魔道塔イクリペル制圧戦 死闘を制すは魔道か同盟か
イクリペル大聖堂では同盟軍とオルトル、アルフォンらの死闘が続いていた。彼らは魔獣兵と人造兵の挟撃により同盟軍を殲滅しようと試みたが、ケイレスとイゼルの指揮のもと、ぎりぎりのところで奮戦していた。
「お前たち、ドワーフ隊を援護しろ! 彼らを人造兵の足元まですべりこませるんだ!」
ケイレスは帝国軍重装兵をオルグらのドワーフ隊の護衛につけた。人造兵が拳を振りぬく。盾を構えた帝国兵がドワーフ兵をかばって立ち塞がった。帝国兵は衝撃で吹き飛ばされるが、姿勢を低くしてかいくぐったドワーフ隊は無事であった。
「かたじけない! そりゃみんな、さっきの要領と同じじゃ! 人造兵の足腰を砕いてやれ!」
ドワーフ隊の大槌が人造兵の足めがけて振り下ろされる。石が砕ける音とともに人造兵の片足が破壊され、その場で膝をついた。
「動けなくすればこっちのものよ! さあ次じゃ次! あと3体も黙らせるぞ!」
オルグは最前線にてドワーフ隊を引っ張り、人造兵に攻撃を続行した。
「石像に槌は効果てきめんだな。わが軍の装備でも正式採用を検討してみるか……」
ケイレスは徐々に盤面を挽回しつつあると確信した。
イゼルらの戦う魔獣兵は依然として苛烈な攻撃を同盟軍に加えていた。
「アルジュラ様、そちらに一体向かいました!」
イゼルの注意にアルジュラは迅速に反応し、向かってくる魔獣兵の腕を斬りつけ、切断した。
「噛む、引っかく、体当たり……魔獣らしく単調な攻撃だな。もはや見切った」
アルジュラは、魔獣兵が攻撃の前に腕を振り上げる予備動作を狙って斬撃を繰り出していた。そのようなことができるのもシルメア軍にはアルジュラくらいしかいない。しかし最初は10体いた魔獣兵もジルヴァとアルジュラの奮戦にて数体が撃破され、残るは5体となっていた。
「ええいこのままでは……! 魔術師隊、炎魔法の使用を許可する! 魔獣兵を援護せよ! 私も行く!」
オルトルは配下の魔術師たちにも直接戦闘に加わるよう指示した。これまで魔獣兵の後方に縮こまっていた魔術師たちであったが、オルトルの命で前線に駆り出されることとなった。
「ヴィラ様、敵魔術師が炎魔法の発射体制です。一斉にきます!」
「そんな……彼ら心中するつもりですか!? 水魔障壁準備! しかし持ちこたえられるか……」
しかし次の瞬間、誰もが予想しなかった事態が起こる。
「ぎゃぁぁ!」
魔獣兵が傍らの魔術師を捕食しはじめたのである。
「ど、同士討ち!? 一体なぜ!?」
ヴィラをはじめ、その場にいる者たち全員の理解が追い付いていなかった。オルトルもその事態をみて言葉を失っている。
オルトルが今回連れてきた魔獣兵は制御困難のため実践投入が困難な個体である。特に敵味方の区別がつかないのは兵器として致命的であった。そして魔獣兵は稼働に莫大な魔力を消耗するため、常に”空腹”状態だった。そのような状況で魔力に富む魔術師が魔獣兵の傍らで魔力を行使しようとしたため、魔力をたくさん含んだ餌が差し出されたと魔獣たちは判断したのだ。
「いかん! ただちに魔力の供給を止めなければ!」
その判断はさらに逆効果であった。魔力供給を絶たれた魔獣兵はさらに理性を失い、暴虐の限りを尽くす獣となった。そしてついにオルトルをも極上の餌として認知した。
「止まれ! 止まれ! ぐ、ぐあ……」
魔獣兵の牙が深々とオルトルの胴体を貫いた。
「こ、このような……結末……とは……」
オルトルは叫ぶこともかなわず、魔獣の口の中でこと切れた。
「生命を弄んだ者にとって、ふさわしい末路であったな……」
ジルヴァが言葉を漏らすが、哀悼の念は感じられない。そして魔術師たちを殺戮し、腹を満たした魔獣兵がこちらに向かってくる。
「敵魔術師は全滅しました。あとは時間さえ経てば、こいつらは自滅していくはずです! なんとか耐えてください!」
イゼルの指揮のもと、同盟軍は最後の力を振り絞って残る魔獣兵と向かい合った。
「おりゃあ! これで最後じゃ!」
オルグの喝とともに大槌が振り下ろされ、人造兵の頭部が破壊された。
「4体すべて沈黙させました! 残るは……アルフォンのみです!」
ケイレス率いる帝国兵とオルグらはそれぞれの連携によって、ついに大聖堂に乱入してきた人造兵をすべて破壊することに成功した。
「さて後は……アルフォン殿だが、そろそろ降参していただけませんかね?」
ケイレスは棒立ちするアルフォンに歩み寄る。しかしケイレスが剣を突き付けようとしたその時、アルフォンの身体がその場に崩れ落ちる。
「これは……!」
ケイレスがアルフォンの身体を確認する。全身が焼け焦げていたアルフォンは、既に死亡していた。アルフォンは巨大人造兵起動にほぼすべての魔力をつぎ込んでいた。その後戦闘で瀕死の重傷を負い、さらにここへ来る前に庭園に設置されていた人造兵に魔力を注入して稼働させた。とうに彼の身体は限界を超えていたのである。
「最後まで戦って死んだか……。魔道旅団の連中は好かぬ輩が多いが……アルフォン、外道であったとはいえ、貴公の決死の行動は賞賛しよう……」
こうして大聖堂入り口側はケイレスたちが制圧完了した。あとは地下側だが、こちらも終わりの時が近づいていた。
「動いているのはあと2体! 皆様もう少しです!」
イゼルは最後の力を振り絞るよう、シルメア軍を鼓舞する。しかし餓狼兵もほとんどが負傷しており、もはや抑え込むのは限界と思われた。
「!!」
イゼルは魔獣兵のふと位置関係を確認すると、あるものが目に付く。
「ヴィラ様、あれを落としてください! 矢でも魔法でもなんでも良いです!」
イゼルが刺したのは、大聖堂中央の天井からぶらさがる巨大シャンデリアであった。
「お任せを! 風魔翼刃!」
ヴィラは風魔法の応用魔法を、シャンデリアを支える綱に向けて放った。彼女の手から発生した真空の刃はシャンデリアを支えていた綱を切断し、轟音とともに巨大な質量が2体の魔獣兵の上に落下した。魔獣達は超重量の物体に押しつぶされ、その動きを止めた。
「やりました……全ての魔獣兵撃破です!」
イゼルをはじめ、シルメア軍の兵たちが勝利の歓声を上げた。
こうして大聖堂に現れた敵はすべて駆逐され、魔道旅団の将オルトルとアルフォンもこの場で討ち死にした。残る敵は最上階に構えるメルフェトのみとなった。
結末は近い……次回に続きます。




