題:7
視界の隅でイイの身体がぐらりと揺れた直後に消える。目の前に立っていたガタイの良い男に退いてもらって倒れた彼に駆け寄ると、案の定気を失っていた。
「過度なストレスが原因のようだ。寝かせておいた方がいいだろうね」
イイの横に立っていたロングコートの男が言った。怪しいながらも白髪交じりの中年が言うことには妙な説得力がある。不審な男の言った通り、見かけ上彼の体に傷は無かった。
むしろ、怪我をしたのは僕の方。男の素性は気になるが、今は倒れた功労者を介抱してやることが優先だ。
慌てた表情で駆け寄ってきたキュウにも手伝ってもらって、細身の彼を空いていたソファーに寝かせる。こんな細身で極限状態に立ち向かっていたのだから、大した精神力だ。
「おい、そいつ大丈夫か?あんたらの部屋に最後まで残ったやつなんだよな。脱出する時に怪我とかしてないか?」
先程まで僕の視界を遮っていた大柄な男がうなされているイイの身体をソファーの裏から覗き込む。単なるストレスならじきに目覚めるはずだ。
イイの処置も一段落したところで僕は待合室に集った人間を一瞥する。必ずここにやってくる彼を待とう、と提案したのはキュウだ。それに則って反対側の部屋からやってきた面々もこの部屋に残ってくれた。姿の見えない不良青年・不良少女は既に小粋な扉を抜けて先に進んでしまっているのだろう。
イイの周りには彼を心配したキュウと先の男が立っている。ケイとその幼馴染であるというシーナも遠目からイイを見ているようだった。
他の人たちはというと……壁に背を付けて黙ったままの不審な男、小学生くらいの少女、その子と遊んでいる物腰柔らかな青年、それを少し嫌そうな目で見守っているスーツの女性、そして相変わらず呑気に眠っている赤いセミロングの女性。みんながみんな、好き勝手に行動していた。
「僕も、少し休ませてもらおうかな」
ここに待機している以上は安全だと予想してソファーに体を預けると、一気に眠気が襲ってきた。どうして人間の頭脳というものはこんなに低燃費なんだか。帰ったら思い切り甘いもの食べてやろう。
一章終わり