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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
これからの世界
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英雄たちの歓談

 祝賀会場では、山海色とりどりの料理が大皿に盛られていた。本来国賓をもてなすパーティーでは、それぞれの座席に料理を運ぶのが礼儀なのだろうが……


「ややこしい! 誰は何が好みで!? そんなことを考えて料理を運んでなどいられない。もういっそ盛り付けておくから、それぞれ好きな料理をとってくれ!」


このような事情につき、会場ではいわゆるビュッフェ形式が採用された。しかし好きなものを好きなだけ取り分ける宴会はこの世界では今までなかったらしく、多種族が参加するパーティーにふさわしいとして大いに参加者を喜ばせた。





 一通りの料理を並べきり、僕も参加者としてようやく食事を始めようとしたそのとき、帝国の3将が近づいてきた。話しかけてきたのはケイレスである


「ナガト殿か、こうして戦場じゃないところでゆっくり話すのは初めてだな」


「ケイレス将軍も、料理はお口あっていますか?」


「堪能させてもらっているよ。この料理、まさかこれまで君が?」


「はい。シルメアの皆さんは人間の料理が分からないからと……」


「まいったな! 本当に君はシルメアの救世主のようだ!」


微笑むケイレスの横に立っていたジェノンも語り掛けてきた。


「ナガト殿はどちら出身の方なのですか? どちらで用兵を学ばれたのです?」


「ええと……僕はこの大陸の出身者ではありません。遠い異国から来ました。用兵は学んだことはありません。おかげでいつも行き当たりばったりでした」


「なんと独学であそこまで見事な采配を振るっていらしたのですか!? 士官学校出で鼻が高くなっていた自分が恥ずかしい。もっと勉強しなければ……」


最後にバルディアが、これまたとんでもない話を持ち掛けてきた。


「ナガト君、私の軍に来ないかね? もちろん将軍の待遇でだ。この大陸から戦火は消えたものの、世界の情勢は未だ不安定だ。最寄りの大陸ではグロリア帝国とマルキア国が長年争っていたが、近年になって急遽和平を結び、その国力を高めていると聞いている。我らも世界に取り残されないためには、成長を続けなければならんということだ。今後は君の能力を帝国のために活かしてもらいたいのだが……」


就職活動のスカウトのような勧誘がはじまった。ありがたい話だが、僕は本来は軍人ではありませんのでと、丁重にお断りをしておいた。




 会場をながめていると、用意しておいた円卓を囲っている一団が見える。ウルガルナの方々だ。


「おうナガト殿! こっちじゃ!」


声をかけてきたのはオルグだ。すでにかなり酩酊状態のようだが……


「美味い酒、美味い料理、最高じゃ! ナガト殿も一杯どうじゃ?」


「はあ、それじゃあ一杯だけ……」


僕は席に着き、注がれた酒を飲み干す。


「良い飲みっぷりですね。わたくしからもお酌しますね」


続けてヴィラが酒を注いでくる。ヴィラも顔色は変わらないが、相当酒が入っているようだ。今日分かったことは、エルフも意外とお酒好きということだ。


「見つけたドワーフのおじさん! 今日こそ前の借りを返すわ!」


そういって乱入してきたのはイゼルだ。この二人はどこかで酒を酌み交わしていたのか?そういえば鉱山都市キルゴスの講和会談の日、やけにイゼルの顔色が悪かったような……


「来たな小娘! 何度来ようと返りうちじゃあ!」


「私も参戦しようかしら。それペトラペトラぺとら」


「ここで魔法はやめてください!」


3名の飲み比べが始まり、ウルガルナ代表のゲルドラとエリナベルもそれを見てたいそう笑っている様子だった。






 酒ばかりでは喉が焼けると思い、料理にも手をつけようと思ったとき、肉料理の前で見覚えのある2名が話している。見るまでもなくアルジュラとジルヴァだ。


「……しかるにナガト殿は我々餓狼種の村に住んでいただくのが妥当である」


「いくらジルヴァ将軍が相手でもここは退けんな。ナガト殿の身柄は、我が犬人種がもらいうける」


どんでもない会話内容が聞こえてきた。僕のいないところで、僕の所有権を争っているようだ。


「あの、少しよろしいですか?」


僕が会話に割って入った。二人の視線がこちらに釘付けになる。なお、二人ともばっちりお酒の匂いがただよってくる。


「いいだろうアルジュラ殿、ここはナガト殿に選んでいただくとしよう。我々餓狼種は、ナガト殿の作るハンバーグを強く所望しておる。当然こちらに来られるのが妥当であろう」


「ナガト殿、よく考えてくれ。私たちの里も貴方が来ることを望んでいる。イゼルと共に私の屋敷で一緒に住もう。どうだ?」


その後も主張同士が延々と語られた。アルジュラ、イゼルと同居するというのは若干魅力的であったが……一旦お断りをしておいた。




 宴会場での歓談はその後も続いた。その様子は異なる種族が暮らす3国の平和の象徴ともいえ、この方々が現役でいるうちは、少なくとも再び大陸に戦乱はおこるまいと予感させた。


「少し疲れたな……」


僕は一足先に宴会場を抜け出し、自室で休むことにした。





 部屋でひとり、ベッドの上に寝転がっていると、シルメアにきてから様々な出来事が思いだされる。僕が疲れて、ベッド上にいるとき、いつもノックの音が聞こえてきたものだ。


コンコン


ノックの音? 思い出に浸っていたときの幻聴ではない。


「ナガト様、よろしいですか?」


ナガトが采配をふるった祝賀会は、大いに成功を収める。疲労困憊したナガトの自室を訪れる人物とは……? 次回、最終回です。

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