魔道塔イクリペル制圧戦 大聖堂の激闘
「さて、格好つけてジェノン君たちを送り出したはいいものの……この状況は少々まずくないかな?」
ケイレスが緊張した様子で現状をみつめる。10体の魔獣兵が同盟軍に容赦なく襲い掛かっている。なんとか勝負になっているのはジルヴァたち餓狼兵のみで、その他の兵士は絶望の悲鳴とともに魔獣兵に蹂躙されていた。特にこの戦場に投入した魔獣兵は制御困難とのことで実践投入が見送られた個体たちで、その性質は狂暴極まりなかった。
「ケイレス様、申し訳ありません! 1体そちらに向かいました!」
「こいつは、逃がしてくれそうにないな……!」
帝国軍兵士を蹴散らした魔獣兵がケイレスに向かい、今まさにケイレスに振り下ろそうとした時だった。
「……ッ!!」
一瞬死を覚悟したケイレスであったが、魔獣兵の攻撃は空を切ることになる。アルジュラが魔獣兵の振り上げた腕を一閃し、斬り飛ばしたのだ。
「ご無事か? 帝国の将……ケイレス殿だったかな?」
「"穿ち姫"か! かたじけない。九死に一生を得たよ」
「穿つだけが私の力ではないことをお見せしよう。見ろ、手足を切断しても絶命しないようだが……動きは確実に鈍くなっている。あの個体に集中攻撃だ!」
アルジュラの攻撃に帝国兵たちは呼応し、ケイレスを狙った隻腕の魔獣兵に苛烈な攻撃を加えた。猛攻を受けた魔獣兵は残った四肢を破壊され、その場で動けなくなる。
「もう一押しか……む、危ない、魔法が来るぞ!」
アルジュラが魔獣の魔力核が赤く発光しているのに気が付く。四肢を失った魔獣兵は、渾身の力を振り絞って炎魔法をアルジュラとケイレス目掛けて放った。
「水魔障壁!」
二人の前にあらわれた水の壁により、炎魔法は相殺された。間一髪、ヴィラの防御魔法が間に合い、魔獣兵の最後の攻撃を凌ぐことになる。
「屋内で炎魔法を使うとは……所詮は魔獣、見境がないですね」
ヴィラの言う通り、建物の中で炎魔法を使うことは非常に危険である。最悪建物全体に炎が燃え広がり、自身にも被害が及ぶからだ。実際に敵の魔術師たちも炎魔法の使用は控えており、オルトルとともに魔獣兵の背後に隠れているだけのようだった。
「また助けられたか……本当にシルメア軍の方々の戦いっぷりは見事だな。ナガト君が羨ましいぞ」
「ヴィラ殿、援護感謝する。ようやく一体潰したな! この勢いで次をやるぞ!」
アルジュラの激とともに同盟軍は士気を盛り返し、魔獣兵に向かって行った。
アルジュラらが魔獣兵を撃破する一方で、ジルヴァもドワーフ隊と連携することで、一体の魔獣兵仕留めていた。
「"魔狼"めっ! 魔獣兵と互角だと……!? やはりやつは怪物か……!」
徐々に押され始めたオルトルの顔に焦りが見えた。
「倒し方させ知っておれば、造作もない。オルグ殿、他の個体を引き付けておいてくれ! 1対1なら私が勝つ!」
「おうともまかしとけ! 皆、斧でも槌でもバンバン投げて応戦するのじゃ!」
大聖堂に出現した魔獣兵の強襲に一時は押されるも、同盟軍の見事な連携により形成は逆転した。このまま制圧できるかと思われたその時、さらなる脅威が大聖堂に現れるのであった。
「蛮人どもが大聖堂を踏み荒らすとは……万死に値する! 今度こそ粉々にしてくれよう!」
突如大聖堂の入り口に立ちふさがったのは、巨大人造兵内部で戦死したと思われていたアルフォンである。彼は灼熱となった巨大人造兵内で、意識を失う寸前、魔力による防御膜で覆っていた。皮膚は焼けただれ、毛髪は焦げ、肺は焼かれてもなんとか一命をとりとめていたのである。巨大人造兵の残骸から脱出した彼は、メルフェトの窮地に駆けつけるべく、大聖堂に参上したのだった。
「あいつは……人造兵の将か!? 生きていたとしも、どうしてここにたどり着けた!?」
巨大人造兵に炎魔法を浴びせたヴィラも驚いている。ランディア大平原は戦闘こそ終了しているものの、数多の負傷兵や投降兵でごったがえしており、混乱した状況が続いていた。アルフォンは巨大人造兵内部より脱出した後、重傷兵を偽って帝都ベルザ内に帰還したのである。
「アルフォン、貴公無事であったか! 早く加勢するのだ!」
オルトルがアルフォンに参戦を促す。正直アルフォンは重度の熱傷から立っているだけでも奇跡的な状態であったが、同盟軍にとってさらなる絶望を運んできた。
「貴公に言われるまでもない。庭園に仕込んでおいた人造兵を既に従えておるわ。さあゆけ! 奴らを皆殺しにせよ!」
アルフォンの号令とともに大聖堂の入り口を破壊し、4体の人造兵が乱入してきた。これにより同盟軍は前面からオルトルら魔獣兵が、後背からアルフォンら人造兵が迫る窮地に陥ってしまったのである。
「なんという状況だ……これはさすがに万事休すか?」
ケイレスが言葉を漏らした。
「ダレム帝国軍人には、諦めるという言葉があるのか?」
アルジュラがケイレスに問う。もちろん返事は聞くまでもなかった。
「軍人というものをよく理解していらっしゃる。いずれ酒でも交わしたいものだ」
「それは楽しみだな……シルメアの酒は強いぞ? せいぜい舌を鍛えておくんだな」
二人の掛け合いの最中にもじりじりと敵が迫ってくる。
「散発的に戦っていても埒があかないな。そちらの軍で部隊指揮に卓越している者は?」
「私がと言いたいが……そこのイゼルの方が適任だ」
「分かった。そこのお嬢さん! 今から采配を伝えるからご助力願おう!」
「お、お嬢さん? 私ですか!?」
「そうだ! そちらで魔獣たちをなんとかしてほしい! "魔狼"将軍の隊とエルフのお姉さんの隊を指揮して魔獣を攻撃してくれ!」
「分かりました……人造兵はお任せしてよろしいですか?」
「そちらのドワーフ隊を借り受けられれば……我が帝国兵と協力して人造兵を叩ける! こっちにまわしてくれ!」
「承知しました! オルグ様、魔獣は私たちに任せて、あの帝国の将と共同して人造兵の方を!」
「合点じゃあ! 大槌部隊行くぞ! 平原のときのように粉々にしてやるわ!」
これまで様々な部隊が入り乱れて戦っていた同盟軍であったが、ケイレスの指揮のもと部隊が整理された。地下側の魔獣兵はジルヴァ、アルジュラ、イゼル、ヴィラがあたり、入り口側の人造兵はオルグとケイレスが迎撃する布陣がととのった。それぞれの能力の強みを生かした戦法にて、迫りくる魔道兵器たちに相対するのだった。
同盟軍はオルトルの魔獣兵の奇襲をうけ、さらに背後から死亡したと思われていたアルフォンが人造兵を引き連れて現れる。魔道兵器の挟撃に、同盟軍の活路はあるのか……? 次回に続きます。




