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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
決戦の地ダレム帝国編
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ランディア大平原の決戦 雷号轟く戦場

 本陣を脱出したメルフェトは、帝都ベルザ内部にある魔道師団の本拠地、魔道塔イクリペルに逃げ込んでいた。イクリペルの最上階は帝都の中でも最も高い位置にあり、帝都ベルザ全体はもちろん、今戦闘がおこなわれているランディア大平原の全域を見渡せる展望室があった。


「連中め……もはやだれ一人生かしておけぬ。我が高位雷魔法ダルクネシオンで殲滅してくれるわ!」


 メルフェトは杖をかざして詠唱をはじめる。すると晴れわたっていた空模様が一転して、雲があたりを覆っていく。特にランディア大平原の上空を中心として、黒い雷雲が渦を巻いていた。その様子にランディア大平原で戦闘する両軍も気づき始めた。


「これは、メルフェト様の高位雷魔法ダルクネシオン!? そんな馬鹿な、我々味方ごと撃つおつもりなのか!?」


慌てはじめたのは、メルフェト配下の魔術師たちのようだ。彼らはこれから起こる事態を知っている様子だった。


「雷雲……さきほど魔鉱人造兵ミリス・ガルガントは電撃を受けて機能停止した……まさか、雷の高位魔法か!?」


 僕は戦場全体を照準として、高位魔法を発動しようとしていることを察知した。そして敵の魔術師の反応から察するに、味方をも巻き込んで灰燼に帰してしまおうとしているのだろう。魔導士たちもどこへ走って良いか分からず、ただ闇雲に逃げ惑っている様子だ。敵味方が入り乱れて混乱しているなか、ジルヴァやアルジュラ達も本陣に帰還する。


「あの巨大な人造兵ガルガントを仕留めたとはさすがだな。しかしこの暗雲は何事だ? いったい何が起こる?」


質問するアルジュラたちに対し、僕は敵が雷の高位魔法を発動しようとしている可能性について説明した。


「落雷の魔法か……それはさすがに私でも手が出せないな。ナガト殿、少しでも助かる方法はあるか?」


 僕は考え抜く。落雷であれば、通常は高い所に落ちやすいはずだ……しかしこの戦場は平野で、起伏はほとんどない。では次にどこが危ないかというと、この戦場で最も電気を通しやすい物質は……? 僕は戦場を見渡してそれに気が付いた。


魔鉱人造兵ミリス・ガルガントです! 皆さんただちに、できるだけ魔鉱人造兵ミリス・ガルガントから離れてください。その周囲に雷が集中する可能性が高いです!」


魔鉱人造兵は、メルフェト本陣に突進したものの、寸前のところでメルフェトの雷魔法ダルクを受けて沈黙したままであった。僕の咄嗟の判断を受けて、リリアスが全軍に通達する。


「ナガト様の判断を信じます。全軍反転! 戦場より離脱してください!」






「すべてを滅ぼせ、高位雷魔法ダルクネシオン!」


 メルフェトが高位魔法を唱えた瞬間、戦場全体を閃光が覆った。同時に轟音が鳴り響き、幾百もの稲妻が戦場に降り注いだ。戦場の各人はその強烈な音と光から目も耳を閉じざるを得ず、ただただ強力な攻撃に晒されたこと以外は何も分からなかった。


「これで終わりだ……この私にたてついたものは全て消えた。バルディアやシルメア軍のせいで随分と計画が狂ってしまったが、私が無事であればそれでよい。邪魔者がいなくなった今、ダレム帝国の全権は全て私のものだ!」


 雷雲が明け、戦場の視界が確保できてくると、メルフェトは違和感を覚える。自分の高位魔法で、戦場で動くものなど全ていなくなるはずであった。


「なぜ兵たちが動いているのだ? 高位雷魔法ダルクネシオンで、戦場を破壊しつくしたはずだ……!」





 高位雷魔法ダルクネシオンの発動により、すべての戦線で戦闘が終了していた。バルディアが押させていたセスメント軍も、メルフェト軍本陣の陥落を知ると、バルディア軍と距離をとって一時撤退したとのことであった。


 戦場では、3体の魔鉱人造兵ミリス・ガルガントが原型もないほど溶けて黒焦げになっており、その周囲は降り注いだ雷によって一面焼け野原になっていた。一方、落雷の範囲はかなり限定的になったようで、ナガトの判断に従ってその場を離れた者は、なんとか命をとりとめたのであった。


