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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
これからの世界
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3国和平の実現

 大陸各地で戦争を主導した魔道旅団は、長であるメルフェトが拘束され、彼の配下フェリアル、アルフォン、オルトルも全員が戦死した。そのため組織は事実上崩壊し、帝国軍内に食い込んでいた絶大な影響力も衰えることとなった。


 戦争は各国に数多の爪痕を残したものの、魔道旅団の壊滅をもって終結した。ダレム帝国、ウルガルナ、シルメア3国の正式な和平調停式が行われることとなった。会場は各国の代表者から様々な意見が出たものの、最終的にこの戦争を終結させる中心となって立ち回ったシルメアの王都リラで行われることが決定した。






 僕はシルメアの自室のベッドでくつろいでいる……はずだった。しかしなぜか僕は、王都リラの厨房にたっていた。王都リラで調停式の後に祝賀会が開かれることになったのだが、その祝賀会の料理番を国王が僕に依頼したのだ。なぜなら調停式はウルガルナやダレム帝国からの来賓も招いているため、彼らの口に合いそうな料理の準備が必要だからだ。


「シルメアの皆さんは人間や他民族の好きそうな料理なんか分からないと。だからって僕に任せなくても……」


そういいながら僕は献立表にレシピを書き込んでいく。


「ええと、エルフには菜食で、ドワーフには酒と肉料理でいいか。帝国の方たちはバランスよく……シルメアの分は……いいか! 適当に肉を焼いておけばいいだろう!」


厨房で指示を出す僕は、いつぞやの約束を思い出した。


「ハンバーグか……たしかご馳走すると言ったな……」


僕はイーリスの丘の戦いの後、そのような会話をしたことを反芻した。


「メニュー追加です! 小麦粉と卵を! モーキンの肉はよく挽いておいてください!」


「精が出ますねナガト様」


後ろから女性の声がした。僕は振り返ってみる。


「イゼル様? なぜ厨房に?」


立っていたのはイゼルだった。僕が見慣れた甲冑姿とは違い、台所仕事に向いた格好をしている。一瞬誰だか分からなかった。


「アルジュラ様から、大変だろうからナガト様の料理を手伝うよう指示を受けています。なんなりとお使いください」


「そうですか、いま猫の手でも借りたい、いやイゼル様の場合は犬の手でと言うべきでしょうか。とにかく手が足りなかったので助かります」


「ではお手伝いさせていただきます。それからアルジュラ様からの伝言ですが、私たちの料理は大盛にしてくれとのことです」


このお願いがむしろ本命なのだろう。僕はイゼルとともに厨房を取り仕切り、料理の準備を整えていった。イゼルは僕からの指示を料理人たちにテキパキ伝達していく。彼女の指揮能力はこんなところでも発揮されるようだ。





 王都リラの玉座の間にて、3国の代表者が集い、和平調停式が始まった。シルメアの出席者は国王にリリアス、ドリトル、アルジュラ、イゼル、ジルヴァ、それから僕も一応席についている。ウルガルナからはドワーフの長ゲルドラとエルフの長エリナベル、それに帰国したオルグとヴィラもいる。ダレム帝国からは代表としてバルディア将軍が出席していた。ジェノン、ケイレスも傍らに控えている。


「皇帝陛下はおみえにならないのですか?」


ジェノンがバルディアに質問している。


「陛下は『長い夢から覚めたようだ』といって療養されている。ここ数か月の記憶がないわけではないのだが……様々な判断の根拠が思い出せないらしい。ケイレスの予見した通り、メルフェトのまじないにでも晒されていたのかもしれんな。しばらくすれば、かつての聡明な陛下にお戻りになるであろう」


「左様ですか。しかし我々は、この戦争の加害者側。いかような処遇も覚悟せねばなりませんな」





 諸侯が見守る中、国王の挨拶で調停式が開始された。国王から読み上げられた条文は以下の通りである。


・シルメア、ウルガルナ、ダレム帝国は、全軍において戦闘を中止し、軍を自国領に撤退させる

・シルメア、ウルガルナ、ダレム帝国は、それぞれが他国内で占領していた領土を返還する。

・シルメア、ウルガルナ、ダレム帝国は、今後それぞれの国がお互いの独立を保障する




「概ね形式通りの文言ですね。独立保障とは外交の用語でしたか?」


ジェノンの質問にケイレスが答える。


「ああ。たとえばダレム帝国がシルメアの独立を保障している限り、シルメアがもし他国の侵略を受けたときはダレム帝国がシルメアを守ることになる」


「つまり、お互いがそれぞれを友好国として守り合うと……単純な軍事同盟ではないのですね?」


「軍事同盟の場合、たとえばダレム帝国が他国を攻撃した場合、同盟国も自動的に攻撃側として参戦することになる。独立保障国であれば、その限りではないがね」


「なるほど。しかしこの条文を守り切るとすれば、少なくともこの大陸においては戦争はなくなりますね」


「そうなるな。しかし世界には他の大陸の国家もあるし、軍備を解体することはできん。むしろダレム帝国は大陸最大の国力をもって、他2国を侵略から守る宿命があるだろう」


さらに国王からの発表で、ダレム帝国には以下の条文が付け加えられた。


・ダレム帝国は現在保有している魔道兵器の詳細をすみやかに公表すること

・今後魔法の力を軍事利用する際は、他2国の承認を得るとともに、その技術を3国で共有すること


「これも妥当な要求だな。このためにメルフェトを生け捕りにしたのだ。彼に洗いざらい吐いてもらうとしよう」





「……以上が平和条項である!」


 最後まで聞いていたバルディアが席を立つ。


「ダレム帝国将軍バルディア殿、何か異論はおありか?」


「異論はないが、確認しておきたいことがある。シルメアはダレム帝国に賠償は課さないおつもりか?」


「なるほど。それについては私は考えたのだが……」


「私がお答えしましょう」


国王の言葉を遮り、リリアスが話し始める。


「貴国は数多のシルメア、ウルガルナ人の命を奪いましたが、私たちはあえて賠償金は要求しません。金銭で解決をはかることは、やはり国家間の友好の障害になると思うのです。その代わり、ダレム帝国の保有する技術力を他2国の発展のために投資してください。こうする方が、これからお互いの国のために有益であると判断しました」


リリアスの発言を聞いて、ケイレスが感服する。


「リリアス公の言う通りかと。金銭はもらって使ってしまえば終わり。しかし技術投資っは後々の世代にまで有益です。こちらとしてもシルメアの文化や技術を学びたいですし……良いんじゃないでしょうか?」


ケイレスはバルディアの目をみたが、返答はすでに決まっているようだった。


「良いでしょう。リリアス公の意向はしかと承った。確実に皇帝陛下に上奏仕る」




こうして3国の和平式典は幕を閉じた。


「さあ、堅苦しい話は終わりじゃ! 来賓の皆様方、祝賀会の準備ができておりますので、どうか広間へ!」


シルメア、ウルガルナ、ダレム帝国は正式に和平を結ぶことになる。天城ナガトの役目もようやくおわりが見えてきたのだが……次回に続きます。

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