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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
決戦の地ダレム帝国編
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魔道塔イクリペル制圧戦 一般人の力

 僕とリリアス、それから帝国の将ジェノンが乗る昇降機は動きを止めた。最上階に到着したということか。とても長い距離を上がってきたように感じる。


「参りましょうナガト様。この先にメルフェトがいるはずです……」


僕は二人とともに最上階にあるという展望室へ向かった。




 展望室は帝都ベルザやランディア大平原を一望できる景色が広がっていた。この雄大な情景を眺めながら、悦に浸るためにつくられた空間なのだろうか。その空間の中央に、メルフェトの姿があった。


「来たのは……ジェノン将軍にリリアス公、それにたしか……天城ナガト君だったか」


メルフェトも僕たちが来たことを認知した。


「魔道元帥メルフェト、あなたの野望もこれまでです。我々に投降してください」


ジェノンの言葉を聞いてメルフェトが声を荒げる。


「無礼者が! 立場をわきまえよ! 私はダレム帝国軍元帥にて、全軍の指揮権を司る総司令であるぞ! 貴様ら賊軍の手の届く存在ではない!」


「しかし元帥閣下、我々が賊軍であるのは結構なことなのですが……あなたを逮捕する権限があるのです。あなたは先ほどランディア大平原に雷の魔法を打ちましたね? あの攻撃で多数の帝国兵が死傷しました。『味方殺し』は我らダレム帝国軍内の最大の規律違反です。投降いただけないのでしたら、実力行使で連行させていただきます」


そういってケイレスは腰の剣を抜いた。同様にリリアスも抜剣している。僕も二人に合わせて、持ってきた剣を抜いてみた。


「重い……」


以前シルメアで国王からいただいた鉄製の剣は僕が振れないほど重かったので、新しい剣をオルグに作ってもらっていた。新しい剣は刃をいくらか短くしたほか、ミリス鉱との合金にすることで、重量を軽くすることに成功していた。それでもなお、振り回すことは難しそうだが……


「賊の分際で私に剣を向けるのか? 許してはおけん! 懲罰してくれよう!」


メルフェトの杖が青白く光った。たしか彼の使用する魔法は雷魔法ダルク、直接浴びればひとたまりもないだろう。


「いかん、あれほどの高位魔法を使用した後だとういのに、まだ魔力を残していたのか!? リリアス公、避けてください!」


ジェノンがリリアスに回避を促す。しかしリリアスは動かない。


「前にみた雷は、見てから避けれられるものではなさそうでした。それに私が避ければ、ナガト様にあたります。私は以前約束しました。戦場では私がナガト様を守ると……ですのでここは引けません!」


リリアスは避けようとするのではなく、逆にメルフェトに突貫した。しかしメルフェトとの距離はかなりある。彼女の剣がたどり着くまでに、メルフェトの雷が発射されるだろう。ここで僕がとらなければならない行動は……!


「馬鹿めが! 貴様から死ぬがよい! 雷魔法ダルク!」


「おりゃあっ!」


僕は剣をメルフェトめがけて放物線上に、投げた。シルメアに来て一番なさけないかけ声とともに。瞬間、メルフェトから放たれた雷は僕の放り投げた剣に向かって伝導し、火花を散らした。


「な、なんとっ!?」


メルフェトは焦りの声を漏らす。それもつかの間、距離を詰めたリリアスは拳でメルフェトの腹部を強打した。


「ごほっ、馬鹿な、なぜ!?」


ランディア大平原の戦いで、雷魔法ダルク高位雷魔法ダルクネシアン魔鉱人造兵ミリス・ガルガントに吸い寄せられていた。僕の持ってきた剣も、魔鉱人造兵ミリス・ガルガントとほぼ同じ材質であるため、その効果を期待したのだが……結果は的中した。


リリアスはうずくまるメルフェトを拘束し、喉元に剣をあてがう。


「降伏してください。我々獣人の手は、あなたたちのように器用ではありません。手元が狂うかもしれませんよ……?」


「わ、わかった。降る、命だけは……!」


メルフェトは降伏を宣言した。ここにシルメア、ウルガルナ、ダレム帝国3つの国を巻き込んだ戦争は終結したのである。





「ご協力感謝します。リリアス公がこのような外交上の作法に通じておられるとは、思いませんでした」


「あなたち人間からみれば野蛮なのでしょうが……その方が都合の良い場面もありますでしょう?」


リリアスの返答にジェノンは笑いをこみあげる。


「その通りですな。高潔なだけが王族のたしなみではござらん。ましては有事においては。リリアス公はよく分かっておられますね」


僕は剣を投げたあとはその場にへたりこんでおり、事態をみつめていた。


「ナガト様、ついにすべてが終わりました。最初から最後まであなたのお陰です」


その言葉を聞いたメルフェトが呟く。


「そうか、我らダレム帝国の国力をもってして、本来戦争に敗れることなどありえないはずだったのだ。しかしシルメア侵攻やウルガルナ侵攻で、何者かがことごとく暗躍し、帝国軍を敗北させたと聞いている。それが君か……」


僕はメルフェトと一度、鉱山都市キルゴスでの和平交渉時に顔を合わせている。しかしあのときは道化を演じておいたので、彼の頭の片隅にも残らなかったのだろう。


「君は一体何者なのだ?」


メルフェトの問いに僕は答える。


「僕はシルメア国王女リリアス様の召喚によって参じた、『何の特殊技能もない一般人』ですよ」


ナガトらは魔道塔イクリペルにてメルフェトを捕らえ、長きにわたって続いた動乱は幕を閉じる。もう少しだけ続きます。

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