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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
獣人の国シルメア編
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王都リラ防衛戦 狼騎兵の猛攻撃

 帝国軍野営地では、ジェノンのところに想定外の報告が飛び込んできた。


「敵の城門から兵が出撃してきました。王都を背に布陣しようとしているようです」


「なんだと? ただちに確認する。馬をもて」


「こちらに」


ジェノンは斥候とともに野営地を出て、眼前の状況を確認した。籠城すると想定していた敵軍が、あろうことか城を出て野戦に挑むべく布陣しているのだ。


「自分から城壁の利を捨てるというのか? だとしたらとんだ読み違いだぞ。こちらは騎兵部隊だ。野戦に応じてくれるのなら、存分に機動力を活かして叩き潰してくれる。偵察に出ている隊を呼び戻し、ただちに布陣せよ!」


「かしこまりました」


 ジェノンは有利な状況がさらに固まったと確信した。騎兵部隊のみでは城壁にこもられては手が出せなかったが、平野での戦闘に応じてくれるのなら、戦いやすいことこの上ない。目視で確認できた範囲では、敵の中央に狼に騎乗した部隊が約500、その両翼に歩兵が200ずつ布陣している。おそらくあれがシルメアが今揃えられる全軍なのであろう。数的にもこちらの有利は動かない。ジェノンの部隊は騎兵を集結させ、突撃体制を整えていった。


「何か匂うな……」


ジェノンのもとに、ケイレスが現れる。


「あえて城壁を捨ててきたことに、何か意図があるかもしれん。それとも獣が知恵を絞った末の血迷った判断なのか……何にせよ現時点では判断しかねるな」


「罠だとおっしゃるのですか?」


「罠だとしても、落とし穴を掘る時間なんかはなかろうよ。結局のところ、戦闘をもって我々を打ち破るしかないはずだ。わざわざ打って出てきたということは、戦闘を急ぐ理由があるということだ」


 疑問は晴れないが、今は戦闘態勢を整えるほうが先であった。なにせシルメア軍は、ほぼ布陣を終えているように見える。いつ突撃してきてもおかしくはない。対して帝国軍は城壁に近づく敵部隊を監視するため、隊を小隊ごとに分散させていた。なんとか再集結はさせたものの、戦列を整えるには時間を要していた。





「帝国軍も我々が打って出てくるとは思っていなかったようだな。陣形は整えはじめているようだが……配置が甘い」


狼騎兵ルプリオスの先頭に立つアルジュラが、帝国軍の初動の遅さを見抜く。


「国王陛下に伝令! 攻撃の好機、ただちに開戦の号令をかけられたし!」


アルジュラが、後方に控えたイゼルに指示を出す。


「かしこまりました。国王陛下に伝令を」


イゼルが伝令兵に言葉を発した瞬間、後方より国王の声が響いてくる。


「聞こえておるよアルジュラ殿! よかろう! いまこそ会戦だ! 突撃を開始せよ!」


「さすがは獅子王、良い号令だ! 狼騎兵ルプリオスの初陣だ! 全軍突撃開始! 私に続け!」




 ついに国王の号令のもと、戦闘の火蓋は切って落とされた。シルメア兵の叫びが、大地全体を震わせる。中央から突撃した狼騎兵ルプリオスに続き、両翼の歩兵隊も前進をはじめた。


「あの、アルジュラ様が先頭に立って敵に突っ込んでいきましたが……」


疑問に感じた僕は、リリアスに問うてみた。将軍が先頭に立って敵陣に突っ込むなんて、戦記物の創作ばかりだと思っていた。指揮官とは軍全体を見渡して、後ろで指揮するものじゃないのだろうか。もし指揮官が先頭で突撃して負傷したり戦死したりしたら、誰が部隊を指揮するのだろう。


「相変わらず勇ましいですね。ナガト様……どうかされましたか?」


リリアスは特に何も思っていないらしい。国王はどうだろう。


「彼女は強いぞ。単純な腕力なら私が勝つだろうが、何せ武芸の訓練をし続けているからな。女性であるのがもったいないくらいだ。武器を用いた戦闘ならこの国一だろう」


国王も将軍が前線で武器を振るうことに対し、何ら違和感を抱いていないようだ。


「前線で指揮官が戦って、もし負傷したらまずくないですか?」


当然の疑問を国王に投げかけてみた。


「はっはっは。心配はいらん。彼女の戦いをよく見ておくがいい」





 間もなく敵騎兵とアルジュラの部隊が接触する。国王の言葉の意図は、戦闘を見ていれば分るのだろうか。僕は視線をアルジュラに集中する。


 アルジュラを先頭に突進する狼騎兵ルプリオスはさらに速度を速め、敵軍との距離をつめていく。帝国軍もようやく陣形が整い、迎撃体制をとる形となった。お互い機動戦力同士の衝突となるが、勢いに乗っている狼騎兵ルプリオスに対し、帝国騎兵の足は止まったままだ。まずは機先を制することに成功したと言えるだろう。


「敵前列に強襲をかける! 私に続け!」


アルジュラが部下に号令をかける。帝国兵も戦闘態勢を整えようと試みるが、馬の動きが鈍い。


「突入!」


 帝国騎兵の戦列に、アルジュラ率いる狼騎兵ルプリオスが白兵戦を仕掛ける。両軍がついに接触した瞬間であった。アルジュラは先陣を切って漆黒の長槍を振りかざし、敵兵を貫いていく。呼吸をする間に一人、次の呼吸をする瞬間にはまた一人、その槍筋はまさに息をつく間もなく、正確無比な精度で帝国軍を屠っていく。後ろに続く狼騎兵ルプリオスもアルジュラの勢いに乗って槍を振るい、善戦しているようだ。その戦場は戦闘というより殺戮に近く、どんどん帝国騎兵を押し込んでいった。


「あの、アルジュラ様……めちゃくちゃ強くないですか?」


僕はアルジュラの鬼神の如き戦いぶりに思わず声を漏らした。


「心配は要らぬと言った通りであろう」


部隊の指揮官が先頭で戦うなんて、僕の常識からかけ離れていた行動だったが、あの戦いを見ると認識を改めざるを得ない。


「ちなみに部隊の指揮はどうしているのですか?」


「ご覧ください。イゼル様が部隊の中腹で、全体に指示を出しておられます」


リリアスの言ったとおり、狼騎兵の中央でイゼルが全体を統括して部隊を動かしているようだ。





「アルジュラ様がさらに敵中央に切り込んで行きました。直衛を20騎増やして援護してください」


「右翼先鋒の部隊も敵前衛を突破しました!」


「そのまま背後に回りこんで、残存兵の退路を断ってください。後詰めと挟撃して、敵前衛を殲滅します」


「左翼も善戦していますが、敵の抵抗が激しいようです。防御陣をまだ抜けていません!」


「中央後方の部隊を増援に向かわせてください。アルジュラ様は敵を薙ぎ倒しながらすすんでいます。後詰めは不要です」


「承知いたしました! 中央後方の部隊は左翼を援護する!」


イゼルは部下からの報告を次々と処理し、兵を動かしていった。アルジュラは最前線で槍を振るっているのに対し、イゼルは軍の頭脳の役割を担っている。全体の兵の数では狼騎兵ルプリオスが劣るものの、イゼルの的確な指示により狼騎兵ルプリオスは局所的な優勢を保ったまま、帝国軍を屠っていった。


アルジュラらの先制攻撃にて帝国軍前衛は総崩れ。このまま勝利なるか……?次回に続きます。

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