「シルメア軍の被害は?」


リリアスが伝令兵に確認した。


「撤退が早かったため……現在被害報告はありません。魔鉱人造兵ミリス・ガルガントの位置がメルフェト軍本陣の近くでしたので、むしろ本陣近くにいた帝国兵に被害が出たようです」


「そうですか……いずれにせよ、これで戦闘は終わりなのですね。あとは……」


ちょうどリリアスが言葉を発しようとしたとき、ケイレスとジェノンが僕たちのもとを訪れていた。


「この度はシルメア軍の奮戦、感謝する」


「こちらこそ。すごい雷でしたが、そちらの損害は大丈夫でしたか?」


「幸い我々の損害もなかった。バルディア様は背面で指揮をとっておられたし、帝都ベルザ側にいたのは我々騎兵だけだったので、すみやかに離脱できたからな」


ケイレスらの騎兵隊も巨大人造兵ジール・ガルガントから離れる行動をとっていたので、結果的に魔鉱人造兵ミリス・ガルガント付近の落雷地点から逃れることができていたとのことだった。


「それは何よりでした。残るは帝都ベルザに撤退したというメルフェトを拘束すれば、全て終わりですね」


「その通りだ……奴はおそらく、魔道旅団の本拠地、魔道塔イクリペルにいるはずだ。高位魔法もそこから使用したのだろう」


「それではただちに、魔道塔イクリペルに向かいましょう!」


リリアスの意気込みに対し、ケイレスが慎重に発言する。


「すぐにでもそうしたいのですが、イクリペルにてメルフェト直轄の魔道旅団が最後の抵抗をしてくる可能性がございます。かの場所にはこちらも大軍を送り込めませんので、できるだけ少数精鋭の突入部隊で臨みたいのです」


「少数精鋭ですか……」


リリアスは僕の方をみる。最後の詰めの場面におもむく人選を、決めなければならない。


「屋内戦闘になりそうなのですね? であれば、アルジュラ様たちの狼騎兵ルプリオスはその足を活かしきれません。ジルヴァ様、餓狼兵ウェアウルフで軽傷以下の方はどれだけ残っていますか?」


「かなりの者が傷を負っておる。満足に戦えるのは50名程度だな」


「分かりました。ではシルメア軍からは、餓狼兵ウェアウルフ50と、オルグ様のドワーフ隊100、ヴィラ様のエルフ隊100を出しましょう」


「任せとけぇ! 儂らを選ぶとは、ナガト殿も分かっておるな!」


「わたくしも異論ありません」


 僕がドワーフ隊を選んだのは、屋内が狭かった場合小柄なドワーフ達の方が立ち回りやすいという点が、まず一点だ。もうひとつは、もし人造兵ガルガントと出くわしたとき、小細工なしで撃破できるのはオルグの大槌部隊だけであったからだ。さらに魔道旅団の本拠地ともなれば、敵魔術師との交戦も想定される。そのときにヴィラの魔法で対抗してもらうことにする。もちろんすべて杞憂に終わってくれればよいのだが……。


「"魔狼"将軍が来ていただけるとは、心強い限りですな。バルディア軍からは私とジェノンが精鋭兵200を率いて向かう。戦力はこれで十分かと思います。あとは……」


ケイレスが僕の方を見て発言する。


「リリアス王女、それにナガト殿、あなた方にもメルフェト逮捕にご協力いただこうと思います。お二方はかねてより繰り広げられた3国を巻き込んだ戦争の中心人物だ。この戦争の終わる瞬間に、ぜひ立ち会っていただきたいのだが……」


僕はともかく、リリアスはシルメア国の王族。少数で敵本拠地に乗り込む戦闘に追従するなど、通常はあり得ない。しかしこれまでの彼女の性格から察するに、もはや返答は決まっているのだろう。


「分かりました。シルメア国王女リリアス、この戦争の終結を見届けさせていただきます」


「了承いただきありがとうございます。ナガト殿は……」


一同の視線が全て僕に集まった。もはや悩むこともないだろう。


「いきます。僕はこの戦争を終わらせるためにシルメアに呼ばれました。その瞬間を見届けることこそ、僕の使命と考えます」




リリアス本人がイクリぺルに赴くことになったので、結局その護衛としてアルジュラとイゼルにも同行してもらうことになった。こうしてランディア大平原の戦闘は幕を閉じ、残るメルフェトを討つべく同盟軍の突入部隊は、帝都ベルザへ足をすすめるのであった。


メルフェトが起死回生を試みて放った高位雷魔法ダルクネシオンは、そのほとんどが魔鉱人造兵ミリス・ガルガントに吸収されることになる。平原での戦闘は決し、舞台はいよいよ最終局面へと移行する……次回に続きます。

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