみにその豚はかなり小さかったと聞いている。

亡くなっているからもう問いただすことは出来ないけれども、それでもこれだけは天国の父に訊ねたい。


『お父様、体を張ってその小さな豚を止める必要はあったのですか…』と。


とにかくそんな死因で再婚した夫にすぐに死なれたとあっては、継母だって八つ当たりをせずにはいられないだろう。


 義母様、全くそのとおりですわ。

 …お父様が、ごめんなさい…。


私は父の代わりに心のなかで謝っておく。でも継母にはそんな心の声は聞こえはしない。


「もう、ちゃんと私の話を聞いているの!リリミア、あなたのお父様のことなんですよ。実の娘であるあなたにだって責任はあると思うわ。日頃から豚には近づかないようにあなたが注意してくれていたらこんなことにはならなかったのだから」


 えっ…、そんなこと言われても…。


かなり言っていることがおかしくなっている。

どう考えても私には責任はないだろう。

でもヒステリックに叫ぶ継母は止まらない。


「ちゃんと聞いています。…お義母様の言うとおりだと思います」


もう言うべき言葉はそれしかなかった。


天国にいるであろう父が恨めしい。

どうせならもう少し優しい人というか常識的な発言をする人と再婚して欲しかった。

自分が死んで天国に行ったらまずは父に『お父様は人を見る目がないですね…』と冷めた目で伝えようと心に誓った。




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